第23話 王立図書館閉館
王太子の死亡はどうも確定したらしい。確認されたとの報道があった。その後、病で伏せっていたと言われている国王の病死も報道された。早すぎる王太子の死がショックだったのではないかと言われている。
一連の出来事がパタパタと積み重なっていく。
王国の結界は王の死後、半年間から一年は維持されると言われている。そのため、次の王をその間に決めなければならない。
そして、半年間の喪が明けた後に王弟が国王に即位することが決定した。それに先んじて、結界の切り替えが行われるという。
新聞を読みながら、陰鬱な表情でシンディが言う。王立図書館内では、王弟の評判はあまり良くない。現在、グリアモール図書館に貸し出されている多くの本が、きちんとこの図書館に返却されるのかについても、怪しくなってきたと言う者もいるぐらいだ。
「この先、どうなるんだろうね」
「そうだね」
マリアは何か考え込みながら、モソモソとサンドイッチを食べていた。食べ終わると、
「ちょっと、館長室に行ってくるね」
そう言って、地下書庫へ向かわず上の階に上がっていった。
「珍しいわね」
シンディはちょっと気になったが、自分の仕事へ向かう内にそんな些細なことは忘れてしまった。
それから、1ヶ月が経った。突然、朝礼で館長の交代が告げられた。昨日までそこにいた前館長の姿はそこにはない。
しかもその新しい館長は開口一番に、
「この国立図書館は3ヶ月後に閉館する」
と告げた。館員達はざわめいた。
そうした館員達を睥睨し、新たな館長は言葉を続ける。
「館員諸君の次の職場については、責任を持って手配する。そのため、これから一人ずつ面談を行う。面談する者以外は通常の業務を行って欲しい。貸出などについては、今日より停止する。返却のみを受け付け、開館時間を短縮する」
350年という歴史ある図書館の閉館は様々な場所に多大なる影響を及ぼすだろう。この図書館しか存在しない文献も数多くある。
こんな短期間で閉鎖に踏み切るとは、国は何を考えているのか。そもそもこの王立図書館の閉館を、勝手に決定して良いのか。
名こそ『王立』となっているが、各国に1館毎に配置されている独立機関である。このような一方的な決定は、各国のネットワークから、外れることを意味する。
地下書庫だけは、この第七王国の図書館にしか存在していない。だから、第七王国の図書館は特別ではあった。
第七王国の王立図書館では、地下書庫にある原本を読む為に、他国からも来やすいように、特別な転移方陣も用意されている。
各国の図書館内第七王国の図書館を結ぶものである。その転移方陣は、本日封鎖するため、魔法省から人が派遣されると告げられた。
第七王国による地下書庫の簒奪行為ともとれる。
図書館員達は新しい館長に不審の目を向けた。館長が昨日の今日ですげ替えられている事も、その館長がこの場に居ないことも疑心暗鬼に拍車をかける。
「前館長には、公金横領などの嫌疑がかけられている。その調査のため、ここには来ていない。
この図書館の閉館については前々から検討が成されていたことである。そういった情報も前館長は君らに何も伝えていなかったのだ。
それから、この図書館の蔵書は一旦すべて王家所有物として扱い、整理される事になった。
その後、新規にできたグリアモール図書館を始めとした、他の図書館などに再配備される事が決定している。その事業に関わりたい者、或いは図書業務を続けたい者など、希望は尊重するので面談の時に申し出て欲しい」
先日、王太子が事故で死亡し、その直後に王が急逝した。新たな王は王弟となったが、どうも色々とキナ臭い話を纏っている。新しい館長は、軍務省から派遣されたというのもうさんくさい話である。
昨日まで、前館長は何も言っていなかった。それに、前館長が公金横領と言うが、本当だろうか。
また、王家と図書館は関わりがない。それを所蔵図書が王家預かりになるのもおかしな話だ。
図書館の閉館が、こんな形で通達されるのも、おかしい。しかし、ここで騒ぎ立てても無駄だろうし、下手に目をつけられれば今後に関わるだろう。
図書館員達は思考を巡らせ、不用意な言葉を発する者はいなかった。実は、万が一、国が図書館に手を出してきた場合は、速やかに従うべしという条項が、就業規則に盛り込まれているからだ。これは、図書館員の安全を守るためのものであった。
端っこで、この演説を聞いていたマリアは、大きなため息をついた。
業務に入る前に、地下へ向かうマリアをシンディが引き留めた。
「マリア、あなたはどうするの。地下書庫は貴方がいないと駄目だと思うから、多分協力を要請されるのではないかとは思うけど」
「どうかな、それは判らないよ。地下書庫に入れるのは私だけじゃないもの。それよりもシンディはどうするの。どこかの図書館に行くの? 」
シンディは一つため息をついた。
「私は、この図書館が良かったの。子供の頃からずっと、ここの司書になるのが夢だったから。でも、今回のことは、ちょっとどうかと思う」
少し考えて
「ねえ、マリア。もし、貴方がここを辞めるのならば一緒に第一王国へ行かない? ここが無くなるならいっその事、第一王国で新しく始めるのも良いかなと思うの。一緒に行かない」
マリアは、誘って貰ってとても嬉しそうに笑った。
「ありがとう、シンディ。なんか一人一人面接するとか言ってたよね。それの話を聞いてみてから、それと合わせて考えてみる。誘ってくれてありがとう。でも、私はいい学校も出てないし、写本しかしてないからな。第一王国に行っても、上手く仕事を見つけられないかも」
「そんなこと無いわ。私ね、本屋を始めようと思うの。実は、母からも第一王国に引っ越さないかって勧められていたから。その時に、そんな話もしていたの。だから、一緒に本屋をやらない? ちゃんとおやつの時間は作るわよ」
「シンディは、本当に本が好きなんだね」
「そうよ、だから本に好かれるマリアを誘うのよ。本気で考えてみてね」
「うん。ありがとう。でも、ウイリアムさんだったら、シンディがお菓子屋さんになるのを勧めそうだね」
「マリアったら」
ちょっと頬を染める彼女が可愛いなと思うマリアだった。
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次回更新予定は11月18日です。
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