Episode 2「ギルド」

◇【西部国マウノ・王都】◇



 左上に現れた【西部国マウノ・王都】という表示を見て、私が現れたここがそうなんだと理解する。


 ここは、この世界に五つある国のうちの一つで、【西部国マウノ】というらしい。

 そして私達プレイヤーは、五つの国からランダムに選ばれた国の王都からスタートさせられるそう。

 

 辺りを見渡せば、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっている。

 まさにファンタジーといった感じだ。


 開口一番に「おぉ」と感激を漏らした私の元へ、ふとピコンという音と共にメッセージが届く。

 

《ジョブクエスト:【栽培家】のジョブクエストを受けてみよう》


 ジョブクエスト、つまり職業専用のミッションということだろうか。

 他にすることも無さそうだし、ひとまずこのジョブクエストとやろ片付けようと思う。


 それに、ゲームを始めて一番に出現したクエストだということは、 それなりに重要なのだろう。

 

 

 始めてのクエストの内容は、ギルドという場所に行き、改めてクエストを受注せよという、至って簡単そうなものだった。

 本来、クエストはギルドや特定の場所以外では受けられないらしく、今回のジョブクエストはそれを覚えるためのチュートリアルということになるのかな。


 




◇【王都・中央広場】◇

◇【生産者ギルド】◇



 ギルドは初期スポーン地点から案外近い場所にあったので、迷うことなく無事に辿り着くことができた。


「おじゃましまぁす……」


 そろりと音を抑えながら早速中に入ると、耳に響くほどの喧騒がそこにはあった。

 しかし、私が想像していた喧騒とは程遠く……。


 何が言いたいのかと言うと、つまり私はギルドと言えば酒場でわいわい騒ぐようなのをイメージしていたのだけれど(というかあまり人がいない)、目の前の光景は、おじさんが受付嬢らしきお姉さんに喚き散らかすという――ようするに、厄介そうなクレーマープレイヤーの姿がそこにはあったのだ。







 初めてのゲームでこんな光景に遭遇するなんて、思ってもいなかった。

 災難だなぁ。



 とにかく、彼をこのまま放っておくことは私の良心的にも許せないものがあった。

 なので、勇気を振り絞って、話しかけてみることにした。


「あの〜……どうかしたんですか?」


 私が話しかけると、まるで値踏みでもするかのように、じろりと私の体を頭から足先まで一瞥する。その視線に、ぞわっとした気持ちの悪さを覚える。


「ふんっ」


 すると、やけにあっさりと、興味も無さげに建物を出ていってしまった。

 その様子から、なんとなく察してしまう。

 あれだな、NPCを相手にセクハラでもしていたのだろう。

 一部始終を見ていたわけではないので、決めつけるのも良くはないかも知れないけれど、彼のあの目は、そういう目にしか思えなかった。


 きっと、NPCが相手だったらセーフだとでも考えていたのだろう。

 私自身、子供だから女だからと、よくそういう目で見られてしまうから嫌でも分かってしまう。

 そういう大人は大抵、赤の他人や目上の人間が介入すると途端に逃げる。

 というのが、長年の接客業バイトで培われた私なりの見解だった。



 頭上に現れるネームタグの表示からして、彼がプレイヤーであることも間違い無さそうだった。ちなみに、基本的には青色がプレイヤー、黒色がNPCだそう。


 そう言えば、プレイヤーのことを通報したりもできるんだったっけ。

 ガイドラインによるとああいうのは普通に違反だと書いてあったし、次見かけたら迷いなく運営さんに報告しておくとしよう。



「あの……助けてくださりありがとうございました……!」


 さてクエスト達成のためにはどうしようかと悩んでいたところ、さっきおじさんに怒鳴られていた受付嬢にお礼を言われた。

 見た感じ、か弱い少女、といった性格のよう。歳は私と同じくらいかな。


 若干涙すら浮かべつつある彼女の頭上には、【クエスト】と表示された看板がある。

 おそらく、この場所でクエストが受けられるのだろうと予想できる。


 まあ都合も良いし、私は彼女の元へと寄ることにした。



「大丈夫でしたか? 暴力とかは……」

「あ、はい、それは大丈夫です」

「それなら良かったです」

「ですがその、嫌な視線を向けられまして……やめてくださいと頼んだところ、怒鳴られてしまいました」


 受付嬢は言葉を濁し、はははと愛想笑いをする。いたたまれない。


「我慢しなくても良いんですよ。それに、ああいうのは早めに人を呼びましょう。私も、また似たようなことがあれば力になりますし」



 「その場に居ればの話、にはなりますけども」とそこまで言うと、受付嬢の瞳が大きくうるんだ。

 安心してもらえたのかな。

 それだとありがたい。


「あ、ありが、とう、ご、ございます……!」


 今にも泣き出しそうな彼女が落ち着くのを待って、「ところで」と本来の要件を切り出す。


「ジョブクエストを受けたいんですけど、初めてで分からないことが多く」

「ぐすん。――か、かしこまりました。では、当ギルドのシステムについてご説明致しましょうか?」

「お願いします」







「と、このような感じになりますね」


 一通り説明受けた私は感心する。


 ゲームとはいえ、ギルドのシステム自体は結構しっかりしているらしい。

 聞いただけでもかなりの要点があったので、とりあえずまとめてみようと思う。

 






