第二話 絶対絶命!?
「あれが、ドラゴン──」
思わず漏れる驚愕の声。そいつは正に絶望を具現化したような生物だった。
二階建てほどの巨体にその倍はあろう翼。鋭利な牙と爪。艶のある大きな赤鱗。殺意宿る眼光。獰猛な
「狼狽えるな!俺たちの目的を忘れたのか!」
ヨハンの声にハッとする。そうだ、このパーティの目的はその名の通りドラゴンの討伐なのだ。全ての部位が高額な素材となり、武器となり、薬となるドラゴンは冒険者にとって是が非でも倒したいモンスターの一つだからだ。
「こんな場所にドラゴンが来るとは思わなかったが手間が省けた!ジルベルト!カルミラ!行くぞ!」
「そ、そうね!こんな奴に怯んでなんかいられないわ!見たところそこまで高位のドラゴンでもなさそうだし!今の私達なら倒せるわ!」
「そ、そうだぜ!ドラゴンなんか俺の拳でぶっ倒してやる!」
「俺も全力で加勢する!」
空元気にも見えるが、この状況では自らを奮い立たせないと戦えもしないだろう。それほどまでに眼前のプレッシャーは凄まじく、剣を抜いた俺の手も小刻みに震えている。
ドラゴンが真上を見上げた。口を大きく開け、辺り一面に轟く衝撃波のような咆哮。それを合図にヨハンとジルベルトが攻撃を仕掛けた。
「カルミラは援護を頼む!ジルベルトは右!俺は左から攻める!」
「任せて!」
「了解だぜリーダー!」
ヨハンが左側から懐に入り、自身のスキルの特徴でもある破壊のオーラを剣に纏わせドラゴンの足に一閃。
続けてジルベルトも反対の足に己の最大威力を宿した拳を叩き込む!
──だが、結果は鱗を数枚破壊するだけに留まっていた。驚く二人は瞬時にドラゴンとの距離を取る。
「求めるは業火!その渦巻く紅蓮の力を持って我が敵を焼き尽くせ!──
「突き抜けろ!──
カルミラの魔術に合わせて発動した風の弾丸と球体状の豪炎は、一直線にドラゴンへと向かうと胸元に直撃する。立ち上がる火柱と土煙で一時的に敵の姿が見えなくなった。
「や、やったのか!?」
「風で威力を上げてみたけど、油断するのはまだ早い!」
「でも全力の第五階梯魔術だもの!致命傷にはなってるはずだわ!」
「トドメは任せてくれ!」
先頭に立つヨハンが剣を掲げ、そこに黒いオーラを収束させる。彼のスキル、【
そのオーラを最大限まで高め、
「うぉぉぉぉぉ!」
風を斬り、唸りを上げる大剣はドラゴンのいる場所まで到達すると土煙ごとその巨体を両断した────かのように思われたが……。
「なに!?」
剣は途中で止まっていた。正確には無傷のドラゴンの手によって受け止められていた。
「ば、バカな……」
先程の剣撃で開けた視界に最悪の光景が映る。
「あ、ありえない!破壊のオーラだぞ!?触れた部分が根こそぎ削られているはずなのに!」
しかし当のドラゴンは全く問題にしていない様子で掴んだ大剣を握りつぶすと、眼前に巨大な魔法陣を展開した。
「ま、魔術……嘘でしょ……魔術を使えるのは最低でも王龍級以上のドラゴンのはず……」
絶望に染まった表情で地面に崩れ落ちるカルミラ。その隣で同じく脱力したジルベルトがドラゴンを一瞥する。
「に、逃げよう……逃げるんだよこんなのどうやったって勝てっこねぇ!」
「無理だ!アイツに背中を見せたらそれこそ全員死ぬぞ!」
「じゃあどうすんだよ!このまま仲良く死ぬのを待つってのか!?」
その言葉に苦虫を噛み潰したような表情をするヨハン。そうしている間にもドラゴンの展開した魔法陣にはどんどん魔力が収束していく。
「突き抜けろ!──
「…………っ!貫け!──
俺とカルミラの魔術がドラゴンの顔に命中するが、それでも魔術の発動は止まらない。あんな高威力の魔力砲を受けてしまえば確実に死ぬのは分かっているが、この状況をどうしたらいいのか。
そんな事を考えていると、不意にジルベルトが俺の隣にきた。
「なぁカイン。お前が囮になれよ」
「は、はぁ!?」
コイツがこっちに来た時から嫌な予感はしていたけど、その最悪の予想が当たってしまった!
「いいだろ!今まで何もせずうまい思いをしてきたんだ!ちょっとぐらいパーティの役に立てよ!」
「無理だ!絶対に死ぬ!俺の手に負える相手じゃない!」
大体ヨハン達でも手に負えない相手を、俺一人で引きつけるなんて出来るわけがない!そんなの犬死にしろと言ってるようなものだ!
「んなこたぁ分かってんだよ!幸い前の依頼の報酬分で
「無理だって言ってんだろ!俺を殺す気かよ!」
必死に囮作戦の提案を拒む俺に、痺れを切らしたのかジルベルトは【
「ぐぅっ……がはっ……!」
余りの激痛で俺は地面に膝をつく。
「なにも確実に死ぬってわけじゃないんだ。
「そうだな、こんな状況だと仕方がない」
「ヨ……ハン……っ!」
「そうね、私の再生力だととてもじゃないけどこんな化け物相手に出来ないわ」
「カル……ミラっ!」
コイツら……全員正気か?
「頼む……助け……で……ぐれっ……!」
痛みを必死に耐えてジルベルトに縋り付こうとする俺を、パーティメンバーは無視して踵を返す。
「ヨハン、さっきの魔法でヘイトはカインにいってる。今がチャンスだ」
「そうだな」
「魔力砲が発動するまで時間がないわ。私の魔術で移動速度を上げるわよ!」
待ってくれ……行かないでくれ……俺はこんなところで死にたくないんだ!
遠ざかるパーティメンバーの背中を見つめながら、俺は地面を這いずる。
「死にたく……ないっ!」
必死に逃げようとするも、背後の魔法陣から発せられる光が高まり、周りを明るく照らしていく。それはつまり、死へのカウントダウンが迫っているということだ。
──こんなところで俺は死ぬのか。冒険者になったばっかりに、夢を捨てきれなかったばっかりに。
きっかけは村の冒険者に対する憧れだった。彼のように村の皆に認められるくらい強くなって、お金も稼いでやりたいことをいっぱいして、それで女の子とも親しくなって色々して、最後は家の畑を耕しながらゆっくりと余生を過ごしていく。夢に見ていたそんな生活を、俺は送りたかった。
そんな甘い考えをしている俺だから……無能スキルなんてものを神様から与えられたのかもな。
「はぁ……」
仰向けになり、眼前のドラゴンを一瞥する。展開された魔法陣に圧縮されている魔力が遂に止まった。
「結局俺は……何も持って……なかったんだな」
眼前に迫り来る高威力の魔力砲を前にそう呟く。もはや死への抵抗感はない。ただ、次生まれ変われるとしたら、その時は最強スキルを授かりたいかな。
無慈悲に発せられた魔力砲によって、痛みを感じる間もないまま俺は意識を手放した。
『所有者の死亡を確認しました。スキル【
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