Day16 レプリカ

 世界的に有名な呪物とのツーショット写真を送りつけられても恐怖を感じない。それどころか微塵も動揺しなくなってしまった自分が哀しい。僕こと九十九一つくもはじめは一般人。普通の感情と感性を持っていたのに。これも「朱に交われば赤くなる」の一種だろうか。僕はへこんだ。普通に辛い。

 へこんだ様を猫背で表現していたら、弔路谷怜ちょうじたにれいから土産を貰った。四年に一度だけ開催されるビッグイベントの、大人気グッズだと彼女は言う。

「ハジメくんの為に、ちょー頑張ってゲットしたんだからね!」

 褒めてくれて良いよ! と言われても反応に困る。何故なら、その大人気グッズとやらは、どこからどう見ても例の呪物だからだ。右から見ても左から見ても、上下を引っ繰り返しても変わらない。弔路谷から送られたツーショット写真のアレ。

「これ、アレじゃねえの。画像の」

「そうだよ!」ご機嫌な弔路谷。「安心してください、レプリカですよ!」

「当然だ」

 本物がイベントグッズとして販売されているわけがない。呪物を商品化するのも如何なものかと思うけど。グッズに関連した全ての人間のセンスを疑う。

 四年に一度のビッグイベント、どんな催しなんだか……知りたいようで知りたくない。

 にしても、と僕は取り出したスマホでネット検索をする。そして出てきた“本物の呪物”の画像と、手の中にあるレプリカを比較してみた。

「よく出来てるな、これ。そっくりだ」

「でしょ!? 細部まで拘り抜かれてるんだよ。正に職人芸。匠の技」

 尋ねてもいないイベントの内容から、この土産を購入するに至るまでのストーリーを語る弔路谷怜は実に愉しげだ。僕がレプリカの出来を褒めれば褒めるだけ、彼女は喜色満面になる。まるで自分が賞讃されているかのように。

「そっくりっつーか、瓜二つだよな」

「そうなの! さっすがハジメくん、観察眼が鋭い! このレプリカ、込められた呪いと、その効果も本物と全く一緒なの。再現度高すぎてヤバいよね〜!」

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