第19話 未来の私
魔物の群れは、ゴブリン達を先頭にして動きが遅いトロルは最後尾からこちらに迫っている。
まずはゴブリンから片付けるか。
ゴブリンは先程とは違って手には剣、槍、斧、弓とバラエティーが豊富だ。
「ギィキャァァッ!」
そして怒りの咆哮を上げながらこちらへと向かってくる。
どうやら仲間が始末されたせいか、殺る気満々のようだ。
だがこちらとしても、逃げられるより向かってきてくれた方が始末するのが楽なので助かる。
俺は剣を片手に魔物達へと接近を試みる。
するとゴブリンは遠距離攻撃ができる弓を使って、こちらに10本弱の矢を放ってきた。
しかしそのような攻撃は当たらない。
俺は歩みを止めることなく、矢をかわし先頭にいるゴブリンの首をはねた。
「嘘! ゴブリンに迫りながら矢を避けるなんて、人間業じゃないです!」
フローラから驚きの声が聞こえるが、この程度の矢をかわしながら進むことは、いずれやってもらわなくては困る。
そして魔物の群れに近づいた俺は、ゴブリンからの剣や槍の攻撃を向けられるが、すれ違いざまに次々と首を切り落としていく。するとこの場には、弓を持つゴブリンとトロルだけとなった。
距離を取られるとまた弓矢を放たれる可能性があるので、俺はゴブリンへと接近する。
ゴブリンは近づいてくる俺に対して、慌てた様子で矢を射る。
ヒュッ!
風切る音が耳を掠めるが、俺は気にせず駆け走り、まるで先程までの作業を繰り返すかのようにゴブリン達の首をはねる。
「後はトロルだけだな」
「すごいです⋯⋯ユウトさんがここまで強いなんて⋯⋯」
確かにリアやフローラと訓練する時は手加減していた。実際に本気を出せる相手は、始末していい奴と戦う時だけだ。
このままの状態でもトロルを倒すことができるが、これからのフローラの成長を期待して、少しだけ力をみせるとするか。
「
俺は自分自身の力を解放する。
すると身体の中から、先程までとは比べ物にならない程のパワーとスピードを感じた。
「グオォォォッ!」
トロルが耳を塞ぎたくなるような大声をあげる。
あまりにも音量が大きすぎて頭が痛くなるな。並の相手だったからこれだけで戦意喪失していただろう。
実際にフローラは両手で耳を塞ぎながら、苦悶の表情をしていた。
トロルはドスンドスンと地響き撒き散らしながら、こちらへと接近してくる。
「一気に蹴りをつけさせてもらう」
そして俺は向かってきたトロルの横を風のように駆け抜け、手に持っていた剣を鞘に収めた。
「ユ、ユウトさん⋯⋯まだトロルは立っていますよ」
フローラは戦いの最中に剣をしまったことに疑問を持ったのか問いかけてきた。
「安心しろ。もう終わっている」
俺がそう答えると、タイミングよくトロルの首と胴体が二つに分かれ、大きな音と共にその体躯が地面に崩れ落ちる。
「い、いつのまに⋯⋯剣の軌道が見えませんでした」
「そのうちフローラも出来るようになるさ」
「⋯⋯全然出来る気がしません」
フローラは俺の戦いを目にして、自信を失くしてしまったようだ。慢心されるのも困るが、萎縮されるのもフローラの成長には良くないな。
「だがフローラの訓練は順調に進んでいる。つい先日まで戦いに関しては全くの素人だったんだ。よくやってるよ」
「本当ですか?」
「ああ、これからも期待している」
「わかりました! 私、少しでもユウトさんに近づけるように頑張ります」
フローラに笑顔が戻って良かった。
どうやら上手くケア出来たようだ。
「それじゃあガルバトルへ行くぞ」
「はい」
こうして俺達は魔物の群れを倒した後、目的地であるガルバトルへと向かうのであった。
そして馬車を走らせて、まもなくガルバトルに到着しようという時。
「う、う~ん⋯⋯」
「こ、ここは⋯⋯はっ! 魔物の大群はどこだ!」
「私達は生きているの!? ここは天国!?」
馬車の中で気絶していたトムとジュリが目を覚まし、焦っている声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ。もう少しでガルバトルに到着します」
俺は二人を安心させるために、声をかける。
すると二人は天幕をめくり、顔を出してきた。
「良かった⋯⋯魔物達から逃げることが出来たんですね」
「いえ、フローラと通りすがりの冒険者の方が倒してくれました」
さすがにフローラ一人で倒すのは無理があると考えたので、トムとジュリが起きる前に、フローラと打ち合わせをしておいた内容を伝える。本当は逃げたということにしても良かったが、後日魔物達の死骸を見て俺の存在に気づかれるのも面倒なので、架空の人物を利用させてもらったのだ。
「そうですか⋯⋯親切な方がいて良かったですね」
「それよりガルバトルが見えて来ましたよ」
前方に視線を向けると城壁に囲まれた街、ガルバトルが目に入った。
ガルバトルはエルスリア王国の中で四番目に大きい都市になる。ガルバトルは昔ある魔物の手によって壊滅的打撃を受けたらしい。今後の対策として、街の全体を城壁で囲むようにしたという話だ。そしてこの街で神武祭が開催されるのは、魔物を討伐するための戦力を集めるためということのようだ。
俺達は門番に荷物をチェックされ、問題がないと証明された後、ガルバトルの街に入ることが出来た。
「すごく人が多いですね」
「神武祭の影響だろうな」
これは気をつけないと馬車で人を轢いてしまいそうだな。
周囲には人の波で溢れ返っていた。
「ここで商売をすれば、商品をすぐに売ることが出来そうです」
この人の多さは元々ここに住んでいる者、神武祭に出場しに来た者、観戦しに来た者など様々だろう。
確かに客は多そうだが、その反面よからぬやからも多そうだ。特にフローラ達は人が良さそうなので、気をつけて欲しい。
「おいてめえ! 無視するんじゃねえ!」
頭の中で治安が悪そうだと考えていた時に、突然怒号のようなものが聞こえてきた。
「な、なにかあったんですかね?」
「あっちの方から声が聞こえてきたな」
前方に一際人が多い場所があるので、そこで間違いないだろう。
「ちょっと行ってくる」
「えっ? ま、待って下さいよ。私も行きます。トムさんとジュリさんは馬車をお願いします」
「わかりました」
俺とフローラは馬車を降りて人垣を分けて行くと、そこには一人の少女と三人の屈強な男の姿が見えるのであった。
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