第48話 ガルバトルのその後後編

 そしてクーソは、ヴァルハラのことについては何も話さなかったが、父親のキルド殺害について認めたのである。

 計画が失敗して自棄になったのか、それとも絶対にヴァルハラの奴らが助けに来ると信じていたのか理由はわからない。

 すぐにセインに調査させたが、当時担当した兵士もクーソから金をもらって、オルタンシアの父親が犯人になるよう仕向けたことを自供した。

 その結果、濡れ衣を着せられたオルタンシアの家は、男爵家の地位を取り戻すはずだった。

 しかしこの世界では、当主は男と決まっているため、将来のオルタンシアの伴侶がその地位を引き継ぐことに決定した。

 そして今回反逆したアーホを討伐した功績で、男爵ではなく子爵に任命されるらしい。

 それと伴侶ができるまでの間、毎月子爵家扱いで国から金を貰えることとなり、元凶であるバカダ家の財産の半分は、オルタンシアの家に払われることになった。


 王都にも屋敷を貰えるため、これでオルタンシアは見事家を再興することに成功したのだ。

 後は貴族として悠々自適な余生を過ごすことができる。

 だがどこの派閥にも属してなく、剣の腕も確かなオルタンシアはリアの護衛に適している。そのため俺からの命令で、オルタンシアはリアの近衛兵になることが決定した。

 これでヴェルゼリアやリシャールからの刺客が放たれたとしても、ある程度護ることが出来るはずだ。

 しかし俺は、オルタンシアの能力には満足していない。

 これから鍛えて、俺がリアに会えない時は、オルタンシアから訓練を施して欲しいと考えているのだ。


 そしてオルタンシアは何かを語ろうするが、チラリとドアの方に視線を送る。


 ほう、

 俺の中のオルタンシアの評価が一段上がった。

 オルタンシアはドアの外を気にしながらも言葉をつむぐ。


「ユウトさん、この後あなたが何を口にしても私は従うつもりです」

「どういうことだ?」

「仮面や外套を纏い、正体を隠して人々を救う。でもその功績は一切受け取らない。あなたの目的は何ですか?」


 ここで世界を支配するためと答えても、オルタンシアは俺の命令に従う気がする。

 だがこの真剣な眼差しを受けて冗談などとても言えない。


「人々を可能な限り幸せにすることだ」

「それは素晴らしい考えですね」

「だが⋯⋯悪には容赦しない。地位や権力、武力を振りかざし好き勝手する者は、地獄に落ちてもらう。例えどんな手を使ってもだ」

「⋯⋯わかりました。私も今回バカダ家に嵌められて辛い思いをしてきました。このような感情を持つ人を増やさないため、がんばります」

「頼んだぞ」


 オルタンシアは権力に父親を殺され、家を潰された被害者だ。俺の言うことを理解しているだろう。


「後もう一つだけよろしいですか?」


 オルタンシアが、どこぞの刑事のように質問してきたので俺は頷く。


「ユウトさんなら私達に頼らなくても、クーソ達やゼノスに勝つことが出来たのでは? もしくはその前に⋯⋯」


 よく見ているし、物事をしっかりと把握しているな。

 確かに仲間に頼ることなく、アーホとクーソから剣を奪い、ゼノスを倒すことは容易であった。

 だが俺はオルタンシアの実力を見てみたかったし、リアとフローラに実戦の経験を積ませたかった。

 それにもし最小限の力で事態を収束するつもりなら、決勝戦の前日、バカダ家の自宅に侵入した時に始末している。

 オルタンシアはそのことを見抜いているのだ。


「さあな。ゼノス、バカダ家の奴らが死に、オルタンシアは家を再興出来た。それでいいじゃないか」

「わかりました。そういうことにしておきます」


 こうしてオルタンシアとの話は終わった。

 そろそろいいだろう。


「二人とも、そんな所で聞いてないで部屋に入れ」


 俺は部屋の外に話しかける。

 するとゆっくりとドアが開き、リアとフローラはバツが悪そうな表情で部屋に入ってきた。


「さ、さすがユウト様ですね」

「わ、私達が部屋の外で聞いていることに気づくなんて」

「ちなみにオルタンシアも気づいていたぞ」

「「えっ?」」

「良かったな。優秀な護衛が手に入って」


 上手く気配を消していたが、俺達を欺くにはまだまだのようだ。


「さすがユウト様がお認めになるだけはありますね。ですが! ここでは私が一番早くユウト様のしもべになりました。いわば正妻のような立場です!」

「そうなると私は側室ということですね」


 この二人は何を口走っているんだ。

 ちょっと何を言っているのか理解出来ないんだが。

 オルタンシアもなんて答えればいいのか迷っている。


 すると二人は俺達に背を向けて何かこそこそと話し出す。


「ちょっとフローラさん、どういうことですか? ユーモアを入れて話せばすぐに仲良くなれると仰っていたじゃないですか」

「私は別の案の方がいいって言いましたよね? それなのにリアさんが強行したから」

「だ、だって正妻って良い響きじゃないですか。つい使ってみたくなってしまって」


 やれやれ。こちらにまる聞こえだぞ。

 俺はじゃっかん呆れていたが、オルタンシアは二人のやり取りを見て微笑んでいた。


「お二人共、ユウトさんの仲間として、色々ご教授よろしくお願い致します」

「えっ? あっ? こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくです」


 三人は握手を交わし、笑顔を浮かべていた。

 どうやらリアとフローラがとった方法は満更悪くなかったようだ。


 こうして俺は新たな仲間、オルタンシアを迎えることに成功し、翌日王都へと戻るのであった。




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