Episode 26「魔力探知」
「妖精ってのは、ほとんどの人の目には映らない存在だ」
私が軽く事情を話すと、やがて占い師のお婆さんは語りだした。
ゆったりと、怪しい雰囲気をより一層纏って。
「稀にワシらみたいな奇人に見つかるか」
親指を立てた。
「お前さんみたいに、相性が合った人間と出会うか」
今度は人差し指を立てる。
「あるいは向こうから姿を見せるか」
最後に中指を立てて、パッと解く。
「ただ、向こうが自ら姿を隠す場合もある。りーふぁとやらも恐らく、そういう術を使ったんじゃな。そういう類の場合、奇人だろうがなんだろうが、ワシら人間が妖精を見付けるのはほぼ無理さね」
「無理って……」
「ただし、お前さんは別さ」
「別……? それは、どういう……」
占い師は、語気を強めて。
「お前さん、さっき、りーふぁとやらに『嫌われたかも知れない』とかうんたら
「えっ……」
つまり、リーファさんは私を嫌って家出したわけではない……!?
「ここまで見えりゃあ確実じゃなぁ」
「……?」
占い師がふと独り言のように呟くが、私にはよく分からない。
そんな私の反応を不思議に思ったのか。占い師に問い掛けられる。
「なんだ、お前さんには見えんのか?」
「え、逆に何か見えるんですか?」
「そうか、見えんか。じゃが素質はあるはず……」
「あの……?」
一人で納得した様子の彼女に、私はますます訳が分からなくなる。
「よしっ、お前さん」
しわしわなお婆ちゃんがいきなり元気よくなるもんだから、思わず驚いて、ビクッと肩を震わせてしまう。
そんな私なんて見えていないのか、占い師はしかし私を指差して言った。
細く長く白く、シワはあっても妙に綺麗な指だった。
「今から特訓じゃ」
「は……?」
「日没までには終わるかの」
ニヤリと笑む老婆の姿に、訳分からずも、かっこいいと思ってしまい、複雑な気持ちになってしまった。
◆
「特訓って……今からですか?」
「りーふぁとやらを見付ける為には必要なことさ。あぁ、嫌なら諦めても良いんだがね?」
「い、いえ、やります! やらせてください!」
「そうそう、その意気さ」
楽しいそうにカッカッカと笑う占い師。
見た目の怪しさも相まって、まるで魔女のようだ。
彼女の手に握られた水晶玉が、不思議と毒リンゴに見えてきた……。
なんて、そんな冗談を言っている場合ではない。
「で、私は何をすれば良いんですか!?」
焦る私。突き出す顔。
魔女は指先で私の額を押し返した。
やはりどこか楽しそうな声色で、「焦るんじゃないよ」と静止する。
「特訓ったって、何も難しくはない。ただお前さんの精神を研ぎ澄ますってだけさ」
「と、研ぎ澄ます……?」
「ありていに言えば『集中力』さね」
「集中力……? それが、リーファさんを探すのに関係あるんですか?」
私の問いに「もちろん」と返し、うんと大きく頷いてみせた。
やけに安心感を感じれる。
実家のお婆ちゃん的なオーラがなぜか彼女にはあった。
「これを使いなさい」
安心する私をよそに、占い師はテント屋敷に設置された小さなテーブルに、静かにそれを置いた。
「これは……?」
疑問する私の目に映っているのは、古びた巻物だった。
ところどころが破れ色褪せた状態のまま、寂しく糸で括られている。
いつぞやのスキルスクロールを思い出す。
しかし、目の前の巻物には、しっかりと名前が表示されていた。
「この巻物は、ワシの家系に代々伝わるスキル、【魔力探知】」
「【魔力探知】……?」
魔力という新たなワードに疑問を覚えつつも、今は占い師の話に耳を傾ける。
「名のままで、これは魔力を探知するスキル。――この世の物体には、多かれ少なかれ、魔力という、人の目には見えない力が宿っている。しかしこの【魔力探知】を使うことで、本来見えるはずのない魔力を人の目に映すことができる」
「よく分からないですけど、便利そうですね……」
「うむ、便利なんて言葉で片付けられるのは少々癪だが……」
占い師は巻物を再度手に取って、私の手に握らせる。
使え、ということなのだろう。
「良いんですか? 代々伝わる、とか言ってましたけど。貴重な物なんじゃ……」
「んなこたないわい。ふっつうにそこらに落ちてるわ」
「そうなんですか!?」
普通に落ちてるんだ……。
「【魔力探知】を習得すれば、お前さんの目にもハッキリと見えるだろうさ」
そう言われ、トンと背中を押される。
言っていることはイマイチ理解できていない。
しかし、なぜか頼りになる言い草に、勇気を貰う。
「ありがとうございます! じゃあ遠慮なく、使わさせてもらいます」
――【スキルスクロール:魔力探知】――
タイプ:消耗品・スクロール
効果:【スキル:魔力探知】を習得する
占い師から貰った古びた巻物。魔力を感じれるという特殊な能力を得られる。
――――――――
アイテムに視線を合わせ、【習得】と表示されたボタンに触れる。
たちまち、お馴染みの演出で、スラッと巻物が開かれた。
文字が浮かび上がり、ギュゥッと収束する。
やがて、それはパッと呆気なく消えた。
〈システム:【凛】が【スキル:魔力探知】を習得しました〉
同時に、視界の隅に表示されたシステムによるメッセージ。
成功したことを確信し、私はほっと一息を吐いた。
そんな私の様子を察してか、占い師はコクンと頷く。
「習得できたかの」
「はいっ」
「ほっほ。威勢が良いのは良いんじゃが――」
スッ、と目を細め。
「特訓と言ったろう。重要なのはこれからよ」
「……っ」
ごくり、思わず唾を呑む。
占い師の独特な雰囲気もあり、正直、緊張している。
そんな私をほぐすためか、あるいはただただからかいたいだけなのか。彼女はひっひっひと笑った。
「お前さんは分かりやすいなぁ。まあそんな緊張せんでも良い。大して難しくもないからの。――百聞は一見にしかず。なんにせよ、試さにゃ出来るもんも出来んくなる。発動してみぃ」
「はいっ……!」
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