第五話 異形


橋本は言葉を続けた。「殺さなければ…」と言った瞬間、橋下の腹から幼少期の彼の顔が浮かび上がってきた。その顔は瓜二つであり、まるで時が止まったかのようだった。


狂気にとらわれたまま、黒崎は頭を抱えていた。すると、学校の建物から巨大な手が再び現れた。その手は黒崎と橋下の方に近づき、黒崎の足を捉えて学校の方に投げ飛ばした。


黒崎は教室のガラスを突き破り、机の角に激突した。辺りは一瞬、衝撃と破片の音に包まれた。


逃げ出そうとする黒崎の前に、教室の影から橋本が姿を現した。狂った笑みを浮かべていた。そのとき、橋本の身体が異形に変化し、あらゆる場所から顔が現れ始めた。


複数の顔が狂気に満ちた笑みを浮かべながら、黒崎に向かって語りかけた。


「殺さなければ……ワイルドハントの復活を図る者を……」


その言葉が響き渡る間に、学校の床、天井、窓からも橋本の顔が次々と具現化した。黒崎は一瞬で逃げ出そうとしたが、恐怖に凍りつき、身動きが取れなくなった。その時、廊下から橋本のような手が現れ、彼を引きずり込もうとした。しかし、そこにいたのはイギリス人風の男性だった。彼は迅速に近づき、黒崎に向けて散弾銃を投げ渡し、言った。


「今すぐ撃て」と。


男性はそう言ってその場を後にした。


 散弾銃が発砲されると、橋本は苦痛に顔を歪め、学校中から発狂の音が轟き渡った。その音はますます強烈になり、耳膜を破りそうなほどの狂気を孕んでいた。


学校の玄関に辿り着くと、複数の顔が合体した異形の存在が「ころす」と呟きながら立ちふさがった。彼らの顔からは血が滲み出し、黒崎に向かって襲いかかってきた。


黒崎は再び全速力で逃げ出し、玄関が突破できないと悟り、教室のベランダへと向かうことを思いついた。すぐさまその方向へ向かい、ベランダに辿り着いた。


一瞬の迷いもなく、彼は飛び降りた。


学校が恐怖の館へと変じ、異形の生命体に取り憑かれた。学舎の一角から巨大な手が現れ、黒崎を圧し潰そうと握り拳を作り、残虐な一撃を加えようとした。彼は必死に避けようとしたが、飛び降りた衝撃で足が痛み、動かせなかった。


焦燥感が彼の顔に広がり、黒崎は橋本に向かって声を荒げた。


「何てことをしているんだ……橋本!」


橋本は凶悪な声で咆哮し、その言葉を返した。


「ワイルドハントは絶対に生かしてはならない……殺すんだ」

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