第12話:帝都にて(お題:門番)

 大広間に、黒い鎧姿の兵が整列する。一糸乱れぬ動きで槍を眼前に抱え、高らかに叫ぶ。

「我ら太陽帝国オルベリクの神帝シャリアさまに、永劫の誉れあれ!」

 彼らがたたえるは、玉座に収まる少女。いまだからだは成長途中で、豪奢な衣装をまとっているというよりは、服に着られているとも言える。髪と同じ白色をした長いまつ毛の下からのぞく紅の瞳は、憂鬱そうに兵たちを眺めている。

「貴様らの心意気、シャリアさまはたしかに受け取った! これからも太陽のもとに忠誠を貫け!」

 応えるのは幼帝ではない。そのかたわらにひかえる宰相が、自分がこの場でもっとも偉いかのように振る舞う。その髭面に視線を向けて、シャリアは小さなため息をついた。


「茶番であることよ」

 民の税によって贅を尽くした自室に戻ったシャリアは、そうぼやいて重いマントを脱ぎ捨てると、ちいさいからだを大人用のソファに沈める。

「お祖父じいさまが亡くなり、継承争いで父も母も親戚もことごとく命を落として、帝都もあちこちが火に包まれた」

 よわい十とは思えぬはっきりした口調で、シャリアは語る。

「太陽帝国のかたむきから目をそむけ、くだらぬ権力争奪戦を繰り広げる連中の、あさましいことよ」

「それが政治ってもんですからねえ」

 幼き皇帝の独り言かと思われていた室内に、返事が低くささやかれる。いつのまにかシャリアの背後に、赤毛の男がかしこまっていた。

「連中、領土拡大に余念がないようで。次はフェアンの竜を狙っているようですぜ」

 男の言葉に幼帝はうなずき、「クストス」と呼びかける。

「出兵の際には、わらわの権限をいかんなく発揮して、そなたを遠征隊指揮官につける。つつがなくことを運べ」

「へえ、『つつがなく』ですね」

 男は狼のようににやりと笑ってみせる。

「俺は陛下の番犬クストスですからね。まあせいぜい上手くやらせてもらいますわ」

「よきにはからえ」

 神帝の門番として唯一信頼する男に、シャリアは紅の瞳を向ける。その顔は、無力な子どもではなく、己の分をわきまえてなお、凛とあろうとする、為政者のものであった。

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