ep.24 からくりに溶け込んだ“奥の手”

 その頃後方にいるジョン・カムリや若葉、リリルカは、僕達とはまた別の問題にぶち当たっていた。


 ガラガラガラ、ガッシャーン!

「みぎ!」

「「はい!!」」

 ギギギギギギ…!

「次、ひだり!」

「ほいっと、うわ怖っ!」


 と、からくり城さながら、何処かの仕掛けの作動音をきいたジョンが指示し、それに合わせて移動するリリルカと若葉。

 その瞬間、彼女たちが元いた場所から氷柱が伸びてきたり、床が抜けたりした。

 この暗黒城は主だけでなく、城の内装までもが牙を向くという、厄介なダンジョンである。


「ノア! 外の様子は!?」

「青と見せかけての赤だ! それも大分ためている・・・・・!」

「なるほど!?」


 と、一方では悪魔達の退治に追われているアゲハの質問に対し、ノアが大剣で襲ってくる氷柱を壊しながら答えた。

 僕もそうだけど、透視能力があるので、どこから攻撃が来るかは概ね判断できる。


 ちなみに今の会話は、先のアゲハの指示で行われた透視結果の情報共有だ。

 青は「氷」、赤は「肉」――。つまり冷凍保存。


「無駄よ!」

 シュルシュルシュル~!


 今のチアノーゼの詠唱と音。まずい、僕が大嫌いなシアンの技だ!

 すると轟音とともに地面から伸びてきたのは、黒い茨状のデカくて固いとげとげ。


「これ、キライ!」

 僕はそう叫んだ。早くて鋭いイバラには苦戦を強いられる。

 流石に炎で溶けない魔法攻撃が相手では、護衛がノア1人にしわ寄せがいってしまう。

「こうなったら!」

 仕方がない。部屋がとげとげ塗れになる前に、チアノーゼを討伐しないと!

 僕は玉座へ向かい1人突進した。自分を倒す事を条件に出されたならもう、遠慮はナシだ。


 カキーン! カキーン!


 僕は剣を振るい、チアノーゼに攻撃した。が、攻撃が当たらない。

 向こうも向こうで、身軽な剣で対抗しているのだ。だが、こうなる事は想定内。

「そこ!」

 僕は更に剣術をお見舞いした。次にどんな攻撃が出てくるのかも予知しながら戦った。


 カキーン! カキーン!


 玉座から、そんな2人のつばり合いが木霊する。

 魔力は置いといて、物理性能でみるとほぼ互角か。となれば、あとはこのまま外へ追いやるために押していけば…!


「なるほど。さては『奥の手』を知らないのね?」

 そう、チアノーゼが冷や汗気味に呟いた。


 奥の手とは、一体?

 するとまたしても、彼女が身に着けているクリスタルが発光したのだ。しかも今度は眩しい。もしかして、中の魂が今の発言を聞いて慌てている…?



 ――!?


 僕はこの後の未来を「予知」した。

 が、それは何故か真っ暗で、何も見えない。だけど、全身が熱く感じた様な…


「まずい!」


 今のジョンの声で、僕の脳裏が未来から戻った。次の瞬間、

「溶けろ!」

 と、チアノーゼが手をかざす素振りを見せた。が、

 プシューン!

「うっ!」


 また何か魔法を発動しようとしたチアノーゼの手を、ジョンの放った矢が掠ったのだ。

 チアノーゼの手の甲に、皮膚が裂けたような傷ができ、出血が起こる。

「危ない!」

 ジョンが横から僕の胴体を掴み、ともに玉座からワープした。

 すぐにチアノーゼが負傷していない方の手で、再び僕がいた方向へと手を翳した。


 バッシャーン!


 僕とジョンはギリギリ避けた。チアノーゼの掌から発現されたのは、まさかの水鉄砲?

