第五話 パーティーメンバーとの再会


じめじめとした薄暗い森の中。そこは魔力濃度の高さから魔素が霧状となって辺りを漂っている。そんな気味の悪い森を抜け出した俺たちは、近くの街道へと歩いていった。



「ふぅ.......何とか抜け出せたみたいだな」



あれからどれくらい経ったのかはわからないが、太陽も沈みかけてるからそれ相応に時間は経っているんだろう。



「いやー、クルエラがいてくれて本当に助かったよ。多分俺だけだったら<死の森>で力尽きてる」



「……ん、それはよかった」



フードを被ってて彼女の表情はよくわからないが、何となく嬉しそうにしてるのを感じた。



クルエラって基本的には無口であんまり喋らないみたいだな。<死の森>を突っ切ってる間もお互い黙々と魔物を討伐してたし、その間は会話もなかった。だから彼女の生前の事やスキルの詳細についても聞けてないんだけど、それはまた追々聞くとしよう。


あと気のせいかもしれないけど魔物を倒すのが随分楽になったような……。少し前までは大型な相手に中々致命傷を与えられなかったけど、今は魔力の最高値も上がってるせいかそこまで手こずってはいない。なんか不思議な感覚だ。

そんな事を考えながら街道を歩いていると、後ろから馬車が迫ってくる音がした。



「ん?おぉ、カインじゃねぇか!」



その声に驚いて後ろを振り向くと、そこには見知った顔の冒険者と、その人が護衛をしている小規模の商団がいた。



「ダンネルさん、久しぶりだね。また護衛の依頼をしてるんだ」



「おうよ、この商団は羽振りがいいからな!それよりお前こそこんなところで何やってんだ?」



「俺はクレイジーベアーの討伐をしてたんだ。丁度さっき<死の森>を抜け出したところだよ」



「かぁー、<死の森>たぁお前も肝が据ってんな!」



豪快な反応で天を仰ぐ中年冒険者のこの人とは、王都に来た時からの知り合いだ。人当たりもよく誰とでも打ち解けるお兄さん的な存在で、俺もギルドで会った時はよく喋ったりなんかしてる。



「ん?ヨハンたちの姿が見えないが、脱退してその人とパーティでも組んでんのか?」



ダンネルさんは不思議な顔で俺の横にいるクルエラを一瞥する。



「いや、これには色々とあったんだけど。詳しい話はまた今度させてもらうよ」



「そうかい、お前も色々と大変そうだからな。よし!なぁケーレさん!コイツも一緒に馬車に乗らしてもらえねぇかな!護衛ってことで!」



「報酬金は払わんが、それでいいならよかろう」



「よっしゃ!カイン、お前もどうせ王都に行くんだろ?なら一緒に乗ってけや!」



「ありがとうダンネルさん」



思わぬ提案だったが、これで王都まで行く時間を短縮できる。やっぱりこの人は優しい人だな。

そうして予定よりも早く王都の門まで到着することができたんだが、そこで一つ問題が起きた。



「あっ、そういえばお金もギルドプレートもないんだった!」



そうだよ!あのドラゴンに全部吹き飛ばされたんだった!



「あっはっは!お前はどこか抜けてっからなぁ。その様子じゃ隣のフード被ってる人も持ち合わせがないんだろ?いいよ、ここは俺が出してやる」



「ありがとう、今度絶対に返すよ」



「いいっていいって、返さなくていいからいつか飯でも奢ってくれや」



「約束する」



本当にこの人には助けてもらってばかりだなぁ。両親の反対を押し切って王都に来た俺に、色々と教えてくれたのもこのダンネルさんだった。あの時は不安と緊張で何から始めればいいのかも分からなかったけど、この人のおかげでパーティまで組むことが出来たし、俺が王都で一番世話になった冒険者だ。



「ダンネルさんはこの後どこか行く予定があるの?」



「ああ、とりあえずこの商品を納品するまで付き添うことになってるからな。カインはギルドか?」



「うん、俺はこのまま冒険者ギルドに行くよ」



「そか、じゃあここでお別れだな。また今度!」



「ああ、今度飯に誘うよ」



その言葉に「約束だぞー!」と言いながら城下町の大通りを進んでいくダンネルさん。俺もそのまま冒険者ギルドに向かって足を進めていく。目的の場所は王都の門からそれほど離れていないのですぐに到着した。



「さて、俺の話はどうなってるかな」



少しだけ緊張しながらギルドの扉を開けると、中からは聞き慣れた冒険者たちの喧騒と酒の匂いが漂ってくる。そのまま受付の方まで行こうとした俺は、途中で端っこのテーブルに座っているヨハンたちを見つけた。そしてその近くにいたギルド副長のエルメニコさんが俺に近付いてくる。



「やぁ、カイン君。ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」



「丁度俺も話したいことがあったんでいいですよ」



「じゃあそこのテーブルまで来てもらおうか」



エルメニコさんに先導されながらヨハンたちのいる席へと向かう。彼らの表情は皆開いた口が塞がらないといった感じで呆然と俺の方を見ていた。



「お、お前……なんで生きて──」



「ジルベルト、余計なことを言うな」



焦ったジルベルトを牽制するヨハン。この様子を見るに、やっぱり俺は死んだことになってるんだろうなぁ。



「彼らから話は聞いている。ドラゴンに遭遇したところを、君が身を呈して仲間を逃がしたらしいじゃないか」



エルメニコさんの言葉に、俺は首を横に振る。



「俺は自ら囮になったわけじゃないんです。ジルベルトの攻撃を受けて動けなくなったところを仲間に見捨てられました」



「……ほぅ、さきほどの内容と食い違いがあるな」



「てめぇっ!適当なこと言ってんじゃねぇぞ!」



激昂したジルベルトが俺に詰め寄ってくるが、寸前でエルメニコさんが牽制に入る。



「ギルド内での暴力行為は即刻厳罰に処す」



「くっ……!」



悔しそうに顔を歪めながら、彼は渋々といった感じで席に座り直した。



「ここじゃ目立つからね。とりあえず全員ギルドの会議室へ行こうか。そこで今回の話を詳しく聞かせてほしい」



「わかりました」



エルメニコさんに先導されて受付の奥にある会議室へと向かう。後ろから着いてくるジルベルトはかなり苛立った様子だし、その隣のヨハンとカルミラも何か言いたそうな顔をしているから、話を円滑に進めることは難しそうだなぁ。


そんな事を思いながら俺とクルエラは会議室へと入っていった。


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