第11話 ブラスターのお仕事相談
魔法士のブラスターも地下書庫の常連の一人だ。魔法士は魔法省に勤めている官吏だけでなく、民間の魔法士もいる。彼は民間の魔法士だ。
ブラスターは何でも屋的な付与魔法士だ。本人がつかえる魔法は、付与魔法と火魔法だけなのだが付与する魔法は何でもアリだ。魔方陣の形を取らせてから付与するので
「誰にでもできると思うんよ」
と気軽に言う。
だが、一般的には魔方陣を使っての付与ではその能力が元の力と比較すると落ちてしまう。だから、自分のもっている系統の魔法中心に付与することが多い。
だが、彼の手に掛かると魔方陣を使っているとは思えないほどの効き目がある。彼は魔方陣を見るとそれだけで、理解できるのだと嘯く。
「そりゃ、ちゃんと理解して付与してるからだよ。他の連中とは格が違うのさ」
だから、何でも屋として周囲から重宝されている。
彼はちょっと変わっていて、この地下書庫に本を読みに来てるのかお喋りに来ているのか、判らないところがある。
閲覧室に籠もって本を読んでから、マリアの処にやって来て話をしだす。人に話しかけると、頭の中で纏まるんだと主張はしている。だから、彼が来るとマリアはあまり仕事に集中できない。
だが、彼の仕事の話や彼の使う付与魔法の話など、マリアは面白がって聞いている。それに、いつも紅茶とケーキを持参してくる。
「で、簡易建築物にかける付与魔法がなあ、問題なん」
「何がですか」
「森の中に、魔獣がまだ出てきてないあたりなんやけど、そこに建てる建物に付与してくれっていう依頼なん」
「そんな事、ここで話しちゃって良いんですか」
「構へんよ。マリアちゃん、誰にも話さんやろ。それに、なんかアドバイスもらいたいし」
「どんな建築物なんですか」
「なんでも実験の経過を観察するためのものなんだと」
求められているモノは、建物自体は短期間で作成でき、そこでの生活に耐えうるものであるらしい。そこへ防音、防魔、防衝撃、断熱などに優れ、獣に気が付かれにくくなるように付与してくれという依頼だという。
「なかなか、贅沢な依頼ですね」
「そうなんだよ。お偉いさんは言うだけだから簡単なんだけどさ」
ブスッとした調子で続ける。
「数が多いだけなら良いんよ。問題なのはその場に俺が行って付与することが駄目なんだと。持ってく材料に付与してそうなるようにしてくれとか、訳が分からん」
「それは、無理難題な」
聞いていたマリアは絶句した。その話をもってきた人物はきっと付与魔法というのがよく分かっていないのだろう。
材料に付与魔法を掛けても、その掛けた材料個々にしか効果は無い。
しかもそれを全体的に組み上げた場合、その掛けられた場所によっては、お互いに打ち消し合ってしまう可能性もある。
一度組み上げた物に付与したとしても、それをバラしてしまえば、付与は消える。
「もう、巫山戯るなよと言いたい」
「言えばいいじゃないか」
「言えるような相手じゃない。この仕事、失敗したらこの先公共関係の仕事全滅するかもしれん。
まあ、そうなったらそうなったで、いいんだが。あれ、その方が面倒が少なくなって、いいか? 」
「で、ここに来て、付与魔法から魔方陣関係を片っ端から調べ直していると」
ブラスターはうなだれながらも、頷いた。
「組み上がったら、壁とかに魔方陣が描かれる形にして作った人に魔方陣を起動して貰うっていうのは? 」
「あのな、組み立てて魔方陣を描くだろ、でバラす。それを建てたい場所に持って行って組み立てる。
それも考えたけど、再組み立ての時に魔方陣がキチンと再現できるかどうかは判らん。立て直したヤツの腕による。
多分、一つ二つならば出来るかも知れん。でも、全部をキチンと復元できるほどの人間が作るとは思えん。俺を連れて行かないっていうぐらいだぞ。で、再現できたとしても、キチンと魔方陣を作動できるか、この点が問題」
「で、再現できなかった責任は、ブラスターさんになる訳ね」
「マリアちゃん、そんな他人行儀に名字で呼ばないで、サムって呼んで。
でも、そう、責任は俺になる」
「他人ですから、ブラスターさん」
「冷たいなあ。そんなつれない処もいんだけど。
それに、例え全部上手くいったとしても、付与するヤツが上手くできるとは限らん。同じ物に幾つも付与するのもコツがいるからな」
ぶすっとした表情で、
「大体、俺が付与するからきちんと作動するんだよ。それを、俺抜きで成功させろっていう方がどだい間違いなんだ」
頭を抱えた彼を見ながら、お代わりの紅茶を注ぐ。ウイリアムと違って、お菓子はあまり減らない。
マリアは美味しくケーキを頂きながら、テーブルの上を眺め、
「ティーポットカバーみたいに、上からポフッとかぶせられればいいんですかね」
ブラスターはガバッと身を起こす。
「上から、パフッ……」
彼はメモを取り出すと、バーッとアイディアを書き出した。一通り、ブツブツと言いながらまとめると、
「ありがとう。何とかなりそうだ。上から建物を布状の付与したもんで囲うことで、建物全体に付与が回るように…。いや、逆に床に敷いてっていうのもありか……。できそうだ。
森の中って言ってたから、丈夫な布状の物の作成とか、持ってって貰う時に色々と注意事項とかもいるかもしれんが」
ブツブツと頭の中で考えていることがこぼれている。早速、形にするために帰ろうと荷物をまとめ出した。
「建物って森に建てるっていってましたよね。あの魔獣の研究ですか」
「あ、知ってるん。そうなんだって。その関係で、魔獣よけの魔方陣とかいうのも使うって言ってた。
それは支給されるから、それを後から足せるようにしてくれとか言われてたな、そういえば」
ブラスターはベラベラと話しているが、本来は極秘事項では無いのか、と思わなくも無かった。だが、ここで聞いて良かったかもしれない。
帰ろうとするブラスターに少し待ってもらい、彼女は棚から2枚の紙を取り出した。
「魔獣除けの魔方陣っていう話ですが、先日、第二王国の魔物溢れの話を聞いたんですよ。その時、魔獣よけの魔方陣として領主が買ったのが、魔獣や獣を凶暴にする魔方陣だったって話だったんです。
それで、調べたんですけどね」
マリアは2枚の魔方陣が描かれた紙を見せた。
「こちらが魔獣除けの本当の魔方陣、こちらが魔獣や獣を凶暴にする魔方陣です」
「ちょっとまて、魔獣除けの魔方陣って、軍務省が開発したんじゃ無かったのか。ここにそんな魔方陣を記した本があったんか」
「ええ、調べてみたんです。魔獣とかに関する本じゃなくて、全然別の系統の処にこの魔方陣があったんです。古い時代の生活一般に使われる魔方陣の本にあったんです。びっくりしました」
「そんなところに……。ホント恐ろしいな、ココ。今度見せて、その本」
「昔はもっと魔獣が生息する地域が広かったのかも知れません。多分、森に入ったときの用心で作られたけど、忘れられてしまったのではないかと」
「これ、貰えないか」
「はい。写しの代金を頂ければ、問題ありません。これ、このままでも使えますよ。ちゃんと機能は確認してから、使ってくださいね。本に書いてあっただけですから」
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次回更新予定は10月23日です。
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