Day22 賑わい
「え!? ハジメくん、キャンプファイアしたことないの!? 勿体ない! 人生の四割損してるよ!?」
と叫んだ
けれど、取り敢えず彼女の好きにさせてあげようと決めた。どうせ何を言っても実行に移されるのだから。
会場は、毎度お馴染み弔路谷家の庭。
お邪魔した直後、僕は瞠目した。
焚き火で使用するには些か立派すぎる大量の木材が、庭の中心で組まれている。まるで金沢駅の利用者を歓迎する鼓門の柱みたいだ。その柱には異物が混じっていた。どう見ても“ヒトならざるモノ”だった。或るモノは織り込まれ、或るモノは括り付けられながら奇声を上げる様を見て、僕は内心で叫ぶ。「損する人生、万歳!」
「どお、ハジメくん! イカしてるでしょ!」
火のついた松明を片手に、弔路谷が駆け寄ってくる。
「……イカしてるっつーか、イカレてるな」
「サッちゃんと愉快な仲間たちに手伝って貰ったんだ〜!」
ほら、あそこ! と、弔路谷が指さした先には確かに、口裂け女さんこと
夜の帳が降り、禍々しい鼓門の柱に火が付けられる。
木材は夜空へ届かんばかりに燃え上がった。怪異は身体を捩り泣き叫んでいる。炎の強さに比例して奇声は一層激しく、大きくなった。
文字通り火達磨となって悶え苦しむ同類を取り囲んで踊り狂う怪異たち。怪異の丸焼きを肴に酒を呑む怪異の傍らで、どこかの民族楽器らしきものを弾き出す怪異たちが居る。僕はもう、何処から突っ込みを入れるべきか判らない。
ダンサー集団の中には根室さんと、白黒の男女の姿もあった。根室さんは呪いの番傘レーラちゃんを差しながら踊っている。レーラちゃんは唄っていた。その歌声は悍ましく、この先の人生、幸福なんて欠片も味わえないのではという気分にさせられるものだった。
「こういうの! 悪くないよね!」
怪異の乱痴気騒ぎに負けないようにだろう、僕の耳元で弔路谷が叫ぶ。それでも聞き取り難いほど周囲は五月蠅い。だから、と言うつもりはないけれど、僕は
「そうだな!」
と応えた。
眼前の悪夢を愉しんではいない。ただ、炎に照らされ浮かび上がった弔路谷の横顔が、吃驚するほど魅力的に見えたので。うっかり同意してしまったに過ぎない。
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