第二十四話 大群の奥にいた魔物


魔物たちの進軍によって発生している地鳴りが徐々に小さくなってきた。相変わらず奥の景色は砂埃すなぼこりで見えないが、その勢力も半分くらいに減ったんじゃないだろうか。



「……純血衝弾アンロクト・スバール



なんだか隣にいるクルエラの雰囲気が怖い。なんというか、言葉では言い表せないけど攻撃に気持ちがこもってるような。さっきからずっとこんな調子なんだ。リノとの一件でまだ怒ってるのかもしれない。



「突き抜けろ!──風の弾丸ウインド・バレット!」



遠くから毒液を飛ばすそうとしてくるダークスネイクを魔術で牽制する。次いで突進してくるウッドウルフを剣の腹で受け止め、体を回転させて勢い任せに振り斬った。

自分で言うのもなんだが、魔術の的中率だけはかなりいい方だと思うんだ。剣の腕はそこまで自信がないけども。



「ギャシャァァ!」



今度はダークウルフのお出ましか。



「ヴォォォォ!」



更に奥からはタンクオーガまで出てきた。危険度がBランクに指定されてる危険な魔物だ。あの時のゴブリンキングと同様に、かなり手ごわい相手となる。



『な、なんでタンクオーガがこんなところに!?』



『お、おい!ありゃBランクだろ!?俺たちの手に負えるモンスターじゃねぇよ!』



一部で混乱が起きている。それもそのはず、タンクオーガは<死の森>でしか確認されていない魔物だ。その体は強靭で、並の攻撃では傷をつけることすら困難である。実際に、今も絶えず放たれている魔術の攻撃に全く動じていない様子だった。



「ヴォォォォ!」



「……純血衝弾アンロクト・スバール



襲い来るタンクオーガをクルエラが一撃でほふる。ゴブリンキングの時にも思ったが、彼女たちからすればBランクの魔物なんて相手にもならないんだろうな。



「少しは面白そうな奴がおるみたいじゃの」



リノも同様に一撃で魔物たちを倒していた。その度に近くにいる冒険者から息を飲む音が聞こえてくる。



「ギャシャァァァァ!」



気付かない内にダークウルフが肉迫していた。

慌てて迎撃態勢をとろうとしたが、これじゃ間に合わない……!



「うぉらァ!」



──と思っていたら近くの冒険者が助けてくれた。

重斧の使い手だ。確かフレインさんだったかな?危ないところだったけど、この人のおかげで怪我をせずに済んだな。



「助かりました。ありがとうございます」



「いいってことよ!……それより、あのローブを被ってる二人組の冒険者たち、強いよな!あれが俗に言うSランク冒険者ってやつなのかね?やっぱ王都ってすげーよ!」



「さ、さぁ……どうでしょうかね……」



やはり彼女たちの強さは目を引くようだ。まぁ今の話を聞く限り、どこかのSランクパーティーの一員だと思ってるみたいだけど。



「ギャシャァァ!」



今度は後手ごてを踏まない。丁寧に、しっかりと、相手の動きを見極めて反撃する。

ダークウルフは俊敏だが、実はその行動には規則性があるんだ。じっくり観察すればCランクといえども簡単に倒せるようになる。



「ヴォォォォ!!!」



砂煙の幕を突き破ってタンクオーガが接近してくる。こいつは俺の身長を優に超える魔物だ。隆々とした筋肉は硬い皮膚で覆われ、手には人間ほどの大きさを持つ棍棒こんぼうが握られている。攻撃力、防御力ともにBランクの中でもかなり脅威的な強さだ。


──タンクオーガが棍棒を振り上げ、俺を攻撃してきた。



「ちっ!」



咄嗟に剣で受け止めるが威力が強すぎて弾かれてしまった。慌てて崩れた体制を立て直そうとしたけどすぐさまタンクオーガが迫ってくる。

──直後、腹部に強烈な蹴りを受けてしまった。

衝撃とともに体が浮き、そのまま吹き飛ばされる。



「ぐっ……!」



景色が後退していく。一瞬の浮遊感を感じたが、それはすぐに止まってくれた。体がなにか柔らかいものに包まれている。



「……カイン、大丈夫?」



「あ、ああ……流石に死んだかと思った」



後ろにいたクルエラが受け止めてくれたみたいだった。タンクオーガの攻撃も、衝撃こそ強かったが痛くはない。

無傷なのはクルエラが作ってくれたローブのおかげなんだろうな。本当にびっくりするほど万能なスキルだよ。

リノも加勢するように前へ出ると、先程のタンクオーガを木っ端微塵にする。



『うおぉぉぉ!タンクオーガなんかには負けねぇよ!』



『凍てつく槍よ!──氷の槍アイス・ランサ!』



前衛では高ランク組の冒険者が前に出て応戦している。後方の魔術組も、一体に集中砲火して何とかタンクオーガを倒そうとしていた。



「はぁぁぁ!炎よ剣となれ!──紅蓮剣ブレイジング・ソード!」



流石にBランクの魔物はやばいと思ったのか、エルメニコさんも指揮を中断して前線まで出てきていた。奴らの強さを考えると並の冒険者では死ぬ可能性もあるからな。恐らくそれを危惧してここまで来たんだろう。



「氷よ剣となれ!──白群剣フリージング・ソード!」



戦っているエルメニコさんの姿は初めて見た気がする。スキルは確か【魔力量上昇(大)オドアップ・テラ】だったかな?魔術師としては珍しい近距離戦も得意とする冒険者だと聞いたことがある。



「ヴォォォォ!!!」



そんなことを考えていると、再び一匹のタンクオーガが奥から突っ込んできた。恐らくこれが最後の一匹かな。地鳴りももうんでいるし、砂埃も薄れてきた。クルエラやリノのおかげで死傷者が出ることなく終わりそうだ。


タンクオーガが棍棒を振り上げる。まともに受け止めればさっきみたいに吹き飛ばされるからな。避ける体制を取りつつ、足元から一気に攻めてやろう。……そう思っていた時だった。


──タンクオーガの姿が消えた。



「なっ……」



いや、消えたんじゃない。吹き飛ばされたんだ!後ろの魔物によって!



「グォォォォォ!!!!!」



そいつは、よく知った見た目をしていた。クルエラを蘇生した日──<死の森>で依頼を達成するためにヨハン達が討伐した魔物、クレイジーベアーがそこにはいた。


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