第5話 災害
病室で意識を取り戻した黒崎は、手持ち無沙汰なまま天井をじっと見つめるしかなかった。悲しみと後悔の感情が心に交錯し、涙が彼の頬を伝って流れた。
その時、ベッドの傍に置かれた薄型テレビから、ニュースが突如として流れ始めた。ニュースキャスターは、緊張に満ちた面持ちで、震える声で報告を始めた。
「日本全土に突如として襲来した白い巨大な手の被害は、広範囲に及び、行方不明者は百万人を超えました。そして、残忍な現実として、死者の数は1000万人を超えるとの報告が入っています。」
レポーターは息を詰まらせながら続けた。
「この白い巨大な手が突如として姿を消しましたとの情報も入っており、今なおその正体や目的は謎のままです。警察や自衛隊は総力を挙げて被害の捜査と救助活動に当たっていますが、混乱と絶望が国中を覆っています。私たちはこの恐怖と闘わなければなりません。」
とリポータが告げると、停電が発生しテレビの電源が一瞬で消えた。
近くには家族がいて、怪我をした子供を抱きながら泣き叫んでいる。黒崎は言葉も出ず、ただただ固まっていた。
周りでは、被害に遭った人々が悲鳴を上げ、絶望の叫びが響き渡っていた。まるで地獄そのものだった。
黒崎は老人の言葉の真相を考え込んでいた。組織とは一体何なのか。アーサーウィリアムとはいったい誰なのか。
思考に耽っていると、窓の外で武装した機動隊が病院に忍び込んでいく様子が目に入った。何が起こっているのか、理解することができなかった。
機動隊が病院に入り込むと、重厚な男性の声がアナウンスされた。
「私たちは国家公安機動隊です。ここから特別な検査を実施します。受付までお越しください。反抗する方は国家反逆罪で逮捕されますので、覚えておいてください。こちらにはテロ組織との関係がある人物が入院しているとの報告がありました。その方を見つけるために、検査を行います。」
困惑をした老人の言葉と組織との関連性について考えをめぐらせていた黒崎は、病室にいる機動隊の一人が小銃を構えて彼に話しかけた。
「ここの病室に入院している人は受付にはこなくて良い。数分待てば検査する人が来ますので、大人しく受けていてください。」
その際、入ってきた機動隊の中には、母親を殺した人物がしていたドラゴンのタトゥーを持つ者がいて、それを見て黒崎は恐怖で慄いた。
黒崎の検査の順番が回ってきた。検査を行う機動隊は、温度計に似た機械を腰から取り出し、黒崎の手首にセンサを当てた。すると、機械から音が鳴り始めた。
音が鳴るにつれ、機動隊の顔が神妙になり、小銃がこちらに向けられてきた。
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