Day25 報酬

「弔辞谷怜を殺害したら壱百万円」という闇バイトを見つけた。

 なんだか馴染み深い名前だ。そして壱百万円だなんて安過ぎると思った。前金にもならない。僕は激怒した。ふざけるな。破格にも程がある。やつを殺すには、お値段以上の技術と精神力が必要なんだぞ。なめてんのか、こいつ。

 怒れる僕は依頼人と思しき相手へダイレクトメッセージを送る。

「貴様、馬鹿にしているのか?」

「そんな端金で遂行できるような雑魚ではない」

 他にも何とかかんとか。荒ぶる感情を制御せず、頭に浮かんだ言葉そのまま書き出す。相手は僕のメッセージを、きちんと読んでいるらしい。が、何の反応も示さなかった。ブロックさえしない。僕の怒りは益々燃え上がる。

 抗議開始から六時間ほどが経った頃、漸く返信があった。

『いくら欲しい』

 僕の多大なる労力に対し、たった六文字とは。やっぱこいつ、なめ腐ってんな。僕の舌打ちが聞こえたとは思わないが追加のメッセージが届く。

『言い値を払う』

 じゃあ「壱百億」を要求したら、払ってくれるのだろうか? 物は試しに言ってみたら即OKが出た。キャッシュではなく、ビットコインだったけれど。どんだけ殺したいんだ。

 しかし僕は〈弔辞谷怜〉という人物を知らないので、依頼は受けずに警察へ匿名通報する。見ず知らずの人間を八〇億人の中から探し出すスキルやネットワークを持っていれば、喜んで壱百億をゲットするのだが……僕は小市民であり一介の大学生。それ以上でも以下でもない。

 義務を果たした後、弔路谷へメッセージを送る。

「人間から命を狙われる覚えは?」

 即、既読がついた。十秒と経たず返信。

『この前の呪詛以外で?』

「そ」

『ない』

「お化けは?」

『ない』

「判った、フラペチーノ奢ってやる」

 今度もまた直ぐに既読がついた。が、返信が届くまで、たっぷり二時間が費やされた。

『なんで』

『こわ』

『あたし殺される?』

「善行を積みたい気分なんだよ」

 割と切実に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る