Episode 26「魔力探知」

「妖精ってのは、ほとんどの人の目には映らない存在だ」


 私が軽く事情を話すと、やがて占い師のお婆さんは語りだした。

 ゆったりと、怪しい雰囲気をより一層纏って。


「稀にワシらみたいな奇人に見つかるか」

 親指を立てた。


「お前さんみたいに、相性が合った人間と出会うか」

 今度は人差し指を立てる。


「あるいは向こうから姿を見せるか」

 最後に中指を立てて、パッと解く。


「ただ、向こうが自ら姿を隠す場合もある。とやらも恐らく、そういう術を使ったんじゃな。そういう類の場合、奇人だろうがなんだろうが、ワシら人間が妖精を見付けるのはほぼ無理さね」

「無理って……」

「ただし、お前さんは別さ」

「別……? それは、どういう……」


 占い師は、語気を強めて。


「お前さん、さっき、りーふぁとやらに『嫌われたかも知れない』とかうんたらいてたが――ワシの見立てなら、そりゃ間違っとるわ」

「えっ……」


 つまり、リーファさんは私を嫌って家出したわけではない……!?


「ここまで見えりゃあ確実じゃなぁ」

「……?」


 占い師がふと独り言のように呟くが、私にはよく分からない。

 そんな私の反応を不思議に思ったのか。占い師に問い掛けられる。


「なんだ、お前さんには見えんのか?」

「え、逆に何か見えるんですか?」

「そうか、見えんか。じゃが素質はあるはず……」

「あの……?」


 一人で納得した様子の彼女に、私はますます訳が分からなくなる。


「よしっ、お前さん」


 しわしわなお婆ちゃんがいきなり元気よくなるもんだから、思わず驚いて、ビクッと肩を震わせてしまう。

 そんな私なんて見えていないのか、占い師はしかし私を指差して言った。

 細く長く白く、シワはあっても妙に綺麗な指だった。


「今から特訓じゃ」

「は……?」


「日没までには終わるかの」


 ニヤリと笑む老婆の姿に、訳分からずも、かっこいいと思ってしまい、複雑な気持ちになってしまった。







「特訓って……今からですか?」

「りーふぁとやらを見付ける為には必要なことさ。あぁ、嫌なら諦めても良いんだがね?」

「い、いえ、やります! やらせてください!」

「そうそう、その意気さ」


 楽しいそうにカッカッカと笑う占い師。

 見た目の怪しさも相まって、まるで魔女のようだ。

 彼女の手に握られた水晶玉が、不思議と毒リンゴに見えてきた……。


 なんて、そんな冗談を言っている場合ではない。


「で、私は何をすれば良いんですか!?」


 焦る私。突き出す顔。

 魔女は指先で私の額を押し返した。

 やはりどこか楽しそうな声色で、「焦るんじゃないよ」と静止する。


「特訓ったって、何も難しくはない。ただお前さんの精神を研ぎ澄ますってだけさ」

「と、研ぎ澄ます……?」

「ありていに言えば『集中力』さね」

「集中力……? それが、リーファさんを探すのに関係あるんですか?」


 私の問いに「もちろん」と返し、うんと大きく頷いてみせた。

 やけに安心感を感じれる。

 実家のお婆ちゃん的なオーラがなぜか彼女にはあった。

 

「これを使いなさい」


 安心する私をよそに、占い師はテント屋敷に設置された小さなテーブルに、静かにそれを置いた。

 

「これは……?」


 疑問する私の目に映っているのは、古びた巻物だった。

 ところどころが破れ色褪せた状態のまま、寂しく糸で括られている。

 いつぞやのスキルスクロールを思い出す。

 しかし、目の前の巻物には、しっかりと名前が表示されていた。


「この巻物は、ワシの家系に代々伝わるスキル、【魔力探知】」

「【魔力探知】……?」


 魔力という新たなワードに疑問を覚えつつも、今は占い師の話に耳を傾ける。


「名のままで、これは魔力を探知するスキル。――この世の物体には、多かれ少なかれ、魔力という、人の目には見えない力が宿っている。しかしこの【魔力探知】を使うことで、本来見えるはずのない魔力を人の目に映すことができる」

「よく分からないですけど、便利そうですね……」

「うむ、便利なんて言葉で片付けられるのは少々癪だが……」


 占い師は巻物を再度手に取って、私の手に握らせる。

 使え、ということなのだろう。


「良いんですか? 代々伝わる、とか言ってましたけど。貴重な物なんじゃ……」

「んなこたないわい。ふっつうにそこらに落ちてるわ」

「そうなんですか!?」


 普通に落ちてるんだ……。

 

「【魔力探知】を習得すれば、お前さんの目にもハッキリと見えるだろうさ」


 そう言われ、トンと背中を押される。

 言っていることはイマイチ理解できていない。

 しかし、なぜか頼りになる言い草に、勇気を貰う。


「ありがとうございます! じゃあ遠慮なく、使わさせてもらいます」

 


――【スキルスクロール:魔力探知】――

タイプ:消耗品・スクロール

効果:【スキル:魔力探知】を習得する

占い師から貰った古びた巻物。魔力を感じれるという特殊な能力を得られる。

――――――――



 アイテムに視線を合わせ、【習得】と表示されたボタンに触れる。

 たちまち、お馴染みの演出で、スラッと巻物が開かれた。

 文字が浮かび上がり、ギュゥッと収束する。


 やがて、それはパッと呆気なく消えた。



〈システム:【凛】が【スキル:魔力探知】を習得しました〉 



 同時に、視界の隅に表示されたシステムによるメッセージ。

 成功したことを確信し、私はほっと一息を吐いた。

 そんな私の様子を察してか、占い師はコクンと頷く。


「習得できたかの」

「はいっ」

「ほっほ。威勢が良いのは良いんじゃが――」


 スッ、と目を細め。


「特訓と言ったろう。重要なのはこれからよ」

「……っ」


 ごくり、思わず唾を呑む。

 占い師の独特な雰囲気もあり、正直、緊張している。

 そんな私をほぐすためか、あるいはただただからかいたいだけなのか。彼女はひっひっひと笑った。


「お前さんは分かりやすいなぁ。まあそんな緊張せんでも良い。大して難しくもないからの。――百聞は一見にしかず。なんにせよ、試さにゃ出来るもんも出来んくなる。発動してみぃ」

「はいっ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る