第二十三話 みんなで協力すれば怖いものなし!


いよいよ魔物の大群がその姿を捉えられるまでに迫ってきた。それを迎え撃つように各冒険者はそれぞれの位置で待機している。


──陣形を説明するとこうだ。まずは前線に近距離のスキル保持者やその距離を得意とする者たちが配置されてある。ここが最初で最後の防衛の要なのだと、エルメニコさんは言っていた。


次に中間地点。ここでは投擲系のスキルや魔術を得意とする者たちが前線の支援をし、戦いを有利に進めるという。弓使いや魔銃士なんかもここに配置されてある。


最後は後方部隊。ここではより遠方に魔術を放てる冒険者や回復・補助系のスキルを持つ者たちが配置されてある。負傷した者は順次後退して治療などを行うらしい。


緊急クエストならではの臨時部隊という感じかな。全てエルメニコさんが考えたものだ。ギルド副長ということもあり、ある程度は冒険者たちのスキルを把握しているのかもしれない。

ちなみに俺とクルエラ、リノは最前線に配置されてある。



「く、来るぞ!」



誰かが叫んだ。魔物の大群は砂煙を上げながら俺たち目掛けて突っ込んできている。

まず先に見えたのはヘルドッグの群れだ。正確な数は分からないが、恐らく百匹以上はいるだろう。危険度はE指定となっているが、数が数なので油断は出来ない。



「降り注げ!──氷の降矢アイス・アール!」



「流れ出でよ!──火の流閃ファイア・フロース!」



後方に待機していた冒険者たちが次々と遠距離魔術を放ち、先頭のヘルハウンドたちを倒していく。続いて中間部隊も魔術を発動させ、その数を更に削っていった。火や水、雷や氷といった様々な属性魔術が魔物を殲滅していく様は、見ていてかなり爽快だった。


──土煙が上がる中、魔術の飽和攻撃を生き抜いたヘルドッグ達が何匹か襲いかかってくる。



「グルァっ!」



それを今度は前線にいる俺たちが倒していく。この程度の魔物であればまず負ける事はない。

周りの屈強な冒険者たちも雄叫びを上げてヘルドッグたちを蹂躙していく。僅かだが士気も高まっている気がした。最初はあまりの数に怖がっていた冒険者たちも、今では率先して魔物を倒しているほどだ。



「グァァァ!」



ヘルドッグを全て倒し終えたかと思えば、その後ろから今度はダークスネイクが現れた。その数もやっぱり多いようで、何体いるのかは検討もつかない。続いて左右にゴブリンナイトとウッドウルフの群れが俺たちを囲むように広がっていく。魔物のくせにやけに統率の取れた動きだった。



「囲まれたら終わりだ!展開している魔物から優先的に倒していくぞ!」



中間部隊にいるエルメニコさんが叫んだ。確かに囲まれるのはまずい。前線部隊と衝突するのであれば問題は無いが、後方部隊は近距離戦が苦手なのだ。そこをつつかれると一気に陣形が崩れる可能性だってある。



「ガァァァァ!」



「……血衝弾ロクトスバール



クルエラは周りの冒険者たちが気付いていない敵を倒してくれていた。



「うぅむ、こやつらでは手応えがないのぉ」



リノも意外と慎重に行動してくれてるみたいだった。派手に暴れるかと思っていたけど、いらぬ心配だったかな。あまりに弱すぎて気分が乗らないだけなのかもしれないけど。



「シャァァッ!」



迫り来るダークスネイクを叩き切る。徐々にだが、前線に到達する魔物が増えている気がした。やっぱり数が多すぎて魔術の飽和攻撃でも倒しきれないか。

こっちは冒険者が五十あまりなのに対して、向こうはその何倍の数もいるからな。物量では圧倒的に不利な状況だ。



「一体何匹いるんだよ!」



思わずそう愚痴ってしまう。もう何度と魔物を斬ってはいるが、その数は一向に減る予兆を見せなかった。

奥の景色は砂埃によって封じられているため全体の把握が出来ない。一体どのくらいの規模があるのか。どういった魔物がいるのか。全くわからない。


迫り来る魔物をひたすら倒していく。時折隙をつかれて危ない場面もあったが、クルエラやリノの助けもあって何事もなく済んでいる。仮に攻撃を受けたとしても、クルエラのローブがあればまずダメージを負うことはない。



