第十五話 違和感の始まり
王都へ続く街道にて──
森から出てきた謎の男と冒険者らしき人物が緊迫した空気の中、対峙していた。両者見つめ合ったまま動かない。
見たところ謎の男は正常ではない様子だ。血走った目にヨダレを垂らした口元。血が出るほど唇を噛んでいる。まるで何かに憤っているような、そんな状態だった。
「ゔぉぉぉぉぉ!!!! ぶっごろず!!!」
「と、トマソン!やめろ!どうしたんだ!」
男は怒り狂った様子で剣を掲げ、冒険者へと突撃する。その攻撃に彼も冷静に対応し、甲高い音を響かせながら両剣を交えた。
──しかし、よほど力が強かったのか冒険者は吹き飛ばされながら馬車へと激突する。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
中に乗っていた商人らしき女性が悲鳴を上げながら逃げ出した。続くように他の商人たちも馬車から離れ、男と距離をとる。
その様子を見ていたリノが元気いっぱいに──
「おお!?戦いか!?ならば我も参加してよいのか!?」
──と、目を輝かせながら拳を鳴らしていた。
「いや、リノが加わると漏れなく全員死ぬからダメだ」
「なぬ!?」
あまりの衝撃に固まるリノ。とりあえず対人は封印な?殺人事件になるから。
「げほっ……ごほっ……おい、トマソン……どうしちまったんだ?俺を、忘れたのか……?げほっ……」
馬車に埋まっていた冒険者が立ち上がり、満身創痍の状態でトマソンという男に問う。
「殺す殺すころすころすコロスコロォォォス!!!!」
あれはダメだ。理性なんてない。何故あれほど憤っているのかわからないが、今は助けに入るべきだろう。
そう思いながら剣を抜き、冒険者に刺突する男の前へと飛び出した。
────ガキィン!
迫り来る剣を弾き、そのまま流れるように回し蹴りを放つ。無防備な状態だったためか、トマソンという男は馬四頭分ほどの距離まで吹き飛んでいった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……ありがとう。げほっ、けっ結構きいてるな……」
「ここは俺が食い止めるので、今は休んでいてください。お互い無傷では済まなさそうですが……」
「た、頼む!変なお願いかもしれないがアイツは殺さないでくれ!アイツは……っ!俺の昔からの友人なんだ!今は様子がおかしくなってるだけで、それもなにか原因があるはずなんだ!」
「わかりました、善処してみます」
大体予想はしていたが、やはり顔見知りだったか。大丈夫、殺しはしない。というか俺は人間を殺すのに抵抗があるしな。
ともかく今は最小限の被害で相手を無力化することに集中しよう。
「カイン、わたしも手伝う……」
「クルエラ……ありがとう。ただ、出来るだけ彼を傷付けないようにしたい」
「わかった……」
「クルエラだけずるいのじゃ!我も戦いたいのじゃ!」
くっ……!やっぱりリノはそう言うよな!少しだけ大人しくしててほしいんだが……!
頑張って真面目な表情を作る。
「リノ……君には俺たちに迫り来る強大な敵を倒せるように、力を温存しててほしいんだ。だから今回は俺においしい思いをさせてくれないか?」
「むむっ、我は別に温存せんでも倒せると思うんじゃが…………。何やら辛気臭い顔をしておるのぉ、お主。まぁ納得はいかぬが今回は譲ってやるのじゃ」
「助かる……」
よし、これでリノに気を使わずにトマソンさんと戦うことができる。後は彼をどう無力化するかだが……。とりあえず、クルエラには後ろにいる冒険者を介護してもらうことにした。
「許ぜない!殺す殺すコロォォォス!!!」
仰向けに倒れていたトマソンさんが血走った目をカッと見開き、立ち上がったかと思えばそのまま俺の方へと突っ込んでくる。
剣を振り上げ、力任せの一撃。所作が荒い。力がブレてるから楽に返せるな。
──ガキィン!
彼の剣が折れた。隙を見て腹に蹴りを入れる。
──が、その一撃は止められた。直後に顔面に走る強い衝撃。視界が回る。地面に転がったところで初めて殴られたのだと理解した。
「痛っ……てぇ……」
口に広がる鉄の味。それをペッと吐き出しながら立ち上がり、剣を構える。さきほど打ち合った時の衝撃で、まだ右腕が痺れていた。あの男、人間とは思えない馬鹿力だ。
「うぉぉぉぉ!!!!」
「くっ……!突き抜けろ!──
魔法陣から射出された風の弾丸はまっすぐにトマソンさんの足元へと飛んでいき、見事に命中する。
「ぐぅぁ……っ!」
彼は一瞬だけ苦悶の表情を浮かべて
痛みはあるみたいだが気にしてないのか……。もはや自我がないと見ていいだろう。こうなると魔物以上に厄介な存在だな。
「突き抜けろ!──
牽制の意味を込めての一撃。先程は右足を狙ったから今度は左足だ。それは再びトマソンさんの足へと命中し、転倒させることに成功した。
「加勢する……カイン」
「クルエラ!」
「……どうしたらいい?」
「とりあえず動きを封じてくれ!」
その言葉にクルエラは小さく頷く。
「
彼女の手から血の粒子が溢れ出し、それは鎖の形を成しながらトマソンさんを包んでいく。そして数瞬後、赤色の鎖に巻かれた彼の姿がそこにあった。
「クルエラさんすげぇ……」
……もうこのスキルだけで大体の事は出来ちゃうよね。武器としても防具としても最高の性能だから隙が無さすぎる。万能型だし本当に便利なスキルだよ【
「放ぜ……っ!」
男がじたばたと暴れているが、血の鎖は微動だにしていない。
「トマソン!」
馬車の奥から片腕を抑えた冒険者が現れた。彼は恐る恐るトマソンさんの方まで駆け寄ると、膝を着いて顔を覗き込む。
「やっぱり……トマソン、だよな?俺だよ、コンラットだよ!」
体を揺すり、訴えかけるように彼は叫ぶ。だが、返ってきたのは不気味なうめき声だけだった。
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