Day20 甘くない
「ハジメくんは、あたしに甘いよね」
と、
僕は首を傾げ、自分の行動を思い返してみた。初めて出会った高校の入学式から今日まで。特段「甘い」と評されるものはない。確かに弔路谷怜は他の人間と較べ、ひと味もふた味も違う。一癖も二癖もある電波だ。彼女の友人は限られている。
その限られた友人のひとりである僕は、友として、当たり前のことをしているに過ぎない。
だから僕は思ったままを告げる。
「そうか? 別に甘いつもりも、甘やかしてるつもりもないんだが?」
「そうだよ」と、弔路谷は少し困ったふうに笑う。
「ヤバい動画を送りつけても、ヤバい食事を振る舞っても、ヤバいお土産を買って帰ってもキレないじゃん。普通ならキレるよ。少なくとも、あたしはキレ散らかす。『どんだけあたしを殺したいの!?』って。ギャン泣きしながらね。でも、ハジメくんは、ぜーんぜん怒らない。
『たすけて』って言ったら夜でも駆け付けてくれるし、夜中の呼び出しにも応じてくれる。行動を咎めはするけど怒鳴りはしない。『こいつマジか』みたいな、全力でどん引きしてますって表情は一切隠さないくせにさぁ、ずっと一緒に居てくれるの」
甘いよ。と、彼女は繰り返す。
動画も食事も土産も“ヤバいもの”である自覚があったのか。弔路谷の言に驚愕する僕を置き去りにし、言葉は尚も続く。
「でも、あたしは甘くない」
真剣な眼差しが僕を貫く。そしてゆっくり、はっきりと断言する。
「霊や怪異を祓うように、あたしは
そう言って――ぶすり。
彼女は僕の腹にナイフを刺す。
ナイフと呼ぶより剣に近い。細身の刃は何度も僕の腹部に突き立てられた。刺して、抜いて、刺して、抜いて。彼女は手首を捻る。手際よく、鍵でも回すように。回転した刃は僕の筋肉と内臓と血管をずたずたに切り裂く。
それでも未だ足りないのか、右へ左へ何度も回転させるから、ぐちゃぐちゃになったボクが地面をベチャベチャと穢す。
「ほら、甘くないでしょ」
弔路谷は終始、笑顔だった。けど、いつも浮かべる笑顔とは全く異なる。どこまでも温度が感じられない、冷た過ぎる笑みだった。
こんな顔も出来るんだ。ボクは地面に這い蹲りながら感心する。同時に安堵した。汚泥のようになったボクの身体を踏みつける弔路谷の瞳に、怒りと哀しみが共存していたから。
確かに弔路谷怜は甘くない。
けれど、同じくらい、甘い。
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