 予想外の技が繰り出されたのだ。が、それは奥にいた若葉の髪先にかかる。


 ジュワ~

「へ!? ひぃ! ちょっと、なにこれぇ!?」

 若葉が城内にいる悪魔達を退治したタイミングで、自身の首から下に伸ばしたお下げ2本が焼けていくのに気づいた。

 そして、それらは毛先をポトッと落とし、床に穴が空くほどなお煙を上げ続けているのだ。さっきの水鉄砲が当たって、すぐの出来事。ジョンが叫んだ。


「触るな! そいつは硫酸だ! 当たったら死ぬぞ!!」

「えぇぇぇぇ!?」


 なんと! 若葉の髪に付着したその水鉄砲の正体は、強力なアシッドアタック。チアノーゼには、そんな恐ろしい魔法まで備わっていたのだ。

 先程、僕がほんの数秒先の未来予知で視界が真っ暗だったのは、その硫酸を被って失明したから、なのだろうか? だとしたら下手に近寄れないじゃないか!


 僕達は全員警戒した。

 すると彼女の手には、いつしか更に大きな硫酸の玉が浮遊した状態で発現されていたのだ。

 そして総てを見下ろすような目で、こういう。


「もう、茶番はここまで」


 その冷め切った口調。そして、戦闘に余裕のある表情。

 この様子だと次に来るのは… 凄く嫌な予感!


「とりゃあぁぁぁ~!!」

 ~♪!


 僕はアゲハ同様、大量の虹色蝶を生み出し、それを渦に仲間達を包み込んだ。

 そして大量のウィンドチャイム風の音が鳴る中で手を引くと、この場を退散したのだ。

 このままだと確実にやられる! そう思い、急いで逃げたのである。


「させるか!」

 ズシャーン! バリーン! バシャーン!

 チアノーゼは玉座からの遠隔で、氷柱やイバラ、そしてアシッドアタックを繰り出す。

 だけど、僕達はそれを死に物狂いで躱しながら、城からの脱出を試みた。


「見えた! 外への扉はあっちだ!」

「曲がったらジャンプしろ! そーれ!」

 未来予知で次の攻撃がどこから来るか分かるジョンと、透視で間取りを見通すノア。

 みんな多少は先の戦闘で負傷しているけど、上記2人の連携によって、なんとか城外へと出る事ができたのである。




「くそっ! また逃げられた」


 チアノーゼの魔法が、再び縮小する。

 同時に、城内でガラガラガラと作動音が鳴り、硫酸によって腐食した壁や床が別のものへと置き替えられた。

 からくり城だから、主の意思で全てカバーされるのだ。まるで何事もなかったかの様に。


「私に、傷をつけてくるなんて…! でも、不利な状況にはできたはず。あのオス猫の予知能力、あいつが厄介だ… 本当は、潰したかったけど、まぁいい」


 そう息を切らしながら、自らの負傷した手の甲を押さえる。

 本業がモデルの女性なら、これだけでも相当な痛手だ。だが、そこは吸血鬼。彼女は地下へ続く階段へと歩き、こう囁いた。


「再生が、遅い… 血を摂らなきゃ… まだ、控えは沢山ある…!」




 ――――――――――




「えぇぇ!? 地下に氷塊で封じられた被害者達が!?」


 その頃。外へ出て、虹色蝶の大群をフェードアウトした僕達は、今回の苦戦で得た情報を共有していった。

 リリルカの驚きの反応に対し、ノアがコクリと頷く。


「恐らく、国が厳戒態勢で来る事は予想していたのだろう。勢力が衰えたように見せかけ、実は回復のための養分をストックしていた。それなら、あの余裕な言動にも説明がつく」

「はぁ!? こっちはお下げ溶かされて最悪なんだけど! 髪は女の命なんだぞ!?」

「まだ髪で済んだだけ良かったよ。もし、あの酸をモロに食らったら…」


 と、ノアが悲しい表情で若葉を慰めた。

 今の若葉はボロボロのロブヘアーだ。そこは確かに可哀想だけど、顔や肌の景観を損なわれる被害を受けなかっただけ、本当に良かったと思う。しかし、


「はぁ… はぁ… くそ!」

 ジョンが息を切らし、自らの傷口を押さえながら苛ついている。

 辛うじて歩けるけど、未来予知で僕達を救ってくれた代わりに、誰よりも多く負傷してしまったのだ。帰ったら暫くは療養か。


 しかし、一体どうしたらいいんだ…

 まさか、敵があんな「奥の手」を使ってくるなんて予想外じゃないか。アゲハも凄く悔しそうだし、結局振り出しに戻ってしまった。


 このままだと、またやられるだけ。何か、他に対処法を見つけないと。




 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 14 個】

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