二人の会話
ブラスターの仕事場兼自宅。図書館は大騒ぎで、マリアはいなくなったと聞いた。昨日、衝撃的な話を聞いたが、それ以上はウイリアムが語らず、別れていた。再び見つけたウイリアムに取りあえず、もう少し話をしないかと、再び此処に落ち着いた。
「昨日、マリアが図書館の魔女だって話をしたよな。でも、そんなことありえるのか? 彼女はちゃんと生まれてから19年間の記録があるだろう。履歴が不明なら、その時点で試験は受けられないはずだ」
「だから、仕組みはわからないって言っただろう。だけど、その証拠はある。代々の写本係の魔力が、マリアと同じだと気がついたんだ」
「そんな事はありえないだろ」
「そうなんだ。魔力は一人ひとりが指紋のように違う。だから、ありえないんだよ。同一人物でない限りは。
代々の写本係が本に残した魔方陣の魔力は、同質だった。各所の図書館に行き、幾つもの年代の写本で何度も確認したんだ、間違いはない」
「なあ、お前これからどうするんだ」
「当面は、マリアを探す。その前に、残っている手続きなどの関係があるのでそれを済ます。で、一旦は国に帰る」
「国に帰るって、お前の国はここ、第七王国だろう」
「いや、今は第一王国だ。元々母が第一王国の人間で、里帰りしていた時に俺が生まれたんで、両国の国籍があった。今は第一王国のみになっている」
「はあ? それは知ってたが、学院を卒業した時に第七王国、選んだだろう。確認したぞ」
ブラスターの突っ込みに、全く動じず淡々と続ける。
「卒業後、ドタバタがあって、手続きが未完になっていたんだ。元々、第一の国として第七王国にはなっていたからな。その後、落ち着いてから第一王国に決めた。まあ、つい最近の事だがな。関係者は、どうも俺の二重国籍を把握していなかったらしい。そのままになっていた。
両親はすでに隠居して第一王国で暮らしている。弟は第七王国に残って家を継いでいるがな」
「詐欺だ。お前は何をやった」
「詐欺は、魔法省の方だぞ。俺の特許料を搾取してたんだから。誰がどれだけ金を手に入れたか、全部調べ上げた。ちゃんと違約金も含めて返済してもらえるように、な」
悪い顔で笑う。
「うっわー。どうやったん。教えて」
「秘密だ」
ニタリと笑った顔に、怖気たった。
「お前みたいなのに、知らずにとはいえ喧嘩売るなんて。自業自得とはいえ、気の毒になるな。
お前が恐喝とかで訴えられたって聞いた時は、冗談かと思った。そんな目に見えるような、人に尻尾を捉まえられるような事はせんだろうてな。
お前は、昔っから裏から手を回して、本人が気づかぬところで嵌めるような奴だろう。恐喝とか暴力とは、お前に一番遠い話だと思ってたもんな。
俺、絶対、お前とは敵対してはいけないと思ってた。
ま、学生と権力者の違いは大きかったがなあ。それでも、今回の絵描いたやつ、杜撰だなあって思うわ。お前のこと見誤っているよな。
そうはいっても、数年は温和しくしていて、牙を抜かれたみたになってたけどな。
お前にしてみれば、自分がああも簡単に嵌められたのが、信じられなかったんやろな。それに、あいつらは目的を達成したんだろ。図書館は失敗したみたいだけど」
彼の言葉を聞いて、ウイリアムが不機嫌な表情になる。
「後手に回りすぎた。少し、気が抜けすぎてたよ」
ボソッと悔しそうに、呟いた。
「お前にも人間らしいところがあったんだな」
「そういう、ブラスター、お前はどうするんだ。マリアのことを報告するために国へ戻るのか」
「俺がこの国へ来た目的はな。魔術関係の情報収集だったんだ。それに加えて、お前を引き抜けないかってのもあったが。まあ、それについては色々とあったし。
地下書庫が無くなったなら、もうこの国に残ってても仕方が無いよな。
だが、マリアちゃんについては、純粋に個人的な問題だ。
報告義務はない! というか、何も報告してないんだよ、今までだって彼女に関しては。
今回のことも、俺は何も知らない。俺は何も聞かなかった。
それから、俺もマリアちゃんを探す。お前がライバルだろうと関係ない」
バッキバッキに喧嘩を売るかのように、威嚇してそう答えたブラスターだったが、肩透かしを食らった。
「いや、こう言ってはなんだが、魔法ならマリアこそが要だぞ。まあ、お前がそう言うなら良いが。
それと俺がマリアを探す理由は、お前とは違う。マリアは俺と縁ある者だからだ」
呆気にとられたブラスターを放って彼は続けた。
「俺は碧の魔道師を引き継ぐ者だ。碧の魔道師が誰を主としていたのか、伝承が途絶えてしまい長いこと判らなかったんだ。それが図書館の魔女を主としていた系列の者なんだということが判った。
多分、俺の予想だが今の彼女の力は不安定なはずだ。だから早く見つけ出さなければならないんだ」
「不安定って、どう言うことだ」
「彼女自身は、多分、図書館の魔女が自分自身だったと自覚したのは最近の話だと考えている。彼女の写本や写しは、他の写本係が残したものと比較すると未熟だ。写本には、写本係の名前と写本した年が書かれている。それで調べてみると、初期は皆未熟なんだ。それが段々と同じモノを写しても質の高いものになっている。
多分、写本係になった時点で記憶や能力が白紙になっているんだと考えられる。写本をすることで徐々に魔女としての力などが蘇ってくる仕様だと予想している。
だから、まだ三年目の彼女が万全とは思えない。早いところ見つけ出さないと。
図書館の魔女が、この国の、いやこの大陸の魔力の根源かもしれないんだ」
ブラスターはまだブツブツと何か文句を言っているようだ。マリアに関して、色々とウイリアムが先んじていることが気に入らないのだろう。それを見て、ほうっとため息をついた。
「よく、一緒にお茶を飲んでたんだ。マリアは嬉しそうに焼き菓子を食ってるんだ。俺が行くと減るって怒る癖に、皿いっぱいのクッキーを出してくるんだ。
それで美味いと言うと、嬉しそうに笑うんだ。あれが、演技とは思えない。無茶苦茶子供っぽかったしな」
「お前、なんちゅう羨ましいことを」
ブラスターが歯がみしながらうめいた。付け加えた部分は完全に当てつけだった。
ブラスターは、拠点を第一王国に変える。その後、店を持ち魔方陣の取り扱いを始めた。ブラスター商店で扱われる魔方陣は、どれも一級品で、かなりの評判となっている。各王国にも支店を展開していく事になる。
特許の魔方陣も豊富で、かつては第七王国でしか手に入らなかったものが、第七王国以外では手に入れやすくなった。
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次回更新予定は11月28日です。
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