Day3 文鳥
文鳥を飼い始めたから見に来て、と
呪われた番傘を愛用し、捕獲した透明人間を拷問の末ウエルダンにする狂気の電波女が、生き物を飼育するだなんて! 言語道断だ。動物愛護団体に訴えられろ。いや、動物愛護法違反で逮捕されるべきだ。それより何より、無垢なる文鳥を解放してやらねばならない。手遅れとなる前に。
固い決意と使命感を胸に、僕は弔路谷家へ向かう。
弔路谷家は、所謂“高級住宅街”の一等地に建っている。これまで何度かお邪魔したが、一度も彼女以外の人間を眼にしたことはない。家族全員幽霊、という意味ではなく。単純に留守なのだ。過去の会話から察するに両親は共働きなのだろう。そして恐らく兄弟姉妹はいない。
夏の殺人的な日差しに屈せず辿り着いた僕を、弔路谷は氷入りの麦茶片手に迎えてくれた。冷房の空気が皮膚を、冷えた麦茶が食道を始めとする内蔵の温度を下げてくれる。
一息に飲んだ麦茶のお代わりを貰い、半分ほど飲み干してから「それで」と本題に入る。
「憐れな文鳥は何処にいる?」
「こっち」
そう言って案内されたのは地下室だった。冷房によって冷やされた空気とは異なる、地下室独特の、ひんやりとした黴臭さの混ざる空気。弔路谷の細い指先が、壁に設えた電源をパチリと押す。天井の蛍光灯が小さな音を発しながら灯る。白い光に満たされた地下室の中央には木製のテーブルが一台。その上に、鳥籠は置かれていた。
大型の鸚鵡が悠々暮らせそうな籠の中には確かに、一羽の鳥が居る。
僕の知っている文鳥ではなかった。姿形は間違いなく文鳥である。が、僅かに開いた嘴から、爬虫類のような舌が幽かに覗いている。円らな瞳に輝きはない。完全に濁っている。そして禍々しいオーラを放っていた。
「これ、文鳥?」
「うん」
僕の引き気味の反応など意に介さず、弔路谷は頷いた。その後に続いた「ガワはね」の言葉は聞こえなかったことにする。世の中、知らない方が幸せなことが沢山ある。鳥籠の陰に隠れていた「不死」だの「アンデッド」だのと記された書物も、眼に入らなかったこととした。
僕は何も聞かなかったし、何も眼にしていない。ただ鳥を見せられただけだ。きっと新種に違いない文鳥。こいつの餌はなんだろう。生憎、鳥類に関する知識には明るくない。通常の文鳥が何を食べるのかも知らない。新種の文鳥の餌など皆目見当がつかない。使命感より好奇心が上回った僕は、恥も外聞もなく質問を投げかける。
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