第五話 男性の正体

古びた壁の陰から、男性の掠れた声がこだました。「また新しい者がやって来たか?」黒崎はうなずきながら応えた。


「そうだ、俺が連れてここに来られた」男性は嗤いながら言った。 


「ならば、共に脱出しよう。俺は息子に会いたいんだ」その瞬間、暗闇に包まれた独房の扉の先から足音が響き渡った


足音は彼らの独房の前で立ち止まり、息を潜めた。


扉が静かに開くと、軍服を身にまとった男性が立っていた。彼の顔には斜線の傷が走り、その目は冷たく光っていた。


男性は黒崎に近づき、恐ろしい言葉を口にした。「お前は実験体の1号だ。初めて地球外の血を持つ存在を目にするな。今からその血を抜き取りたいと思う」


彼は握り拳を作り、黒崎の顔に容赦なく打撃を加えた。黒崎の顔から血が滲み出し、男性はハンカチでそれを拭い取った。


男性は血を取ると、再び扉を閉めた。その瞬間、再び掠れた声が響いてきた。その声は悲壮感に満ち、苦悩が滲み出ていた。緊迫感が一段と高まり、状況はより一層厳しいものとなった。


「ここから脱出したいか?今この瞬間にでも」


「もちろんだろう!今すぐにでもここから逃げ出したい!」黒崎は怒りを込めて応じた。


「なら命令を聞け!軍人が来た時、何かしらの行動を起こして連行されろ。そうすれば必ず事務室に連れてかれる。

そこにある鍵を取り、俺のところに来い」


黒崎は軍人の到来を待ちわびていた。意外にも、たった二人の軍人が扉の前に姿を現した。


無言のまま、軍人たちは黒崎を拘束し、荒々しく別室へと連れ去った。


そこは医療台のような装置が配され、散らばった注射器が目に入った。恐怖に身を震わせ、悲しみの涙が頬を伝った。


すると、軍人の一人が厳粛な口調で囁いた。


「今からお前の血を頂く」

医療台に身を乗せ、拘束具が身にまとわりついた。数分後、医者のような人物が現れ、手には注射器が握られていた。


注射器の針が皮膚に近づく瞬間、黒崎は意識を失った。


目を覚ますと、独房の中にいた。声が何度も聞こえてくる。その声はいつもの男性のものだった。男性は嗄れた声で告げた。


「どうだ、成功したか?」


黒崎は答えた。


「いや、失敗だ。うまくいかなかった。」


男は最後の提案をした。


「最後の手段だが、死んだふりをしてくれ」


命令に従い、黒崎はただ黙って案を実行し、死んだふりを演じた。


その時、男性の声が激高し、看守に繰り返し問いかけた。


「なんだこれは!横の男が声を上げない!いつものように声を出せと言ったはずだ!」と叫びながら、看守は黒崎の独房の扉を開いた。


その瞬間、黒崎は看守を羽交い締めにして、強烈な一撃で気絶させた。


鍵を取り隣の独房を開けると、男性は一言口にした。


「大きくなったな息子よ」

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