第42話 オルタンシアVSアーホ

 オルタンシアside


 まさかキスをされると思わなかったけど、力を授けてくれるというのは本当だった。


 私は剣を拾いアーホと対峙する。


「別れの挨拶は済んだか?」

「そのようなことをする必要はありません。あなたには絶対に負けませんから。父の仇を取らせて頂きます」


 先程のアーホの力は脅威でしたが、今の私なら⋯⋯


「クックック⋯⋯お前は家を再興するために剣の腕を磨いていたんだよなあ。それは本当か?」

「どういう意味ですか?」

「いや、本当は男をたらしこむ技術を学んでいたんじゃないかと思ってな」

「何を言って――」

「自分の力じゃ不可能だと感じ、男にすり寄るとは。どうやら娼婦の才能はあったようだな」

「ふざけないで下さい!」

「俺がお前を買ってやろうか? ただし奴隷としてな」


 もうこれ以上この人と話すことはない。ただ不快になるだけです。

 私はアーホの言葉を無視して斬りかかる。

 しかし私の攻撃は、アーホの剣によって受け止められてしまう。


 それなら!


 私はアーホに向かって連続で斬りつける。

 しかしアーホは私の攻撃を全てかわしてしまう。


「くっ! さっきよりマシになったがまだまだな」

「これは⋯⋯」


 まさかこんなことって⋯⋯


「どんな手を使ったかわからないが強化されても力、スピード、全て俺の方が上だ! 今度はこちらから行かせてもらうぞ」


 アーホは先程の私と同じ様に剣で斬りつけてくる。

 だけどその剣速はとても遅く感じた。

 さっきまではアーホの剣についていくので精一杯だったけど、今はハッキリとその攻撃がわかる。

 強化されたのは力とスピードの二つだと思っていたけど、動体視力も向上していることがわかる。


 あのユウトという少年は底がしれない。

 剣技の腕も尋常ではないし、この強化の力⋯⋯このような力は聞いたことがありません。

 もしかして魔法かと考えたけど、魔法は手から発動するもの。でもキスをされた時にユウトの手は光っていなかった。だから魔法じゃない。

 いったいあの力は⋯⋯はっ!

 そそそ、そういえば私⋯⋯キキキ、キスをされてしまいました! しかも二度も!

 初めてでしたのに無理やりされて。ファーストキスはレモンの味というけど全然わかりませんでした。あの時はいきなりでしたから⋯⋯もう一度すればわかるかもしれません。

 はっ! わ、私は何を考えて!

 今はそのようなことよりアーホを倒すことが先決です。


 私はアーホの攻撃をかわし、剣で受け止め、全て防ぐことに成功する。


「な、何故だ! 何故私の攻撃を防ぐことが出来る! 剣による強化がされていないのか!」


 そしてアーホは再度剣で攻撃をしてくる。

 しかし先程私に攻撃をかわされたことが原因なのか、その剣には焦りが見えた。

 剣筋が単調になっており、これなら簡単にかわすことが出来る。


「バカなバカなバカな! 何故当たらない! これがオルタンシアの本当の実力だというのか!」

「残念ですが私はまだ本気を出していませんよ」


 アーホは私の言葉を聞いて絶望の表情を浮かべる。


「つ、強がりを言うのはよせ。い、今までは手加減していたとでもいうのか」

「それはこれから身を持って体験して下さい」


 先程までは強化の力が強すぎて、加減がわからなかったので力を抑えていた。でも何度か剣を振るい、防御することで段々と慣れてきました。

 さあ、ここからは全力でやらせて頂きます!


 私はアーホに向かって一直線に向かっていく。


「返り討ちにしてくれるわ!」


 アーホは上段から剣を振り下ろしてきたので、私はさらにスピードを上げ、左にかわして横から斬りつける。


「ぐわっ!」

「まだまだ終わりませんよ」

「小癪な! これ以上はやらせん!」


 アーホは再び剣を振り回してくるが、私はその度にかわし、何度も斬りつける。するとアーホは、剣を振るイコール攻撃を食らうという意識を刷り込まれ手を出せずにいた。


「どうしました? もう終わりですか?」

「こ、こんなはずは⋯⋯信じられん」

「信じる信じないはあなたの勝手ですがこれが現実です」

「ふざけるな! 俺は子爵家の者だぞ! お前のような下民に負けるというのか!」

「ここは戦場です。地位など関係ありません。それでは父の仇を取らせて頂きます!」

「や、やめろ!」


 私は喚くアーホを無視して剣を振る。


「ぎゃあぁぁぁっ!」


 するとアーホの右腕の切断に成功した。


「う、腕が! 腕が腕が! は、はやく私の腕をぉぉぉ!」


 私は腕を斬られた激痛で泣き叫び、地面をのたうち回るアーホを見下ろす。


「わ、悪かった! お前の父親を陥れたのも兄の命令だったんだ! 俺は仕方なく従っただけだ!」


 そして私とこれ以上戦っても敵わないと感じたのか、アーホが命乞いを始めた。

 これが父の仇?

 あれだけ偉そうにしていたのに、今は見苦しくて情けなくて斬る気もおきません。

 おそらくこのまま放っておけば、出血多量で死ぬはず。

 せいぜいそれまでの時間、これまで好き勝手生きてきた人生を悔いるといいです。


 私はアーホに背を向けて、ユウトさんに頼まれた剣を拾いに行く。

 とにかく早くユウトさんに剣を渡さないと。

 アーホと戦っている時も、ユウトさんが見知らぬ魔物と戦っていることが把握出来た。

 おそらくあの魔物を倒すためには、この剣が必要だということが想像出来る。


 私は斬り落としたアーホの腕から剣を取った。


「死ね!」


 そして私が背後を見せた隙をついて、アーホが隠し持った短剣で斬りつけてきた。

 だけど私にはわかっていた。

 アーホがこちらを恨めしそうに見ていたことも、短剣を取り出したことも、襲いかかってくることも。


 私はヒラリと身を捻って短剣をかわし、そして隙だらけになった首に向かって剣を振り下ろすのであった。

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