Day6 アバター
とあるマンションの一室で女性が刺殺された。
そのひとの名前が仮想空間〈M:glory〉から消えた女性アバターのIDそのままで、僕はどきりとする。死亡日時と消失日が同じなのも心臓に良くない。
「彼女と彼女は同じひとかもしれない」
昼時。大学構内にあるカフェテリアの片隅で、
ああ、弔路谷怜。今、お前が周囲からどう思われているか判ったぞ! 実に愉快、じゃなくて憐れ。
他人からの評価など一切気にしない弔路谷が、滲んだ涙を指で拭いながら「それはないよ」と首を振る。
「だってそのアバター、生きてるもん」
「生きてるもんって」思わず、僕の口調が呆れたふうになる。「〈M:glory〉、やってないだろ」
「うん。やってないよ」あっけらかんと認める弔路谷。「けど、現実で死んだ人間が仮想空間で生きてる話は、よくあるでしょ」
「よく……あるか?」
「あるある。かき氷食べたら、頭がキーンッてするぐらいある!」
「いや、ないだろ」
とは言ったものの、その日の夜、僕は仮想空間で彼女を捜索した。
弔路谷の言うとおりだった。
彼女は生きていた。
ただ、話しかけても応えてくれない。どんなアクションを仕掛けても反応しない。歩いて、立ち止まって、時折思い出したように瞬きをする。まるで人形みたいだと思った。仮想空間に彷徨う生きた人形。
乗っ取りや成り済ましを危惧してシステム側から彼女に接触してみる。失敗した。『ERROR』が表示された途端、けたたましい警告音を発した僕のパソコンは、抵抗虚しく見事にクラッシュした。
お陀仏となった愛機を前に溜息をひとつ。彼女に殺された気分だ。そんなこと、あるはずがないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます