ep.6 「俺、なんかマズい事した…?」
「つ、強い… なんだ? あの人。礼治さんもだけど、セリナの仲間達、恐ろしすぎる!」
ジョン単独による、完璧なまでの戦闘シーンを見せられたあと。
イシュタの言う通り、それは相手の実力を誇示するのに十分なものであった。
「すごーい! 目を光らせて、しかもパッパッと移動して、ブドウとマスカットを混ぜた様な色のマントで倒してたよ!? 弓も完璧に矢を命中させていたし!」
と、一方では目をキラキラと輝かせ、大喜びのサリバも。
僕達は身を伏せていた物陰から顔を出した。
ジョンもそちらへと振り向き、まるで何事もなかったかのように僕達の元へ歩いていく一方、ここでポケットから「あるもの」を取り出した。
「しかしさっきの話、200年以上も経ってるとはな… 俺のスマホの時計じゃあ、あの日を境にずっと止まっていたみたいで、今やっと動き出したってところか」
「あー!」
僕はハッとなり、そのアイテムへと指をさした。
そういえば、ここアガーレールへ来て以来、全く見かけなかったハイテクな代物。
「それ、スマートフォン! ジョナサン、それ持ち歩いてたの!?」
「は? 持つだろ。何をそんなに驚いてるんだ?」
「えぇ何それぇ!?」「初めて見たぁ!!」
と、サリイシュまでもが目を輝かせ、ジョンの手元へと前のめりになった。ジョンは「なんだよ!?」と驚きのあまり、困り顔で後ずさりしてしまうが。
「あのパーティーのさい、メンバーはみなロッカーにしまうか机に置いておくよう、指示があっただろう? 異次元との混在を防ぐためにだ。なのになぜ持っている?」
と、ここで怪訝な表情をみせて質問したのが礼治であった。
そう。
僕達はここへ飛ばされる直前の“あの日”、夢と現実が完全に断ち切られる魔法の作用で、電波障害を起こしてはならないと各自、スマートフォンを手離していたのである。
「は!? しょうがないだろ! いつウーバーから連絡来るか分からねーんだから!」
というのが、ジョンの言い分だそうだ。あのごはんを運ぶ委託業務ね。
僕達に異変が起き、ここアガーレールへ飛ばされた推定時刻は、僕の記憶が正しければ2022年4月1日の午前0時ちょうど。
お盆や正月休みでもなければ、確かに事業所から連絡が来てもおかしくない時期であった。まず、そんな夜中に来るのかって話だけど。
――――――――――
アゲハは今回、荒野で新たに手に入れた情報を元に研究を進めるためか、はたまたマニーと交代するためか、礼治と共に王宮へと入っていった。
僕はジョンが解放された旨を他メンバーに伝えるため、住宅エリアへと出向いている。
そんな中、サリイシュはジョンが持つスマートフォンがあまりに珍しいからか、依然興味津々にその小さな画面を覗き込んでいた。
ジョンは最初こそ逃げようとしたものの、流石に諦めがついたのか、ここは大人しく画面を見せる事に。場所は
「へぇ、その人たちが仲間全員なの!?」
と、サリバ。画面上に映し出されているのは、僕達が祭典服に身を纏った集合写真。
「一応な。にしても、まさかあの清水のやつが、この国の女王を務めていたとは」
アゲハの事だ。
ちなみにスマートフォンには、他にも沢山の「思い出」が記録されている。気を取り直し、ジョンが指でスライドさせながら別の写真を見せた。
「えー!? なにその変な形の箱みたいなの!? まるで何かの動物みたい!」
「『車』だな。俺たちの元きた世界では、あちこちで車が当たり前のように走っている。人を乗せて、目的地まで運ぶ役割を担っているんだよ」
「へぇすごいな。あれ? さっき映っていたのは、もしかしてセリナ? 髪の色が…」
「おう、あいつの本来の姿だな。今は魔力で髪が白くなっているだけで、セリナの地毛は写真を見てのとおり、真っ黒だよ」
と、ジョンがここで手を止めたのは、僕が元きた世界でパソコン業務に打ち込んでいる姿。前に、ジョンにメールで送ったやつだっけ。正直、気恥ずかしい姿ではある。
でも、先住民2人がこうして興味を示すのも、なんか分かる気がするな。
なにせこの世界では全く馴染みのない、一台でほぼ何でも出来てしまう端末から異世界人たちの様子が見られるのなら、そりゃ見たいだろう。
あ、でもネット回線はないか。残念。
「やっほー! 皆に伝えといたよ。すぐ集まってくるって」
僕は役割を終え、四阿に戻ってきた。今日まで解放されているメンバーは相変わらず、スローライフを満喫している様で何よりである。
「そうか。ちょうど写真を見てた所だし、お前もこっちへこいよ」
と、ジョンが手招きする。僕は空いていた椅子に座った。
「お前、ここへ飛ばされた俺達を全員見つけるよう、ひまわり組に頼まれたんだってな?」
「まぁ、一応」
「お疲れさん。しかし災難だな。元の世界と2分割するかと思いきや、こんな事になって」
といい、フレンドシップの一環で僕の肩を掴むジョン。
ひまわり組―― 僕をこの異世界へ送り込んだ、上界を管理する神々のことだが…
「ん? おい、ちょっとまてセリナ…!?」
ここで、ジョンが何かに気づき、僕の両肩を掴んできた。
一体なにごと!? 僕、何かまずい事でもした!? と一瞬混乱するが、見るとジョンの左目が、今度は赤く光っている。
確か、右目が青く光っている間は「未来予知」だから、この場合は…
「なぜだ? 宿主入りをしているはずなのに、お前の元きた世界が、見えない…!」
「え?」
おっと!?
ジョンの特殊能力の一「宿主入り」とは、自身が触れた相手の五感を追体験したり、その人の脳内を読み取る力のことだ。
未来予知とは違い、こちらはその人の過去や並行世界も探れるため、下手をすればウソや隠し事もジョンにバレる事に… なっちゃった!
「まさか… 俺たちの世界、みんな消滅したとかじゃねぇよな!?」
「いや、まだ分からないって! でも、それは嘘でも口に出したらマズいやつ…!」
僕は焦った。いつか、前世が読み取れるリリー以外から「元きた世界の消滅」を指摘されたらどうしようと思っていたが、まさかジョンがすぐその事に気づくなんて!
いや、今ならまだ口を塞げば間に合う! とにかくその悲しい事実を、元きた世界で愛する家族がいる仲間達の耳に入るのだけは…!
「…」
「げっ!」
僕の視界に、今一番この場にいてはならない人物が映ってしまった。
アゲハだ。彼女は今でこそ気丈に女王を務めているが、元きた世界で養子を育てていた…
「あ、まってアゲハ…!」
アゲハが突然、無言で
僕はジョンの手を解き、すぐさまアゲハの後を追った。
だが時既に遅し、アゲハはすぐに王宮へと続く門を閉めていったのである。
「そんな…」
僕はアゲハを見失い、その場で膝を落とした。
まだ不確定要素だから、皆には言わないでおこうと思っていたのに、よりによってジョンの能力で
――リリーが前世を上手く読めなかった
今にも、涙が溢れそうになる。
なぜなら僕自身も、元きた世界の兄弟、そして友人との「別れ」を意味しているから。
「女王様、一体どうしたのかな?」
「さぁ。手になにか冊子を持っていたけど、何しに来たんだろう?」
と、サリイシュも心配そうに見つめる。同時にジョンも、
「あっ… 俺、もしかしてマズい事いっちゃったか…?」
と、自らの軽い口に気まずさを覚えたのであった。
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