Chapter 2「初心者」
Episode 6「栽培場所」
◇【王都・中央広場】◇
◇【生産者ギルド】◇
初クエストを達成した私は、次のクエストも受注し終えて、いよいよ本格的に【栽培家】としての活動を始めようと意気込んでいた。
手始めに、【栽培家用初心者アイテムセット】の中身を確認しよう。
これが無ければ、始めようにも始められないしね。
私は、ギルドの余りあるほど広い館内の、中央辺りに設置された椅子に腰掛けて、セットで置かれている丸い木のテーブルの上に【栽培家用初心者アイテムセット】を置く。
アイテムセットに視線を合わせる。
すると、いくつかの文字が表示される。
【栽培家用初心者アイテムセット】
【収納】
【開梱】
その内の【開梱】というボタンを押す。
すると、包装が自動的に消滅し、中に入っていたのであろういくつかのアイテムだけがあらわになる。
【シンプルなジョウロ】
【小さな植木鉢】×3
【赤のキャンディーフラワーの種】
【青のキャンディーフラワーの種】
【緑のキャンディーフラワーの種】
【万能培養土】
【栽培家のメモ帳】
思っていた以上にアイテムが入っていて驚く。
というか、どう考えても箱の内容量を越えている。
土とか植木鉢とか、どうやってあの箱に入れてたんだ。
あれか? ご都合というやつなのか?
……ともあれ、随分と太っ腹なギルドだ。
さて、そんなアイテムたちはこれから私が大事に使わさせてもらうのだから、勝手を理解するためにも、一つ一つの詳細を確認していくことにする。
――【シンプルなジョウロ】――
タイプ:道具
耐久値:20/20
至ってシンプルなジョウロ。水やりしかできない。
――――――――
――【小さな植木鉢】――
タイプ:道具・家具
小さくてシンプルな植木鉢。小さな植物しか植えられない。
――――――――
――【赤のキャンディーフラワーの種】――
タイプ:消耗品・植物・種
誰でも簡単に育てられる花。赤い飴の実ができる。
――――――――
――【青のキャンディーフラワーの種】――
タイプ:消耗品・植物・種
誰でも簡単に育てられる花。青い飴の実ができる。
――――――――
――【緑のキャンディーフラワーの種】――
タイプ:消耗品・植物・種
誰でも簡単に育てられる花。緑の飴の実ができる。
――――――――
――【万能培養土】――
タイプ:消耗品・肥料
内容量:10/10
簡単な植物なら何でも育てられる土。使い勝手が良い。
――――――――
――【栽培家のメモ帳】――
タイプ:道具・職業専用
一度完成させたことのある植物の情報や、入手したことのある栽培家に関する道具やアイテムの情報を、自動的に記録するメモ帳。知識は大事。
――――――――
全てに目を通す。それらの使い道や使い方を理解するのにさほど時間はかからなかった。
大方、名前通り、見た目通りということだね。
しかし中には【万能培養土】や【栽培家のメモ帳】といった、現実では到底入手不可能な便利アイテムまで貰えてしまうのだからありがたい。
大盤振る舞いというやつかな。
ギルド様々だね。
◆
これで必要なアイテムはすべて揃った。
けれど、あともう一つ、どうしても外せないものがある。
いやものというか……環境というか。
ほら、植物を育てるためには、育てる場所が必要になってくるわけであって。
率直に言うのなら、つまり家がいるということ。
しかし思い出してほしい。私は、家を持っているだろうか。
答えは否だ。
持っているはずがない。
FLOにおいて、プレイヤーが個人の家を所有すること自体は可能ではある。
けれど問題はそこではなくて。そもそも、ゲームをプレイし始めたばかりのプレイヤーが自分の家を買えるまでの資金を手に入れられるわけがない。
じゃあ家を借りよう、という選択にもならない。
何故なら、それすら可能なお金が手元に無いからだ。
現実世界か仮想世界かなんて関係なく、どんな世界であれ、家を買ったり借りたりするための費用はそれなりの額がかかってしまう。
そこで私の所持金を確認してみよう。
視界に映るいくつかのボタンのうち、ステータスと表示されたボタンに触れて、ステータス画面を開く。
すると、このゲームを始めてすぐキャラクターメイクをした時にお世話にもなった、半透明のウィンドウが出現した。
このウィンドウに表示されているのが私のステータスだ。
最初にガイドブックを読んでいたからステータスの開き方は理解していたのだけど、実際にステータスを開くのは、何気に今回が初めて。
そんなだから、ついついまじまじと見てしまう。
――【凛】――
LV:2
所持金:1,000
ジョブ:栽培家
ジョブランク:F
所属ギルド:生産
所属クラン:なし
――【ステータス】――
ステータスポイント:105
HP:110/110
MP:12/12
SP:12/12
STR:12
VIT:12
INT:12
RES∶12
DEX:12
AGI:12
LUK:12
――【武器】――
なし
――【防具】――
頭:なし
胸:旅人の鎧
腕:なし
腰:旅人のズボン
足:旅人のブーツ
――【アクセサリー】
なし
――――――――
なんかいっぱい数字があってややこしい。
とくにややこしいのが、もろもろのステータス値についてだね。
それらの理解を深める意味合いも含めて、とりあえず整理してみようと思う。
家云々の話はその後で。
◆
ステータスポイントとは、下記の各ステータスに、自由に割り振ることのできるポイントのこと。
とうぜん、ステータスは高ければ高いほうが望ましいので、ステータスポイントもあればあるだけ良い。
ちなみに500ポイントが最大数値だそう。
それを超えてのポイント増加は基本的に不可能。
HP(ヒットポイント)∶体力。0になるとゲームオーバー。
MP(マジックポイント)∶魔力。主に魔法を使う時に使用する。
SP(スキルポイント)∶気力。主にスキルを使用したり、職業に関する作業を行う時に使用する。
STR(ストレングス)∶物理攻撃力。
VIT(バイタリティ)∶物理防御力。
INT(インテリジェンス)∶魔法攻撃力。
RES(レジスト)∶魔法防御力。
DEX(デクステリティ)∶器用さ。命中率にも作用する。
AGI(アジリティ)∶素早さ。
LUK(ラック)∶運。クリティカル率や作成成功率、ランダム性のある事柄に作用する。
◆
こんなところかな。
正直、栽培家にとってのオススメのステータスがなんなのか分かっていない以上、無闇やたらに割り振るのは良くないのだろう。
でも、こういうのはなるべく自分自身で考えて悩んで決めていきたい、というのが私の方針のつもり。
なので、せめて【キャンディーフラワー】をいくつか育ててからまた考えてみようと思う。
ステータスポイントはそれまでお預けだね。
◆
そして話を戻そう。
所持金の欄を見たら分かる通り、あるのはたったの1,000G。
これじゃあ家を買うどころか、借りることすら夢のまた夢。
家を借りるためにお金を稼ぐにしても、私は栽培家だ。このゲームにおける栽培家とは、植物を育てることで主な収入を得るという職業。
植物を育てる意外の分野においては無能に等しい。
植物を育てるためには家を借りる必要がある。
家を借りるにはお金を稼ぐ必要がある。
そしてお金を稼ぐには植物を育てる必要がある。
うん、ぐるぐるしてる。
もっと安価で部屋を借りる方法、つまりは宿屋というシステムもあるのだけれど、流石に借家ほど部屋の中を自由にできるわけではないだろう。
仮に宿で植物を栽培することが許されたとしても、他の問題がある。
宿屋とは、一度の宿泊期間がどれも短い。短期間で植物を育てるというのも、このゲームを始めたばかりの初心者にとっては難しい。
これらの理由から、家や部屋を借りるという選択肢は却下。
さてと、いきなり詰んでしまったらしい。
なんか……栽培家が不人気な理由が分かった気がする。
◆
ギルド備え付けの休憩スペースで、私は悩みに悩んでいた。
意味も無く辺りを見回し、不意に、地面に落ちていたゴミを見つけてはゴミ箱に捨てるの繰り返し。
おかげで、たまに現れる清掃員らしき職員に感謝されてしまった。
なんてことを小一時間も続けてしまっていたある時、ふと、それが視界に入った。
――窓際のスペースに、ぽつんと置かれた一つの鉢。
視界に捉えた瞬間、まるで一目惚れでもしたかのように、私は目を奪われた。
昨日、【
その鉢は、植木鉢だった。
小さな芽が一つ、ちょこんと飛び出しているだけの、何も咲いていない植木鉢。
なので、私は植物を見てうっとりしてしまったわけではなかった。
そもそも咲いていないのだから、うっとりしようもない。
いつかは咲くであろう未来の花に、一抹の興味はあるけれど。
この瞬間の一番の興味は、鉢のほうに集中していた。
白い植木鉢。
その上から彫られた、素人目からしてみても繊細極まれりな彫刻は、花畑を模している。
そして何より目を奪うのが、彫られた花の一つ一つに丁寧に
それらが日の光に照らされることによって、各々の色を輝かせるその姿は、普段鉢にはあまり興味を示さない私ですら惚れ惚れとしてしまう。
これほど綺麗な植木鉢は、リアルですら見たことがないくらいだ。
私の興味とは裏腹。不思議なことに、この鉢の持ち主を知りたいとは思わなかった。
けれど、この鉢が今まさにその身で育てている、その芽の将来の姿が、気になりだしたら止まらなかった。
同時に、まさに豆電球が光ったかのように、ピコンと思い付いたことがあった。
こうしてはいられない。早速ギルド側に打診せねば……!
そんな
辿り着いた私に、どうかされましたか? と質問してくれた彼女の厚意を無下にするように、私は途中でベルさんの言葉を遮りながら、バンとカウンターテーブルを叩いた。
思っていた以上に大きな音が出てしまって、ギルド中の受付嬢の視線を集めてしまう。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、今更引き下がれないのでそんな視線は無視してしまう。
しかし私なんかが心配せずとも、受付嬢らの注目は数秒も経たずに自身らの業務に対する集中力へと早変わり。
ただ一人、目の前の天使を除いて。
「ここで花を育てたいんですが!」
自分の意見を押し通す私。
一瞬気圧された様子のベルさん。
それでも彼女は、真っ当に職務を熟していたと言える。
いやむしろ、私というハプニングに対する、完璧な対応なのではなかろうか。
「でしたら、サービスカウンターにて別の職員がお伺い致しますね」
「あ、はい」
彼女の一言によって、上がりきった熱が一瞬にして冷めてしまったよう。
そして、この二日間で新たに学んだ。私はどうやら、新発見をすると興奮状態になってしまう癖があるらしい。……これからは気を付けよう。
とまあそんなことよりも。今はただただ、恥ずかしい……。
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