第43話 ユウトVSゼノス前編

 ユウトside


 決着がついたな。

 どうやらオルタンシアがアーホにとどめを刺したようだ。

 やはり解放されたオルタンシアの敵ではなかったな。


「剣を!」


 そしてオルタンシアはアーホから奪った剣をこちらに投げる。

 俺は回転して向かってくる剣をダイレクトにキャッチした。

 中々無茶をする。

 俺でなければ腕が切れてもおかしくないぞ。

 だがこれで後はクーソの剣があれば⋯⋯


「そ、その剣は! まさかアーホがやられたというのか!」

「剣が俺の手にあることがその証明になるんじゃないか?」

「バ、バカな! アーホは剣の力で強化されていたんだぞ!」


 クーソは骸となったアーホに視線を向けると狼狽え、その場に膝をつく。


 


 突如気配を消していたフローラがクーソの背後から現れる。

 そして剣を持った左腕を蹴り上げた。


「き、貴様どこから!」


 不意をつかれたクーソはフローラの蹴りをまともに食らい、手に持った

 剣が宙を舞う。


「よくやったな」


 俺はクーソの手から離れた剣を空中で掴む。

 これで二振りの剣が俺の手元に揃うこととなった。

 それにしてもフローラは見事に仕事をやり遂げたな。

 実力が不足しているフローラがクーソから剣を奪うのは、容易ではなかった。

 そのような中フローラは、自分で考え、直接ぶつかるより気配を消してクーソに隙が出来るのを待っていたのだ。

 言葉で言うのは簡単だが、リシャールや兵士達が魂を奪われ焦る状況の中、ここだというタイミングで見事剣を奪ったのだ。

 これは後で褒めてやらないとな。


「フローラ、オルタンシア。二人もセイン王子を頼む」

「わかりました」

「承知しました」


 これで後はゼノスとクーソを倒し、フィナーレを迎えるだけだ。

 だがその前に気が進まないが、リシャール達の魂を解放してやらないとな。

 おそらく過去にゼノスを封印したこの剣なら、魂を解放出来るはず。


 俺は二振りの剣を手にゼノスと対峙する。


「その剣は私の物だ! 貴様ごときが持っていいものじゃない!」

「私の物? 違うだろ? 借り物の剣だということはわかっているぞ」

「いいや、高貴なる血筋を持つ私のものだ! 早くこちらによこせ!」

「戦いの最中に相手に武器を渡すバカはいないだろう」


 アーホが死に、剣を奪われてもクーソの強気な発言は消えない。

 やはりゼノスを自分の支配下に置いているからだろう。


「調子に乗るなよ! ゼノスが本気を出せば、ここにいる者共を皆殺しににすることなど、赤子の手を捻るようなものだ」

「他人の力を自分の力だと勘違いして意気がることが、高貴なる者がやることなのか? その血筋を誇りに思うなど恥ずかしい奴だな」

  「貴様ぁぁぁぁっ!」


 クーソは誰が見てもわかる程激昂している。

 怒りは冷静さを失わせるというのがわかっているのか?

 俺はクーソを始末するべく接近を試みるが、突如異様な空気を感じたので動きを止める。


「これは⋯⋯」


 ゼノスの周囲が闇に覆われている。

 闇の色は深く、光が一切見えない。


「そうだゼノス! やってしまえ! 私に逆らう者達は漆黒の闇に呑まれるがいい!」


 そしてその闇の空間は次第に広がり、あっという間に舞台を覆い始めた。

 これは黒き刃と同様に嫌な予感がする。

 何もせずこの闇に呑まれたら命を失いかねないな。


 俺は後退し、急ぎリア達の元へ向かう。


「な、なんだこれは!」

「ひぃっ! 黒い空間が迫ってくる!」


 そして僅かに残った兵士達が闇に触れた瞬間、魂が身体から抜け出したのが見えた。

 まさかこの闇に触れると黒き刃と同様に魂が抜かれるのか?


「これはどうすれば⋯⋯」

「や、闇が迫ってきます」

「このままでは私達も兵士達と同じ様に魂を奪われてしまいます」


 リア、フローラ、オルタンシアから焦りの声が聞こえてきた。


 逃げるにしても出口付近にはまだ多くの人が残っている。この闇がどこまで広がるかわからないが、クーソの言うことが本当なら、闘技場全体に結界が張られており、外に逃げるのは不可能だ。

 それなら⋯⋯


「セイン王子の元へ急げ!」


 俺が指示を出すと、三人は瞬時にセインの元へと移動する。

 そして俺はセインがいる場所にたどり着くと闇は一気に広がり、闘技場全体を漆黒の空間へと作り変えるのであった。

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