Episode 22「格差」
――【ギルドカード】――
名前:ローレル
LV:80
ジョブ:剣士
ジョブランク:S
所属ギルド:冒険
所属クラン:なし
称号:断絶の剣士
――――――――
ついさっき出会った彼女の名前はローレルさんと言うらしい。
彼女は隙見せぬ控えめな笑みを浮かべて名前を述べてみせた。格好良さが崩れない。
格好良さは劣ってしまうが、私もそれの後に続いて名前を述べた。
そんなやり取りを終えた後、私達はフレンド交換し、ついでにギルドカードなるものも交換することにした。
プレイヤー間の自己紹介時において、もっとも手っ取り早いのがギルドカードの交換であるらしかったからだ。
新たに知ったコミュニケーション方法にへぇと呟きつつ、言われるがままに交換し合う。
名刺交換みたいなノリだろうか……?
まあ概ね合理的な手段だなぁとは思う。
しかし、ギルドカードにはプレイヤーの名前以外にも、レベルやジョブなど、いくつかの情報が載っている。ようするに個人情報。
それを積極的に他人に開示するのもそれはそれでどうなのか、という部分もあるらしい。
「知られて困ることもあまり無いとは思うが、なるべく信用できる相手にだけ見せるように」
そう忠告される。
見た目も口調も相まって、まるで何かの教官のようだった。
つまりかっこいい。
そしてそれはつまり、そんなかっこいいローレルさんが私を信用してくれたということで良いのだろうか……!?
謎に嬉々とする私。
ローレルさんはどういう職業なのだろう、ふと疑問を抱いた。
ふっと落とす視線。
落ちた先にあるのはローレルさんのギルドカード。
瞳に映るのは、ギルドカードに書かれたローレルさんの情報の数々。
その中でも、分かりやすく私の目を引いたのがその異様に高い数字。
「え、80レベル……!?」
これは、結構高いのでは……?
私の数字はなんだったかな。
気になってしまって、私のギルドカードをまじまじと見る彼女の手元を、一緒になって覗く。
彼女は背が高く、そして私は低い。少しだけだが低い。少しだけ。
だから背伸びをしてやっと見えた、というところで衝撃を受ける。
いや、薄々気付いてはいたのだけれど。
数字、というのは目に見えて差が生まれるもの。
今この瞬間、そう改めて理解した。
なんと、私のレベルは4だった。
「4…………と、80……!?」
「凛? どうかしたか?」
再度認識させられ、やはり驚く。
「20……倍……!?」
私だってここ最近頑張っているのに、それでもまだ4。
というか、ついさっきまでは2だったはずだ。
それに、レベルというのは、上がれば上がるだけ、次にレベルアップするのに必要な経験値数がより多くなると聞く。
次は81レベル。
必要な経験値数なんて想像もできない。
少なくとも、花を2、3本育てたくらいじゃミリだって増えないだろうことは容易に知れる。
そもそも、現に背負っている10億弱で競り落とした真っ赤な剣が良い証拠じゃないか。
私は日々、強くなりたいと望んではいたが……。
もし、このレベルに辿り着いてようやく「強い」を名乗れるのであれば、私の「強い」への道のりは余程遠いらしい。
事実を知ってしまった私は、がっくしと地面に膝をつく。
「り、凛……?! 大丈夫だ、初心者は大抵そんなものだ。だから、な……?」
「ローレルさん……!」
あからさまに落ち込みすぎたか。
察したローレルさんが励ましてくれる。
性格までかっこいいとか……もはや恨む気にもなれない。……別に恨む意味なんてはなから無いのだけれど。
そんな落ち込む私に、彼女は語りかけてくれる。
「これでも上級者を名乗っている。そんな私だが、それでも敵わない相手は居る。しかしな、それは敵ではない。目標だ」
鉄鎧が当てられた胸に手をかざしながら。
「強さを目指すなら目指せば良い。誰かにできたことが、他の誰かにできないなんてことは決して無いのだから。少なくとも、ゲームの中においては、な」
「ローレルさん……!」
そうだ、その通りだった。
難しいことなんて何一つも無い。
強くなりたいのならなれば良い。ただそれだけの話なんだ。
私は瞳の奥から込み上げてくる熱い何かが溢れ出てしまうのを力いっぱい堪え、代わりに拳を握って意気込んでやった。
「ありがとうございます、ローレルさん。私、がんばります!」
「ああ。私も抜かされてしまわないよう、精々励むとするよ」
そうして、私達は熱い握手を交わすのだった。
◆
「凛、この後は暇かな?」
赤裸々に語り合い、より一層仲を深め合えた。
そんな彼女から、早速お誘いがあった。
「私の友人が営んでいる骨董屋があるのだが、贔屓目抜きで中々な品揃えなんだ。これも何かの縁、良ければ買い物ついでに君のことを店主に紹介させてほしい。今から、いや、明日以降でも構わないのだが……付き合ってはくれないだろうか」
「私なんかで良ければ、是非!」
ローレルさんとの新たな出会いに酔いしれていた私は、これに二つ返事でOKしてしまう。
既に時刻は3時弱なのだが、この時の私は気付きもしないで尻尾を振るように付いて行った。
この商店街、つまり今私達が歩いている大通りと同じ場所にあるらしいその店は【
骨董屋らしい、昔和風な店名に期待を持つ。
そんな中、【七三屋】に辿り着くまでの短な間、ローレルさんの友人というその店主についての話を聞かせてもらった。
「言ってしまえば廃人だな」
聞き慣れない言葉に、首を傾げる。
何かの病気を患っているのだろうか……?
そうなのだとしたら追及しづらい。
「廃人と言うのは……?」
「まあ、中毒者みたいなものだ。ゲームのな」
「あぁ……なるほど……」
重苦しいのを想像してしまっていた。
「昼夜と問わずログインしているな。オフライン状態になっているところを見たことがない」
フレンド一覧から見れる、オンラインであるかオフラインであるかを確認することができるシステム。それのことを言っているのだろう。
「そんなに長い間、何をしているんでしょうか」
「はは。まあ基本あいつはレアアイテム集めだな。激レアアイテムがドロップするまでモンスターを狩り続ける。そして手に入れては『アドレナリンきたーっ』って叫ぶようなやつさ」
「はあ……」
変人だろうか。
変人な気しかしないのだけれど、大丈夫だろうか。
ちゃんと無事に帰ってこられるだろうか。
「はは、大丈夫。あいつは確かに、人として色々と終わっている節があるが」
「人として終わっている……」
「レアな物にしか興味がないからな。まあ、奇怪な花でも売れば興味は持つだろうが」
「分かりました。そのお店では絶対に売らないように気を付けます」
「あははっ、冗談だよ。まあ、仲良くやってくれるとありがたい」
そんな感じで辿り着いたらしく、ローレルさんは歩みを止める。
「っと、着いたぞ。ここだ」
ひと目見て、ぶわっと瞼を開いた。
かはっと息を吐いた。
言い表せない感情に、体が追いつかないようだった。
それは、まるで
座敷童子に手招きされるような変な感覚を覚える。
でもそれは、恐怖とか不気味とかではなかった。
いや、不気味さはあるかもしれない。
昼間ですら感じ取れるその僅かな不気味さが、なぜかむしろ私の興味をそそらせる。
ぱっと思い付いたある言葉が、「ああまさにその通りだ」と私の脳味噌を納得させてくれた。
まるで時代劇にあるようなセットをそのまま持ってきたかのような和風古風な外観に、狂ったように魅入る私はまるで――魔物に取り憑かれたようだった。
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