第十九話 エルサの系列
〈エルサの浴場〉を出た俺は既に外で待機してた二人と合流し、いつものように〈エルサの旅亭〉へと向かう。同じ系列なだけあって近い場所にあるみたいだな。すぐに着くだろう。
「そういえば初めてのお風呂はどうだっ────」
「────最高なのじゃ!」
俺が聞き終わる前にリノが食い気味で入ってくる。その背中に生えた黒翼をバサバサと動かし、興奮気味にはしゃいでいた。
確かに浴場を出た時から目をキラキラさせていたけど、そんなに満足してたんだな。教えた甲斐があるというものだ。
てか翼についてる水滴が俺に飛んできてるんだが……。
「ちょっ……すごい水滴が飛んでくるんだけどちゃんと乾かしたのか?」
「否!乾かしてはおらぬがこうすればすぐに乾くのじゃ!」
リノはさらに翼を激しく動かし、したり顔で俺を見てくる。その風圧で水滴どころか俺の髪の毛まで吹き飛びそうなんですが……。
「リノ、落ち着いてくれ。そんなことしてたら他の人にも迷惑がかかるだろ」
時刻は夕暮れ過ぎ。ここは依頼を終えた冒険者や商人たちが多く行き交う街路であるため、こんなことをしていればすぐに注目を集めるだろう。現に何人かはこちらを不審な表情で見ていた。それに耳をすませば冒険者たちの小さな会話が聞こえてくる。
『……おいおい、なんで龍人族が王都にいるんだ?』
『……さぁな。俺初めて見たよ』
『……この前も天龍級のドラゴンが現れたんだろ?龍人族がなにか企んでるんじゃないのか?』
『……不気味だな。あんまり近付かない方がいい』
近年は他種族との交易が盛んになってきたらしいけど、やっぱり未知のものにたいしての恐怖はあるよな。フードで分からないかと思ったが翼でバレたか。
リノもその様子を見てなのか、「おぉ……すまんのじゃ……」と素直に従ってくれた。その大きな翼も今は元気を無くしてしょんぼりとしている。
「まぁ、気持ちはわかるよ。俺も初めて入った時は同じくらい興奮してたし」
ただちょっと加減が足りなかっただけ、それも仕方がないことだ。リノがどれほど昔の時代に生きていたかはわからないが、まだこちらの常識に合わせるのは無理があるだろう。俺が少しずつ教えていければいいんだけどね。
「リノ……気にしないで……」
「クルエラ!」
落ち込む彼女の傍らに行き、頭を撫でるクルエラ。
やっぱり二人は仲が良さそうだな。吸血鬼と龍人族ってどういう繋がりがあるのか気になるけど、良好そうな関係で安心する。
いまだに聞こえてくるヒソヒソ声をよそに、俺たちは早歩きで〈エルサの旅亭〉へと向かった。と言ってもすぐ近くにあるからそこまで時間はかからないけど。
そんなこんなで宿に到着した俺たちは早速食堂へと入っていく。やはりこの時間帯は繁盛しているのか、所狭しと冒険者たちがひしめき合っていた。運良く隅の席へ座ることに成功した俺たちはそのまま注文をする。
そしていざ食事を始めたわけなんだが、そこで一つの事実が発覚した。リノが大食いだったのだ。しかも並の者ではない。次から次へと運ばれてくる料理をものすごい速さでたいらげていくのだ。
「ここまでくると壮観だな」
料理に終始ご満悦だったリノは結局五人分ほどの量を食べ尽くしてしまった。こうなると想定よりも早くお金が尽きそうだ。ゴブリン退治の報酬がすでに消し飛んでしまっている。
「ふぅー、食ったのじゃ!中々に美味であったぞ!」
一体その小さなお腹のどこにそんな許容量があるんだろうか。クルエラは知ってたのかさほど驚いてないみたいだけど。
「それはよかったんだが、すごい食べるんだな」
「ふっ……。我が本気を出せばまだまだこんなものではない!ドラゴン一匹たいらげることも造作もないのじゃ!」
「そ、そうなんだ……」
これは本格的にお金の心配をしなくては……。コンラットさんにお気持ちを貰っててよかった!
「クルエラは食べなくていいのか?」
その問いに彼女は首を横に振る。そっか、今日は食べないんだな。まぁそんな日もあるだろう。
リノより先に食べ始めたはずの俺も、もうすぐ食事を終える。積もる話もあるからゆっくりと腰を落ち着かせたいところだが、店内状況を見るにそうも言ってられないだろうな。
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