第10話 人生何があるかわからない
フローラside
えっ? えっ? 何でこんなことになっているの?
お父さんとお母さんが亡くなって、お店が叔父さんのものになり、辛いことを忘れるためにも私は仕事に明け暮れるしかなかった。
だけど突然ユウトさんが現れたと思ったら、リシアンサス王女を紹介され、セイン王子と馬車に乗ることになってしまいました。
ここまでならまだわかります。いえ、わかりたくはないけどこの現実を受け入れるしかありません。
で、でも、セイン王子の馬車でお城に行くことになり、1つの部屋に案内されると、メイドさんの手によってドレスを着させられてしまいました。
ドレスを着るなんて夢の中の出来事だと思っていましたが⋯⋯こう見ると私もお姫様に見えるかな? えへへ。
私は少し嬉しくなって、鏡の前でクルッと一回転して笑みを浮かべる⋯⋯って! 違います!
なんでなんで! どうしてこうなっちゃったの!?
しかもこれから私が案内される場所は⋯⋯。
フローラは今の状況が信じられなくて頬をつねってみるが、やはりこれは夢ではないと気づく。そしてこの後会う人物のことを考えると、頭がクラクラしてくるのであった。
ドレスに着替え終えたフローラはセインの後に続き、大きな扉を潜って部屋の中に入る。するとそこには広い空間と大勢の人、そして白髪の髭を伸ばした一人の男が、中央の椅子に座っているのだった。
ここはお城の玉座の間で、唯一座っている方はこの国の国王陛下。
私が国王陛下と謁見? 信じられない。そうか、これは夢だ。だからお姫様みたいなドレスを着れたし、王子様に会うことも出来たんだ。
「大丈夫ですか? 緊張しないで下さいといっても無理な話だと思います。僕も何かあったらフォローするので」
そうだ。もし私が国王陛下の前で粗相をすれば、セイン王子にご迷惑をお掛けするし、リシアンサス王女のお顔に泥を塗ることになってしまいます。それになにより、チャンスをくれたユウトさんに申し訳ないです。
「大丈夫です。国王陛下に納得頂けるプレゼンをしてみせます」
私は真っ直ぐと前を見据え、セイン王子と共に玉座の間を進む。
そして私はセイン王子に習って片膝を地面につこうとするが、国王陛下に静止される。
「よい。本日はセインより素晴らしい品物を持ってきたと聞いているが」
「はい。こちらは私の店で開発しました冷蔵庫という代物です」
私が言葉を発すると、メイドさんが後ろから冷蔵庫ともう1つの箱を国王陛下の前に置く。
「ほう⋯⋯見た目も悪くない。美しいフォルムをしているため、このまま装飾品として置いても良さそうだ」
国王陛下に献上する冷蔵庫は、きらびやかな宝石や装飾品が埋め込まれているため、確かにこのままでも価値があると思う。でも本当の性能は見た目じゃないです。
「国王陛下、よろしければこちらに手を入れて頂けますか?」
「これでいいのか?」
国王陛下は私が開けた冷蔵庫の中に手を入れる。
「冷たいな」
「はい。こちらの魔石に魔力を込めれば24時間冷気を保つことが出来ます。食品の鮮度を維持することが出来ますし、いつでも冷たい飲み物を飲むことが出来ます。まずはこちらをお召し上がり下さい」
私はメイドさんに頼んで、室温のエールを国王陛下に渡してもらう。
「国王陛下はアルコールの入ったエールがお好きだと聞いております」
「よく知っているな。では一杯飲ませてもらうか⋯⋯うまい!」
国王陛下はメイドさんから手渡されたエールのジョッキを、すぐに飲み干してしまう。
「で、では次は冷蔵庫で冷やしたエールをお飲み下さい」
国王陛下がエールを一気に飲んでしまうとは思わなかったので、驚いてどもってしまいました。
平常心平常心⋯⋯今はプレゼンに集中しないと。
メイドさんは瓶の蓋を開け、エールを新しいジョッキに入れて国王陛下にお渡しする。
「これは旨そうだな。では早速頂くとするか」
そして国王陛下は先程と同じ様に、一気にエールを飲み干してしまった。
「う、旨い! 冷えているエールがこんなに旨いとは! この冷蔵庫というものは素晴らしい発明品だ!」
良かった。国王陛下が冷蔵庫のことを認めてくれた。
「そんなに美味しいのか」
「一度冷えたエールを飲んでみたいな」
「私もあの冷蔵庫というものを手入れたい」
周りの貴族の人達も好意的な声を上げてくれているけど、リシアンサス王女の近くにいる若い男性二人は、私の方を見て睨んでいる。
ひぃっ! 何で? 私悪いことした?
もしかしてあの2人が、ユウトさんが言っていた王位継承権を争っている王子様なの?
怖くてここから逃げ出したいけど、私の役目はまだ終わっていない。
「国王陛下、次はこちらの容器を使ってお飲み下さい」
私は氷水で冷やしてあるジョッキを取り出し、メイドさんにエールを注いでもらう。
「むう⋯⋯これは容器が冷たいな」
「はい。こちらの容器で飲むエールは格別でございます」
「ほう⋯⋯それは楽しみだな」
そして国王陛下は先程と同様、一気にビールを飲み干してしまう。
「う、旨い! 何だこれは! 容器が冷えているだけでこんなにエールは美味しくなるのか!」
「こちらはこの冷蔵庫より、さらに低い温度で冷やすことができる冷凍庫です。氷を作ることが出来ます」
「なるほど。これは凄い商品だ⋯⋯だがお主は罪を犯した」
「も、申し訳ありません! 何か粗相をしてしまいましたでしょうか」
ど、どうしよう! 国王陛下を怒らせちゃった!
私、何かしちゃったの!? 怒らせてしまった理由が全然わからないよ!
せっかくユウトさんにチャンスをもらったのに私は⋯⋯
「いや、医者からはアルコールを控えるように言われていてな。こんなに美味しいエールがあるのに我慢しろというのか。お主は罪深い女だ」
「あっ、いえ、それは⋯⋯申し訳ありません」
「冗談だ。それよりこのような素晴らしい物を献上した褒美だ。お主の店に私のお墨付きを与えよう」
「ありがとうございます」
や、やった! まさか私のお店が国王陛下のお墨付きをもらえるなんて! これでお客様は増えると思うし、ここにいる方達もきっと冷蔵庫を買ってくれるはずです。
そして私は興奮冷めやらぬ中、玉座の間を退出し、急ぎ今日の出来事をユウトさんに伝えるのであった。
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