第11話 客が多いのはいいことだ
ユウトside
俺は
「ユウトさ~ん、私やりました!」
そして馬車の中から慌てた様子でフローラが飛び出して来て、俺に詰め寄る。
「見てくださいこれを! 国王陛下のお墨付きです!」
「ああ、見てたぞ。最初は少し緊張していたから心配だったが、どうやら杞憂で終わったようだ」
「えっ! 見られてたの! ど、どうやってお城に入ったんですか!」
「それは⋯⋯秘密だ」
まあ城に侵入して窓から見ていただけだが。ある程度距離があったので何を言っているのか聞こえなかったが、幸い読心術を使えるので内容は把握している。
「気になるじゃないですか~」
「それよりフローラに頼みたいことがある」
「お店の準備ですか? きっと明日はお客様がいっぱい来てくれると思います」
「いや、違う。明日の朝一にこれを届けてくれないか」
俺はベルドに作るように頼んでいた、二つずつの冷蔵庫と冷凍庫を指差す。
「これを⋯⋯ですか。いったいどなたに届ければいいのでしょうか?」
「それは――」
冷蔵庫と冷凍庫の届け先を伝えると、フローラはセイン王子が現れた時のように腰を抜かしていた。
「ま、またそのような場所に⋯⋯ユウトさんはどれだけ私にプレッシャーをかければ気が済むんですか!」
確かに13歳の少女には心労がかかるかもしれないが、これはフローラにやってもらわなくては困る。
「それともう1つ」
「ま、まだあるの! もう何でも言ってください。私はユウトさんには逆らえませんから。どんなことでも受け入れます」
「そのドレス、フローラに似合っていてとても綺麗だ」
「へっ?」
「ん? 聞こえなかったのか? 元々容姿に優れていると思っていたが、ドレス姿のフローラは綺麗だぞ」
「そそそ、そんなことないです! 私なんて全然⋯⋯リシアンサス様に比べたら天と地ほど違います!」
「どんなことでも受け入れるって言っただろ?」
「それはそうですけど⋯⋯あ、ありがとうございます」
フローラは顔を赤くしながら俯いてしまった。どうやらあまり人に褒められ慣れていないようだ。
「私、明日もがんばりますね」
「頼んだぞ」
そしてフローラからか細い声が聞こえてきたので、俺はその言葉に応えるのであった。
翌日
国王陛下からお墨付きをもらったことが、どこからか耳に入ったのか、フローラの店は客で溢れ返っていた。
ある程度客が来るとは思っていたが、まさか外に列を作る程になるとは思わなかったぞ。
「こちらは銀貨2枚になりますね。ありがとうございました」
おかげで朝から俺も店を手伝うことになり、他の従業員も客の多さに、ヒイヒイ言っている。
せめてフローラがいれば客を上手く捌くことができると思うが、現在届け物を頼んでいるため、店にはいない。
「ただいま戻りました!」
そして昼前の時間になり、ようやくフローラが店に戻ってきた。
従業員達もフローラの姿を見て安堵しているように見える。
「フローラさん、お客様の対応をお願いします」
「わかりました」
本当は冷蔵庫と冷凍庫の届け先で何があったか聞きたかったが、今は店を回す方が先なので後にする。
そしてフローラがフロアに入ると、忽ち客を捌いていく。
会計のスピードは速く、客の問い合わせにも的確に答えており、何より忙しい箇所を瞬時に見分けてフォローしている姿から、フローラの接客は優秀であることがわかる。
そしてフローラの働きと昼食時ということもあり、客が少なくなってきた。俺はその僅かに空いた時間を使い、フローラを連れて奥の部屋へと向かう。
「ユウトさん、お店を手伝って頂きありがとうございました」
「予想以上に客の数が多かったな。それより頼んでいた件はどうだった?」
「すっっっごく怖かったです。私と会ってくれましたが昨日みたいに睨んでいて」
フローラは話ながら身を震わせていたので、本当に恐怖だったことがわかる。
今日俺がフローラに命じて、冷蔵庫と冷凍庫を献上しに行かせたのは、エルスリアの第一王子であるヴェルゼリアと第3王子のリシャール王子だ。
昨日の玉座の間での様子を見て、このままだと国王陛下に冷蔵庫を献上した、セイン王子とフローラに危害を加えかねないと思ったからだ。
「でも2人とも、セイン王子より豪華な冷蔵庫と冷凍庫を進呈致しますってお話したら、急に態度を変えて笑みを浮かべていました」
二人の王子は少なくともフローラは、セインより自分の方が上に見ていると思い、満足したのだろう。
ヴェルゼリア王子とリシャール王子は黒い噂が絶えない。俺は二人のどちらかがリアの母親の死に関わっていると考えている。
今はリアとセイン王子の力は弱いため、こちらに目を向けられると困る。もしヴェルゼリア王子とリシャール王子に牙を剥かれたら、俺だけでは二人を護ることはできないだろう。
リアのことを考えると、早く母親殺しの犯人を見つけてやりたい所だが、今はまだ我慢の時だ。
「そうか。よくやってくれたな」
「ありがとうございます」
「しばらくは店の運営の方をしっかりやってくれ。また何かあればこちらから指示を出す」
「わかりました」
そして俺達は再び店へと戻るが、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どんな手を使ったんだ! ありえないだろ!」
「この声は⋯⋯」
「急ぐぞ」
俺達は怒号が聞こえるフロアへと急ぎ駆けつけるのであった。
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