Day19 爆発
昨夜未明、隣県の廃病院が爆発した。
そのニュースを見た瞬間、僕には犯人が判った。名探偵の出番はない。犯人は
弔路谷は最近、熱心すぎるほど「爆弾の作り方」を調べていた。僕のスマホを無断使用して。そして一昨日、僕は彼女に引き摺られるようにホームセンターへ連行され、買い物に付き合わされた。購入品は全て、手作り爆弾に必要な材料だったと記憶している。
情況証拠に過ぎないが、証拠は証拠だ。あとは動機を判明させるのみ。僕は大学内で弔路谷を捕まえると聴取を開始する。
「隣県で起こった廃病院爆発事件。あれはお前の仕業か?」
眼を真ん丸に見開いた弔路谷。慌てた様子で周囲を見回すと、身体の前で両手を振って「違うよ!?」と否定した。首の動きまで連動している。怪しい。
「そうだけど!」
「あ、認めた」
「認めてない認めてない!」
「『そうだけど』って言っただろ」
「言ったけど! 違うんだよー! そうだけど違うの!」
「意味判んねえ」
「弁明させて!」
「どうぞ」
「ちょっとタンマ」
僕の顔の前で掌を見せた弔路谷は、中空を見つめて沈黙した。思考を整理していたのか、説明の順序をつけていたのか。三分ほど経ってから落ち着いた口調で「あのね」と話し始める。
「確かに爆破したけど、悪意はないの」
「悪意のない爆破とは?」
「仕事だったの。闇バイトでお祓いの仕事があってね。あたし、出来るから。お祓い」
「出来るんだ……」
「出来るよ。ハジメくんにも見せたでしょ?」
「そうだったかな」僕は首を傾げる。
「そうだったよ。ちゃんと憶えててよね!」
「判った判った。で?」
「お祓い出来るんだけどぉ、昨日のは強敵だったってゆーか、早朝の『暴れん坊将軍』視たかったから、手っ取り早く済ませちゃおと思って……」
「『暴れん坊将軍』なんて関係ない。最初から計画的だったはずだ」
僕は弔路谷の眼を真っ直ぐ見据える。犯人を追い詰める名探偵の気分で。
「気付いてるからな。僕のスマホを勝手に使って『爆弾 材料 作り方』でググったの。一昨日ホムセンで買ったものが全部、爆弾の材料だってことも」
「……だったら何?」
腰に両手を当て、やや姿勢を崩した弔路谷が不機嫌そうな声音で問う。下から僕を睨みつけながら。
「計画された爆破事件の犯人があたしで、なんか問題あるの?」
「あるだろ」
「どのへんに?」
僕は言い淀み、けれど、しっかりと言い切った。
「僕と弔路谷は前世からの仲で、現世も切れずに続いてる」
「…………」
「それじゃ答にならないか?」
「……どうかな」乾いた笑い声を漏らす弔路谷。「ハジメくん、信じてないでしょ? 前世なんて」
「……だとしても、弔路谷のことを信じてないわけじゃねえよ」ほんの少し溜息を吐いて続ける。「今回の爆破も、何かしらの意図があったんだろ?」
無言で頷いて「吹き飛ばせば全部奇麗さっぱり解決だし」と弔路谷は言う。
「よからぬ輩の溜まり場で、犯罪の温床にもなってるっぽいから。良いかなって!」
それはもう単なる破壊活動では。悪意云々関係なしに。
と思ったけれど、例の廃病院が“よからぬ輩の溜まり場”と化している事実は、僕も知るところだ。あそこでは少なくとも五人が殺害されているという噂を耳にしたこともある。
ので、報道によれば実害は建物のみだったらしいし、僕も「ま、良いか」と思うことにした。
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