Chapter 3「急成長」
Episode 18「フェアリーギフト」
◇【王都・中央広場】◇
◇【生産者ギルド】◇
窓際に並べられた五つの植木鉢に向かって、リーファさんはその小さな両手をかざした。
「【
ぼそりと呟いたそれは、いわゆる【スキル】というものだった。
白の植木鉢を見つけたお礼だそう。
ぼんやりと広がる淡い光が掌をいっぱいにしている。
リーファさんは、そっと触れるようにしながら、光をそれぞれの花や芽に与えた。
やがて光は吸い込まれ、消えた。
「ふぅ……」
「……こ、これは……!?」
すると、みるみるうちに、花が茎が、芽が――うねりだした。
まるで意志すら芽生えたかのように。
「リーファさん、すごい動いてるんですけど……」
「大丈夫。見てて」
ゲームとは言え予想外の出来事を前に動揺する私。
正反対に、落ち着いた様子のリーファさんが、私を静止させる。
目の前の様子に驚いたけれど、彼女が言うので私は大人しく従う。
間もなくして、大きな変化が見られた。
茎が伸びていく。
葉が生え、蕾が生え、花が生え、そして飴が実る。
既に花があったものは、一層華々しくなった。
一つの茎から、更に大きく鮮やかな花が咲き、十、二十、と実ができている。
宝石細工のような、見惚れてしまうくらいに綺麗なキャンディーだ。
赤、青、緑の三種あるけれど、どれも到底、食べ物だとは思えない。
そして元が芽の状態のものも、変化は著しかった。
と言っても結果は、前者のものとそう変わらない。
どちらも宝石や硝子かと見間違えそうな程に透き通っている。
育つために、ゲーム内時間にして数週間はかかるであろう植物が、わずか1分で実まで実らせてしまった。
しかも、さっきまで咲いていた花よりも大きく、色鮮やかに……。
実も、初心者用の植物から咲くものにしては綺麗すぎやしないか。
「すごい……」
思わずこぼれ落ちた一言。
「普通」
こころなしか誇らしげに背伸びするリーファさんが、相変わらず可愛らしい。
「この効果……もしかして、【成長速度上昇】ですか?」
「正確には違う」
「……?」
「【
急成長。言葉通り、急な成長を意味するらしい。
そう言われれば今の現象にも納得できる。
そんなことよりも、だ。
「というか今、色んな効果があるって言いました?」
「ん? 言ったけど?」
だから何? そんな顔をしている。
可愛いけども。
「急成長だけでもすごいのに……、一つのスキルで他にも効果があるなんて……」
「私達妖精は、自分のタイプに特化したスキルを持っているから」
「だからリーファさんは、自然に関するスキルが使えるんですね」
「ん」
改めて、育ちきった花たちに視線をやる。
残念ながら白い鉢から顔を出している芽には効果がなかったらしかったが、その他の四つは見事に咲き誇っている。
私は何もやっていないのだけれど、これで【キャンディーフラワー】を育てることに成功したということになる。
けれど、正直。
助けてもらったリーファさんには申し訳ないのだけれど、あまり納得はできていなかった。
育てる手間がなかったとか、あっさりしているとか、そういうのはあまり気にしていない。
でも、やっぱり、自分の手で育てたいというのは内心ある。
これはもはや、手助け、というより、代わりにやってもらった感が強い。というかまさにそう。
だから、彼女なりのお礼とはいえ、申し訳ないが今日限りにしようと思った。
けれど、急成長という効果は便利だ。
他にも、品質や運が上がる効果も備わっていると言う。
【
あるいは、私も覚えれたり――なんてことはできないだろうか。
【
それでも、一瞬でも憧れてしまったからだろうか。
意図はしていなかった。
私は、つい、うっかりと、溢してしまった。
「私にも使えないかな……」
言ってしまって、はっとした。
そんなの、できるわけがないじゃないか、と。
「あ、その、これは違くて……」
リーファさんは何を思ったのか、言い訳をする私を置いて、驚くことに、即答した。
「教えようか?」
「えっ……?」
「覚えるためには、色々と条件がある。修行、みたいな感じ。それでも良いなら」
「やっ、やります!」
今度は私が即得していた。
リーファさんが即答して、内心びっくりしていた。
本当にできるのか。私なんかが良いんだろうか。
色々考えてしまって、頭がぐるぐるしていた。
けれど、できるなら、覚えたいと思った。
使ってみたいなと思った。
そりゃだって、強くなれるならなるでしょう。
できなかったら残念だけれど、何を失うわけでもないだろうし。……多分だけど。
でも、できたら、成功したら、きっと、もっと、この世界が楽しくなる。
そんな気がしたから。
「教えてください!」
椅子から身を乗り出した。
勢いで転げ落ちそうになって、すんでのところで堪えた。
そんな私を見て、リーファさんはふふっと笑ってから、なんでもないように言う。
「分かった。じゃあ、次会った時に」
宙に浮き、くるんと回転してから定位置へとやってきた。私の肩だ。
「そんなに難しくない。安心して」
「はっはい、よろしくおねがいします……」
「ふふ」
ふと違和感を覚える。
静かに笑う彼女が、どこか寂しげに思えたのだ。
けれど、理由が分からない。
……まあ、私の気のせいか。
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