Day8 こもれび
夏の陽光が燦々と降り注いでいる。何千、何万と居るような錯覚にさせる蝉の音が、近くから遠くから途切れることなく聞こえてくる。すっかり夏真っ盛りとなった七月の昼間。天気予報が伝える本日の気温は殺人級で、けれど体感は然ほど暑くはなかった。恐らく、豊かな緑のおかげだ。
僕は今、廃村にいる。
遠くには山が聳え、背の高い木々がぐるりと周りを囲む小さな村。過疎化と高齢化の憂き目に遭ったのだろう、何十年と放置された此処は『絶叫必須ガチ心霊スポット50選』に選ばれているらしい。
雨でもないのに番傘レーラちゃんをさし、僕の数歩先を歩く
「真夜中は当然文句なしに最高だけど、昼間の心霊スポットも良き!」
「そうか? 心霊的怖さ半減、不法侵入を責められる恐怖倍増で、僕は今すぐ帰りたいけど」
「なんか、こう……着ぐるみの中身を見ちゃった、両親の変態的セックスを覗いちゃった、超絶美味しい人気中華まんの材料にヤバいモノが使用されていると知っちゃった、みたいな」
「それってオツか?」
言葉の意味を履き違えてないか?
くるりと振り返った弔路谷が、後ろ向きに歩きながら「オツだよ」と言い、笑みを濃くする。
やがて、村の最奥にある神社へ辿り付く。石造りの鳥居には苔が生えている。長く急な階段は舗装が一部崩れ、木製の手摺りは腐っている。頂上も似たようなものだ。少し離れた場所に見える正殿は、民家ほどではないがボロボロだった。参道に沿って植えられた樹木は育ち放題で、伸びた枝の繁りから差し込む陽光が、地面で小刻みに揺れ動いている。
弔路谷は番傘をくるくると回しながら参道の中央を歩く。堂々と。いくら廃村の廃神社とはいえ余りにも不敬だ。
「おい、端を歩けよ」
僕の小言に、弔路谷は「やーだ!」と明るく返す。
「こんなに廃れてたら神サマも引っ越し済みだよ」
「そうだろうけど。……いや、神サマって自分で引っ越せるのか?」
「やろうと思えば出来るよ」
マジ? いや、そんな馬鹿な。無理だろ。
反論しようとして、しかし僕は口を噤む。弔路谷の口調が断定的過ぎて、説得力があると思わされたからだ。
それに……いつから居たのだろう。僕と弔路谷は睨まれている。たくさんの男女から。老若男女、大きい瞳にも細い瞳にも。鋭く刺さるような視線が向けられている。もしも視線が可視化されたら、僕らは揃ってハリネズミみたいになっているに違いない。或いはヤマアラシか。
ともかく誰も彼も怨めしげで、どうしようもなく淋しそうだ。もしかしたら、生きて廃村を出られないかもしれない。それは困る。弔路谷の後を追いながらスマホの画面を確認する。ちらちらと反射する光が眩しい。
左上部に表示された電波状況――圏外。
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