『ユーグナ!そっち行ったぞ!』



『おうよ!お前も後ろから来てるぞ!』



周りの冒険者たちも意外と連携が取れてるな。王都の冒険者ギルドはパーティメンバーの移り変わりが早いと聞いたけど、そのおかげで誰にでも合わせられる適応力が身についてるのかも。


──と、そんなことを思っていた時だった。不意にローブの袖が引っ張られる。視線を向けるとリノがこちらを上目遣いで見ていた。



「我は退屈である」



「あっ、え……?」



「我は退屈なのである」



「わかった。わかったから要件を言ってくれ……」



「突撃してもよいか?」



おおぅ、そう来たか。まぁリノの性格を考えるとそう思っても不思議じゃないけど。でも、ダメだ。あれは目立ちすぎる。というよりも周りの冒険者にまで被害が出る可能性がある。



「却下だ」



「な、何故じゃ!?」



「暴れたい気持ちもわかるけど、なるべく目立つことはやめておこう」



ここ最近の龍人族の不審な動きもあるため、あまり派手に動きすぎるとリノも怪しまれるかもしれない。我慢させてるのはわかってるけど、周りの為にも──いや、第一にリノのためにも不要な力は極力使わない方がいいと思うんだ。



「むぅぅぅ!我はもっと暴れたいのじゃぁぁ!」



そんな思いとは裏腹に……彼女は今の発言が気に食わなかったのか八つ当たりするように近くにいたダークスネイクを突き飛ばした。



「あっ」



それは物凄い速さで飛んでいき、魔物の大群に突っ込んでいく。その衝撃で何匹かの魔物が宙を舞った。

近くにいた冒険者たちがざわめく。皆何が起きたのか理解できてないんだろう。流石に今の原因がリノにあるとは思ってなさそうだけど……。



「ちょ、何やってんの!?そんなことしたらダメだって!皆を巻き込んじゃうだろ!」



「我は悪くないのじゃ!」



ぷいっとそっぽを向き、まるで拗ねた子供のように頬を膨らませるリノ。────可愛い…………じゃなくて!そんな可愛い反応をしてもダメだぞ!吹っ飛んだ先が冒険者たちの方だったら今頃大惨事になってるところだ!



「……リノ、落ち着いて」



近くにいたクルエラが宥めるようにそう言う。やはり彼女がいるといざという時に心強い。戦闘面でもそうだが、主にリノのストッパー役としても。



「ぬぅぅん、お主もカインと同じ考えなのじゃな!?……あほ!わからず屋!ド変態へんたい吸血鬼!」



「……なんですって?」



クルエラからほんの一瞬だけ強い殺気を感じた。表情は見えてないけど、雰囲気的に怒ってるのかな?なんか不穏な空気が流れ始めたけど……。



「えっぁぁ、おお……お主!吸血しなくともよいはずなのに……カインには、し、してたじゃろ!?首筋に痕がついておったぞ!……へ、変態なのじゃ!」



「…………っ!?リノっ、それはっ…………!」



…………っ!

──衝撃発言!?

あれって別にしなくてもいい行為だったのか!?いや、カルミラがそうだから何でクルエラは吸血するんだろうって不思議には思ったけど!確かに吸血っていうよりはただ首を舐められた感じだったし!なんか聞いちゃいけないことを聞いた気分だ!


一瞬だけ出た殺気に、リノが驚いたようにズルズルと後退していく。クルエラがここまで感情的になってるのは初めて見た。フードの中では真っ赤な紅眼が光り輝き、ローブの輪郭からは血のオーラが溢れ出ている。そんなクルエラの様子に、リノも僅かに震えていた。そんなにビビるんなら変なこと言わなきゃよかったのに。



「……リノ、昨日の続きをしましょ?」



「く、クルエラ!?」



純血硬剣アンロクト・エーチ



クルエラが血剣を出現させた。その切っ先はリノの方へと向いている。これはまずい……!



「はいストォォォォップ!!!はい終了!!!二人とも!?ちゃんと戦闘に集中してくれ!」



いまは戦いの真っ只中だ!二人とももう少し緊張感というものを持ってほしいよ!こんなところで喧嘩したらダメでしょ!?まだまだいっぱい魔物が来てるんだから!



『なんか、一瞬だけ命の危険を感じたんだが……』



『お前もか?俺も心臓が止まるかと思ったぜ。一体なんだったんだろうな』



やっぱりクルエラが出した殺気のせいで周りにも影響が出ている。魔物も一瞬だけだが動きを止めていた。



「はぁ……」



二人は渋々といった感じで魔物を倒し始めている。まさかこんな事で気を使うことになるとは思ってもいなかった。

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