第四話 シベリア
目が覚めた瞬間、黒崎は漆黒の闇に包まれていた。静寂が辺りを支配し、彼の心に恐怖の波が押し寄せてきた。その時、目の前にひと筋の光が差し込み、男性の声が彼の耳に届いた。
「ここはどこだと思う?」
次の瞬間、鈍い痛みが鈍器のようなもので彼の身体を襲った。黒崎は悲鳴を上げると、男性の声が再び響いた。
「まだ生きているのか。ようこそ、シベリアの捕虜収容所へ。地獄が君を待っているさ」
その言葉は恐怖に満ちており、黒崎は暗闇の中で身動きを封じられ、静寂と恐怖に取り囲まれた状況に立ちすくんだ。
男性の冷酷な笑みが広がりながら、黒崎は激しい怒りを露わにした。
「何故ここにいるんだよ...日本に居たはずじゃねぇのかよ!」と彼は憤りを込めて叫んだ。
男性は嘲笑いながら答えた。
「確か名前が黒崎って言うんだよね。黒崎君は、自身の血に関する事は知ってるか?その血は軍事活動で使えるのさ」
黒崎の怒りは頂点に達し、彼は怒鳴り声を張り上げる。
「ふざけるな...!俺は軍事利用される道具じゃねえぞ!」
しかし、男性は黒崎を冷たい手錠で拘束し、無慈悲な笑みを浮かべながら彼をシベリアの収容所の中庭へ連れて行った。
シベリア収容所の中庭には、餓えた囚人たちが並ぶ。灰色の顔、虚弱な体、目には絶望の光さえも失われていた。彼らは野獣のように、一握りの食糧を求めて争い始める。
鉄格子の向こう側から放り投げられるのは、冷たく腐ったパンくずやわびたスープだけ。匂いは腐敗と絶望の病根を運び、腹が減り果てた身体を更に苦しめていた。
囚人たちは、むしろ人間とは思えぬ姿に変わり果てている。食い意地を削がれ、残酷な現実に引き裂かれた彼らは、飢えによって野蛮化し、生存本能だけが彼らの行動を支配していた。
一つのパンくずが地獄の争いの引き金となり、囚人たちは凶器を手に取り合い、血塗られた戦いが始まる。飢えた牙が剥き出しになり、人間の尊厳は忘れ去られる。この飢えに満ちた闘争の場において、個としての人間性は砕かれ、残されたのは生き延びるための本能のみだ。
黒崎は無慈悲に収容所の独房に放り投げられた。ドアが鈍く重い音を立てて閉まり、彼は孤独な闇に包まれた。
狭くて薄暗い空間は、絶望と恐怖の痛みで満ち溢れているかのように感じられた。湿った冷気が彼の肌を這い、不気味な沈黙が彼の心を押し潰した。
黒崎は手錠の重みを感じながら床に膝をつく。彼の心は絶望の谷底に沈んでいき、絶え間ない恐怖が彼を蝕んでいった。孤独と苦痛が彼を取り囲み、どこからともなく聞こえる凄まじい叫び声が彼の耳を貫いた。
独房の壁には、前の囚人たちの絶望の証が残されていた。落書きや傷痕が走り、虚ろな目で書かれた言葉が彼に語りかける。「死を望む」という忌まわしい言葉が壁に刻まれ、黒崎の魂に恐怖を刻みつけた。
時間の経過が不確かなまま、黒崎は恐怖と絶望の闇に囚われた。虐待と拷問、無情な監視が彼を待ち受けている現実が彼を襲い、苦悩の涙が彼の目から溢れた。
収容所の独房は生命の息吹を奪い、黒崎の精神を蝕む。彼は孤立し、絶望の中で自分自身を失っていく。彼の人間性は狂気の中で歪み、闇に溶け込んでいくのだった。
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