【1】街には二つのギルドが存在する。


 【冒険者ギルド】と【生産者ギルド】。

 違いは名前の通りで、冒険者であるか生産者であるかで利用者や利用方法が異なる。

 例えば、クエスト受注は自身が所属しているギルドでしか受けられない、だとか。

 私の場合なら【生産者ギルド】の方でしか【ジョブクエスト】の受注ができないといった感じ。


 冒険者と生産者の定義は、主な活動範囲が街の外フィールドの外か内かで大方決まる。

 街の外フィールドを中心に活動することが目的の職業は、大抵が冒険者と定義されるらしい。

 反対に、生産者のほうは基本的に名前の通りになるね。


 あと、プレイヤーはギルドにクエストの依頼が可能なのだけど、これもタイプに合ったギルドを選ぶ必要がある。

 例えば、素材収集の依頼なら【冒険者ギルド】、生産依頼なら【生産者ギルド】のほうに依頼するといった感じだね。







【2】ジョブランク


 初耳だったのだけど、職業ジョブにはジョブランクというものがあるらしい。

 アルファベット表記でF〜Sまで存在する。

 ま、これは表を見たほうが分かりやすいかな。


――【ジョブランク一覧】――

【G】最低ランク。

初めてのクエストをクリアすることで【F】ランクにランクアップ可能。

つまりチュートリアル!


【F】低ランク帯。

成功率99%の簡単なクエストが受けられます。

ランクアップクエスト完了で【E】ランクにランクアップ可能。


【E】低ランク帯。

危険性の無い簡単なクエストが受けられます。

ランクアップクエスト完了で【D】ランクにランクアップ可能。


【D】中ランク帯。

簡単なクエストから高難度なクエストまで、幅広い難易度のクエストが受けられます。

ランクアップクエスト完了で【C】ランクにランクアップ可能。


【C】中ランク帯。

難易度が高くなり、危険度(失敗率)が大幅に上がります。

ランクアップクエスト完了かつ特定のアイテムの納品で【B】ランクにランクアップ可能。


【B】高ランク帯。

クエスト達成がかなり困難になります。

ランクアップクエスト完了かつ特定のアイテムの納品で【A】ランクにランクアップ可能。


【A】高ランク帯。

1人でのクエスト達成が難しくなります。

ランクアップクエスト完了かつ特定のアイテムの納品に加えて、活躍度ランキング20位以内にランクインすることで【S】ランクにランクアップ可能。


【S】最高ランク。

クエスト達成の難易度が極めて難しくなります。

活躍度ランキングにおいて20位以内から外れると【A】にランクダウンしてしまいます。定期的に活動しましょう。

――――――――







【3】クエスト


 クエストにはランクがあり、自身の職業がそのランクに適している必要がある。

 簡単に言うと、私はまだGランクなので、Gランクと表記されたクエストしか受けることはできない。

 更に、自分のランクよりものランクのクエストも受けることができなくなっている。

 例えば、Aランクプレイヤーが受注できるのは、AランクとBランクだけ。

 

 といった感じかな。


 そして、クエストは主に二種類ある。


 一つは【オープンクエスト】。

 これは名前の通り、オープンなもの、ようするに誰でも受けられるようなクエストが多い。


 次に【ジョブクエスト】。

 こっちも名前の通りで、ジョブ、つまり職業専用のクエスト。

 私の場合なら【栽培家】専用のクエストということだね。


 ちなみに【オープンクエスト】に限り、所属するギルドとは別のギルドのクエストも受けることが可能になっている。

 本当に誰でも受けられるらしい。







 とまあ、特に重要なシステムに関する説明はこんな感じかな。

 実は他にももっとあったんだけど、本当に長かったから、必要そうなものだけまとめておくことにする。



「何か分からない点などはございますか?」

「いえ。大丈夫です、ありがとうございました」

「ところで、早速クエストを受注されますか?」


 そういえば、それが本来の目的だった。

 説明が長すぎて忘れていた……。


「しますします」

「では、クエストボードまでご案内致しますね」


 





 クエストの受注方法は至って簡単。


 ギルド内の脇にあるクエストが貼られたボードから、クエストの依頼書を剥がしてクエストコーナーのカウンターまで提出すれば受注完了。

 ほらね、簡単でしょ。


「凛様はクエストを受注するのは今回が初めてですので、クエスト内容はこちらでご用意させていただくものになります。ご了承ください」


 なるほど、初クエストは自分で選ぶ必要すら無いらしい。


 ただでさえ簡単なものが、もっと簡単になってしまった。







「こちらがクエスト内容になります」


 そう言われ、一枚の紙を手渡された。

 そこには、クエストについての内容が書き連ねられている。



――【ジョブクエスト(G):種の入手】――

職業:栽培家

達成条件:植物の種を3つ入手する。種の種類や入手方法は問わない。

達成報酬:【栽培家用初心者アイテムセット】

――――――――



 種を三つ手に入れるだけのクエストのようだ。

 流石Gランク。内容まで簡単。



「では、行ってらっしゃいませ」

「はい、行ってきます!」


 そんなこんなで受付嬢に見送られ、ギルドを元気良く飛び出す私であった。

 こころなしかわくわくしている自分がいることに、今はまだ気付けないでいたけれど。


 何にせよ、いよいよ本格的に始まるんだ。


 栽培家として。プレイヤーとして。

 そして、【凛】としての人生が。

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