第三話 覚醒するスキル!
ふと目を覚ますと、眩しい太陽の光に目がくらんだ。
「ここは……?」
気だるい体を叩き起して周りを見渡すと、辺りにはボロボロの木々や抉れた地面が広がっている。そしてその惨状を作り広げた生物──ドラゴン──が目の前に佇んでいた。
「うわっ!?」
そうだ、俺はあの時ドラゴンの魔力砲で死んだはずだ。現に周りは大規模な広範囲魔術でも使われた後かのように抉られている。
──そして、何故か俺は全裸だった。
「グォォォォォ!」
一瞬固まっていたドラゴンも、俺が生きていると気付くと再び襲いかかってくる。
「くそっ!」
何故かは分からないが、こうして生き延びた以上は何とかこの状況を切り抜けたい。しかし、大切に手入れしていた剣も買い込んでいた
「貫け!──
必死にドラゴンの攻撃を避けながら少しの隙を突いて魔術で反撃していく。たが一向にダメージは入っていない。というか鱗ですら傷つけられていない。
幸い魔力砲の反動なのかドラゴンの動きは鈍く、戦闘経験の少ない俺でも何とか逃げきれている。だが、このままでは俺の体力が尽きるか魔力が尽きるか、どちらにしろ死ぬ以外の道はなさそうだ。
誰か、この状況を打破できる人間がいればいいんだが、そんな都合のいい展開を期待したところでこの<死の森>に入ってくる冒険者なんてあまりいないのが事実。
[龍を追う剣]は一応Sランクと呼ばれる冒険者パーティの最高位に位置する強さがあったんだが、そんなパーティでも全く歯が立たなかった相手に、今更他の冒険者が来たところで犠牲者を増やすだけだろう。
だけど──
「誰でもいい……」
今は藁にも縋りたい思いなんだ!
「誰でもいいから……誰か助けてくれ!」
『スキル【
「…………っ!?」
誰かの声が聞こえて心臓が跳ね上がる。助けが来たのか?でも見渡す限り人の気配なんてないんだが。
『進化開始条件である所有者の死を確認しました。スキル【
頭の中に直接響いてくる無機質な声。男とも女とも取りづらいこの声の主は一体誰なんだ?
「【
『肯定。現在は
スキルが喋ってる。もうそれだけで頭が痛いのに、スキルを進化させるだと?出来るのかそんなことが。
「うわっと!?」
ドラゴンの爪を紙一重でかわす。あと一瞬でも気付くのが遅かったら死んでいたところだった。戦闘にも集中しなきゃいけない。
「グォォォォォ!」
流石に痺れを切らしたのか、ドラゴンは再び巨大な魔法陣を展開するとそこに魔力の収束を始める。
ああなると逃げても追ってくるし、至近距離じゃなくても魔力砲の余波でタダでは済まないだろう。
「スキルを進化できるんだよな?進化したらどうなるんだ!?」
『所有者の望みを叶えます』
「俺の望み?」
俺の望みってなんだ?まさかさっき言った誰か助けてくれってやつのことを言ってるのか?
『スキル【
なんだかよくわからないけど、この状況を打破するにはこれに賭けるしかない。どうせこのまま逃げ回ったところでいつか死ぬんだ。
「頼む!スキルを進化させてくれ!」
『承認を得ました。これよりスキル【
頼む!俺に残された選択肢はもうこれしかないんだ!なんでもいい……どうかこの状況から俺を助けてくれ!
『────失敗しました』
はぁ!?
「はぁ!?」
おぉっと、思わず心の声が漏れてしまった………………じゃない!失敗ってどゆこと!?
『現段階では進化の行程に必要な条件を満たしていません』
いやいやいや…………はぁ!?だったら変な期待なんか持たせるなよ!
『条件を満たすため、空間内の魔力を使用します────失敗しました。
必要な魔力に到達していません。不足分を所有者の魔力から補填します────成功しました』
「うっ…………!」
急激に力が抜けて地面に座り込む。激しい立ちくらみのような感覚が俺を襲った。どうやらスキルに魔力をごっそりと抜き取られたらしい。意外と魔力量には自信があったんだが、この感じだと八割は持ってかれたか?
『所有者の魂の一部を媒介として使用します────成功しました』
「まずいな」
徐々にドラゴンの魔力砲が完成しつつある。さっきより魔力の収束するスピードは遅いけれど、確実に死へのカウントダウンが迫っていた。
『干渉権限を得ました。これより
とりあえず距離を取ろうと試みたが、それに合わせてドラゴンもこちらに詰め寄ってくる。絶対に逃がさないってわけか。
『接続権限を得ました。これより
魔法陣の光度がどんどん上がっていく。もうそろそろ発射されてもおかしくない頃合だ。
『進化条件を満たしました。最終段階に移行。代理詠唱を開始します────成功しました。
スキル【
どうやら進化が終わったみたいだけど、蘇生する対象の名前って言われても全く思いつかない。というか死者の蘇生って、そんな神の御業のような事がスキルで出来るのか?
「本当に生き返るのか?」
『肯定。既に死亡している者に限られますが、蘇生は可能です』
でもどうしよう、ドラゴンを倒せる故人なんて俺の周りにはいなかったし、昔読んでた英雄譚の登場人物の名前もよく覚えていない。
「詰んだか……」
結局スキルが進化したところでこのザマである。ジルベルトが言うように、俺は最後まで無能だったわけだ。
風が吹き荒れる。どうやらドラゴンの魔力砲が完成したみたいだ。こんなことなら蘇生スキルなんていらなかったし、もっと目に見えて強い【
カルミラの【
『やっぱカルミラの魔術はすげぇな!下級でも威力が高すぎだろ!流石は【
『別にスキルのおかげだけじゃないわ!なんたって私はあの最強の吸血鬼と謳われたクルエラ様から、三世代くらいしか離れてない高位の吸血鬼なのよ?』
──いや、待てよ。
『クルエラっていうと、神話の時代に最強の一角と言われた〈
『そうよ!真祖クルエラ・ルガト・ノートニクス様!私の魔力の高さもきっとクルエラ様譲りだわ!』
いた!この状況を切り抜けられそうな死者が!あの時カルミラが言っていた先祖がいるじゃないか!
「クルエラ・ルガト・ノートニクス!」
『対象名を取得。クルエラ・ルガト・ノートニクスを検索します』
しかし判断が遅かったのか、遂にドラゴンの魔力砲が発射された。迫り来る高密度の魔力の塊。ビリビリと肌に伝わる死の感覚。
──あ、死ぬ
『一件の個体を発見。
これより
対象の蘇生を開始します』
その瞬間、魔力砲とは別の何かが光り輝き、それは俺の前に降り立つと迫り来る死の光線を弾き飛ばした。
「成功……したのか?」
眩い光が止んでいき、視界を取り戻した俺の目に映っていたのは────真っ白なお尻だった。
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