第九話 食いちぎる

黒崎は、蝿を追い払おうと必死になっていたが、その数があまりにも膨大で、力では到底制御することはできなかった。周囲の光景は飛行機の姿がなくなり、代わりに日本が広がっている様子だった。何が起こっているのか全く理解できないままでいた。


周りを見回すと、黒崎だけでなくアーサーとエリザベスも同様に場所を移動していた。


そして、目の前にはスーツ姿のアームストロングが笑みを浮かべながらこちらに歩いてきた。


アーサーはアームストロングに言った。


「リベンジしてもいいか?」


アームストロングは答えた。


「かかってこい」


その一言には緊迫感が漂っていた。


アーサーはアームストロングの腹部に容赦ない蹴りを放ったが、華麗にかわされて反撃され、一気に吹き飛ばされた。エリザベスは味方を援護すべく拳銃を数発発射したが、それも巧妙に避けられてしまった。


一瞬の間にアームストロングの周りに集まった蝿の大群は、ナイフの姿へと変化し、彼の手に握られた。恐ろしい光景の中、エリザベスの太ももに一撃が突き刺さった。痛みに苦しみ彼女は地に倒れてしまった。


アーサーはエリザベスに駆け寄ろうとしたが、アームストロングによって肩を掴まれ、腕を引きちぎられた。血が噴き出し、大量の出血に苦しみながら、アーサーも倒れてしまった。エリザベスは彼に近づこうとしたが、アームストロングによって足をかみ切られた。血が彼女の口から流れ落ちた。


黒崎は何もできないままで、ただその場の悲劇を目の当たりにするしかなかった。自分の無力さに嘆き悲しんだ。


なぜは何もできないのだろう...。なぜ...なぜ動けないのだろう...。


頭の中で思考が激しく交錯する。


アームストロングは笑みを浮かべながら、こちらに近づきながら言葉を口にした。


「これが最後の瞬間だな…」


蝿たちは一瞬でナイフの姿に変化し、アームストロングは手に握りしめ、その鋭利な刃を黒崎の足に向けて放り投げた。黒崎は必死に逃げようとするが、痛みにより身体は動かせない。その時、目の前で撃たれたはずのドラゴンが立ち現れる。これは幻影ではない。宿敵でありながら、一部は憧れてきた存在だった。


ドラゴンは黒崎に向かって怒声を放った。


「起きろ… そうだろう? まだ生きたいんだろう?」


ドラゴンの言葉を聞き、黒崎は一瞬で覚悟を決め、その場から逃げ出そうとしたが、出血により視界は次第に暗闇に包まれていく。


気がつけば、黒崎は自分が住んでいた自宅の前に倒れていた。


目の前にはドラゴンが座り込んでいた。それは幻ではなく、現実の存在だった。

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