Day2 透明

 朝から拷問動画を見せられて、僕のテンションはだだ下がりである。

 嫌なら見なきゃ良いだろって話だけれど、「目覚ましにピッタリな動画あげる♡」と言われて、誰が拷問モノだと予想する? そんな奴が存在するなら僕はそいつの正気を疑う。確かに目覚ましに打って付けの内容だったけれども。否、送り主が弔路谷怜ちょうじたにれいな時点で疑うべきだった。完璧に僕の失態。

 しかし同時に、関心もしていた。

 拷問を受けているひとは脚を破壊され、足の爪を剥がされ、しっかりと水責めにされたあと電気ショックを与えられ、最期は火達磨となっている。のに、肉体が全然見えないのだ。

 拘束椅子の激しい振動や中途半端に浮かぶタオル、そのタオルの上へかけられた大量の水が伝う様からして人型の何かが居るのは判る。けれど、こんがり焼けた肉塊が現れるまで目視できない。髪も身体も瞳も、飛び出た骨も映らない。

 三度も繰り返し再生したところで弔路谷からの着信。

「どうだった?」と尋ねる声音は、ご機嫌で堪らないといったふうだ。「よく撮れてるでしょ」

 監督だけでなく撮影もやったのか。という言葉は飲み込んで、ストレートに誉めておく。

「あぁ。凄いCG技術だな。まるで透明人間だ」

「はぁ?」

 地を這うような声だった。先程までのご機嫌な様子から急転直下。一気に不機嫌になったらしい。チッ、と舌打ちが聞こえる。仮にも女の子なんだから、舌打ちなんてするんじゃない。と思ったけれど、その言葉もまた飲み込んだ。

 低くて冷たい声が「細部までちゃんと視てよ」と言う。

「本物の透明人間だよ」

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