第12話 噂話
「知っているか、カーディフ卿の話」
「ああ、王立図書館に出入り禁止になったってやつだろう。まあ、あの人は本を読むって言う人じゃないから、いいんじゃないのか。問題ないだろう」
「まあ、それはそうだが。そうじゃなくて、なんでそうなっかたの話だよ」
「何か理由があるのか」
「ああ、一人先走って手に入れようとして、地下書庫の写本係に『地下室の魔女』について、聞きに行ったらしい。そういえば、なんか出るだろうと思ったんだろうな。
で、何か揉めたという話だ」
「なんだそれは」
「ああ、何でも館長に抗議したとか。苦情が図書館側からも来ていたと聞いたぞ」
聞いていた男が、呆れたように言った。
「馬鹿だな。そんな簡単に判るなら、誰も苦労しないだろうに。しかも直接行くなんて。考えがなさ過ぎるだろう」
「ああ、本当に。それでな、カーディフ卿は図書館に出入り禁止になったんじゃなくて、物理的に入れなくなったんだという話だ」
真剣な表情をして、もうひとりの男は続けた。
「地下書庫に拒否されたと、もっぱらの噂だ。やはり、地下書庫に手を出してはいけないんだよ」
「だが、それは魔法でそう編んでいるのかもしれない。もしくは、そう術をかけた者がいるだけなのかもしれない。そういった術はないのか。
その場所に、そういった能力や機能をもたせるのは、考えられない。
それじゃまるで、魔術ではなく、呪いのようだ」
「それは、俺達の常識で図るからだろ。その常識を上回るものが、あそこにあるだとすれば」
ある者は、やはり手を出してはいけないものはあるのだと信じた。
「カーディフ卿は、地下書庫に拒まれたそうだ。中に入れなかったと話していたぞ」
「地下書庫に、行方をくらました先代の写本係がまだいるのかもしれない。彼が、そういう魔術を使ったのではないか。
途中までは追えたと。だが、逃げられてしまったと聞く」
「地下書庫の知識を蓄えて、地下室の魔女から何某かの力を授けられたと、考えているんですか? 」
「それで、今の写本係を隠れ蓑にしていると」
ある者は、却って興味をそそられたかのようだった。
「情報が少なすぎる。判断出来る程ではない」
そう、取り合わないものもいた。
「あの地下書庫には、随分とウイリアムが通っているらしい」
「だが、それで何かを得ているようには見えない。依頼しているのは、仕事関係だけだ」
「あれは、そういった事を知ろうともしないからだろう」
「そういうヤツのほうが、いいのかもしれない」
「では、ウイリアムを使ってみるか」
「どうやって。あいつは、魔法省の仕事は引き受けてやっているが、それ以外は動かんぞ」
「そうだ。金も女も、効かん。脅すような事をしても無駄だ。何かに、屈するという事がない。魔法省の仕事だとて作り上げた罪状で縛っているだけだろう。まあ、よくもそれに騙されたままでいるとも思うがな」
「あれは、放っておいて、使い潰すのが最善だろう」
「使えないやつだ」
城内では、様々な噂話が静かに広がっている。だが、国王と王太子の周囲には、漏れないように。
「地下書庫については、不可触であると、兄上からお叱りを受けた。それにしてもカーディフの話、中々興味深い」
「あの方は、手柄を焦ったのでしょう」
フッと鼻で笑った。
「まあ、小物だ。放っておいていいだろう。何もできないだろうから。
写本を要求すれば、写本係が動くかと思ったお前の案は、外れたな」
「申し訳ありません」
「で、カーディフから話を聞いたのか」
「確認しました。まず、地下書庫には立入ができなかったとのことです。現在は、王立図書館にも入館できないそうです。まるで壁か何かが立ちはだかるように、それ以上前に進めないそうです」
「地下書庫、本を持ち出せないとは、本当だろうか」
「少なくとも、カーディフ卿の事を考慮すれば、持ち出そうと侵入しても、無駄かと」
「そうだな。今の写本係は新人なのだろう。其奴が何かをしているというのは」
「彼女を調べました。特別な事は何も浮かんできません。基礎教育を受けた程度で、簡単な読み書き・計算が出来るぐらいです。魔法の適性は生活魔法程度、一般人レベルと判断されます。
両親は、事故ですでに亡く、兄弟もおりません。また、移民だったために親類もいないようです。
難儀していた所で、偶々写本係に応募し、職を得て現在に至ると報告を受けています。
家も無いため、図書館内の宿泊施設を利用しているとか。殆ど図書館から外に出ることは無いようです。そのような者には難しいかと」
「そうだな。3年目という事を鑑みれば、力があるとは思えないな。さすれば、今が仕掛け時か」
「はい。写本を確認しましたが、前任者の本と比較したところ、それ程のものでは、ありませんでした」
「前任者は、捕らえられなかったな。前任者が戻っている可能性もあるか」
「あれは、不思議な男でした。
戻ってきたという確認や目撃情報等もありません。しかし、館長が手を貸していれば、あるいは」
「ウイリアムを呼んで、聞いてみるか。彼はカーディフ卿と地下書庫で会ったと聞く。どのような状況だったかを。
あるいは何か今までに見ていないか」
ウイリアムは呼び出され、話を聞きたいという名目で、しばらく軟禁された。
仕事のことは元より、そこから図書館や地下書庫、カーディフ卿の話など、多岐にわたって聞き取りがされた。
その後、意向と云う名で、魔法省からの出向希望等も問われた。
「今のような仕事よりも、君の能力を活かせるのではないか」
軍務省への誘いであった。彼は丁重に断った。
「先の刑罰で、この仕事は決まったものと聞いています。お決めになった方が、破っては示しがつかないのでは」
そう言って、譲らなかった。彼は暗に王弟に興味はないと告げていた。
「あれも、こちらへ落ちてくれると良いのだがな。王太子なぞに義理をたてずともよいものを。残念な男だ」
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次回更新予定は10月25日です。
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