第50話 罰当たりな者達

「さっさと出ていきやがれ!」


 怒号のような声が聞こえてきたので向かうと、そこは教会だった。

 粗暴な男達五人が、若いシスターやその背後にいる子供達と対峙していた。


 やれやれ。朝っぱらから神の前で罰当たりな奴がいるものだ。


「わ、私達は長年この教会に住んでいるんです。今さら出ていけと言われても困ります」

「困ると言ってもあんたらにはその権利はないんだぜ」

「そ、それは⋯⋯」


 シスターが言葉に詰まっているということは、あいつらがこの教会の権利書を持っているのは本当のようだ。


「シスターがウォード様の相手をするなら、もう少しだけここに住んでもいいと言っていたぞ」


 男達はゲスな笑みを浮かべ、シスターに舐めるような視線を送っていた。

 確かにシスターは美しい容姿をしているため、自分のものにしたい気持ちはわからなくもないが、その手段は許せるものではない。


「シスターから離れて下さい。あなた達の行動は目に余ります。その薄汚い生殖機能を踏み潰しますよ」

「ぼぼぼ、暴力はダメだよアゼリアちゃん」

「リラは下がってて下さい」


 シスターを護るようにアゼリアという少女が前に出る。そしてその背後には、リラという少女が震えながらアゼリアの服を掴んでいた。


 ほう⋯⋯あのアゼリアという少女。俺と同じくらいの年に見えるが、大の大人と対峙して怯んでいる様子がない。

 表情も声も冷静なため、余程の自信があるのだろう。これは思わぬところで逸材を見つけてしまったかもしれないな。

 だが俺の期待はすぐに裏切られることとなる。


「デカい口を叩くじゃねえか。だがチビに用はねえ。後五年経ったら相手をしてやるよ」


 男は軽く押すように腕を突き出す。


 俺だったら目を閉じていてもかわせるスピードだ。

 多少腕がある者なら、余裕でカウンターを食らわせることが出来るはず。

 俺はアゼリアがどう対処するのか楽しみに見ていた。


「あう!」


 しかしアゼリアは男の攻撃? をかわすことが出来ず、背後にいたリラ共々、押されて尻餅をついてしまう。


「も、もう⋯⋯アゼリアちゃんは弱いのに、何でいつも偉そうなの」

「こういうのは相手に強いと思わせた方が勝ち」

「でもそれを信じて本気で来られたらどうするの?」

「弱い私達が出来るのはこれだけ」


 確かに弱い者がこの場を収めるためには、自分を強く見せるのも一つの手だ。だがそれはあくまで強そうに見える者が行うと有効な策であり、見た目が少女で背も大きくないアゼリアがやっても効果はない。


 やれやれ。あまり目立ちたくはないが、この粗暴な男達を野放しにする訳にはいかない。


「兵士の方達こっちです! 女の子が襲われています。早く来て下さい!」


 俺は大声を上げてここにいる者達の注目を集める。


「やべえな。手を出しちまったのは間違いねえからこのままだと捕まるぞ」

「ウォード様から、今は法に触れるような真似はするなと言われてるのを忘れたか」

「ちっ!」


 男達は慌ててこの場を立ち去っていく。

 ベタな方法だが、どうやら成功したようだ。

 だがもし逃げてなかったら、子供に敗北するという屈辱を味わうことになったから、奴らの選択は間違ってはいない。


「二人とも大丈夫ですか?」


 俺は演技モードに入り、アゼリアとリラに手を差し伸べる。


「どうも」


 アゼリアは手を取ってくれたが、リラは俺の顔を見ているだけでどこか夢現な感じだ。


「リラ?」

「ひゃい! あっ! その⋯⋯」


 ひゃい?

 アゼリアが呼び掛けるとリラは反応する。


「リラ緊張し過ぎ」

「き、緊張なんてしてないよぉ。ちょっと見とれていただけ」

「見とれてた?」

「ち、違います! 何でもないです! そ、それより兵士さんはどこに⋯⋯」


 リラはキョロキョロと辺りを見渡す。

 何だかこの子は挙動不審で小動物みたいだな。


「兵士の人達はいませんよ。ハッタリというやつです」

「そうですか⋯⋯」


 何故か兵士がいないことにシスターは安堵のため息をつく。やはりこの教会の権利書は今の奴らの手にあって、法を犯しているのは自分達だと認識しているのだろう。


「頭良いんだね。助けてくれてありがと」

「あ、ありがとうございます!」

「俺は大声を上げただけです」


 本当にそれだけだ。礼を言われるようなことではない。


「シスター⋯⋯助けてもらったからお礼をした方がいいんじゃない?」

「そうですね。もしよろしければ教会の方へとお越し下さい」


 せっかくだから行かせてもらうか。

 この土地を買おうとしているウォードという奴のことも聞きたいしな。


「わかりました。それでは寄らせて頂きます」


 俺はシスターとアゼリアの好意に甘え、子供達と共に教会へと向かうのであった。

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