第8話 潰す時は徹底的に

 冷蔵庫の作製を依頼してから5日後。ベルドから連絡があり、俺とフローラ、そしてリアは工房へと向かっていた。


「まずは最初に頼まれた2つが出来たから見てくれねえか」


 ベルドさんが作ってくれた冷蔵庫は、均等が取れた四角形でじゃっかん光沢があり、前世の世界で使っていた物とほぼ遜色がない出来だった。

 違いといえば、所々に宝石が埋め込まれているくらいだ。


「僕のイメージ通りです。これはもう一種の芸術品だ」

「さすがベルドさんです」


 これなら他に頼んでいるさらに豪華なやつも期待出来そうだ。


「では手筈通り1つは私に、もう1つは弟のセインに渡すと言うことでよろしいですか?」

「この冷蔵庫の有能さを広めて下さい」

「承知しました。ベルドさん、素晴らしい物を作って頂きありがとうございます」

「まさか姫さんとも付き合いがあるとはな。だが俺は相手の立場によって融通させることはしねえぞ」

「私のことは認めなくても、ユウトさんのことは認めているのでしょ? 私はそれでいいです」

「ハッハッハ! おもしれえことを言うな。権力者って奴はもっと利己的な奴ばかりかと思ったぜ。気に入った。何か欲しいものがあれば俺が作ってやるからいつでもいいな!」

「ありがとうございます。その時が来ましたらよろしくお願いします」


 どうやらリアもベルドに気に入られたようだ。これからフローラの店を盛り上げるために、ベルドとリアとの繋がりは大事だからちょうど良かったな。

 そして俺達はベルドに別れを告げ、工房の外へと向かう。


「では、私は城へと戻ります」

「俺達は新しく始める店に行ってくる」

「リシアンサス様、本日はご足労頂きありがとうございます」

「フローラさん、ユウト様の前では私達は対等の立場です。他に人がいない状況でしたら敬語は不要ですよ」

「は、はい! すみません。でも急にそんなこと出来ませんよ。リシアンサス様――」


 リアは再び敬語を使ったフローラをジロリと睨む。


「リ、リシアンサスさんはこの国の王女様ですから」

「でもユウト様は初めから私に対して敬語じゃなかったわ」

「ユウトさんは普通じゃないから。なんでそんなに落ち着いていられるのか不思議です」

「剣を持てば一騎当千、頭脳明晰で付与魔法まで使えるなんて、どんな半生を送ってきたのか気になります」


 別の世界ではあるが、人生二度目だからな。それに育った環境のせいでもある。


「いつか⋯⋯いつか教えてやる」

「それはユウト様の信頼を得られたらということですね? わかりました。いつかユウト様の秘密が聞けるよう頑張ります」

「わ、私も頑張ります」


 別に教えても問題ないが、それで2人のモチベーションが上がるなら黙っている方がいいと判断する。

 そして俺とフローラはリアと別れ、新しくできる店へと向かうのだった。


「資金を出して頂いている身で言うのも何ですが、本当にこの場所で店を初めてもいいんですかね?」


 新しく始める店の前に到着すると、フローラは不安気に言葉を発してきた。

 店は元々あった建物を使うことにしているため、今はリフォーム中だ。それにこの場所を使うことには意味がある。ゼロから店を建てるとなるとそれなりに時間がかかってしまうのと、何より相手を潰すなら徹底的にやるのが俺の主義だからだ。


「どっちが勝つかわかりやすくていいんじゃないか?」

「それはそうですけど⋯⋯」


 フローラが躊躇う気持ちはわからなくもないが、正攻法で戦うならこのやり方が一番相手にダメージを与えられる。


「そろそろ

「たぶんユウトさんの言うとおりになると思います」


 フローラは隣の家主のことをよく知っているため、どんな行動に出るかわかっているのだろう。

 そして予想通り、リフォームしている店内に1人の男が怒鳴り込んできた。


「どこに行ったかと思えば、まさかうちの隣に店を構えるとはな。面倒を見てやった恩を忘れたのか!」

「私が面倒を見て欲しいと頼んだ訳じゃありません。お父さんとお母さんの店を取られて、恩を感じていると思っているのですか?」


 突然現れたのはフローラの叔父であるボーゲンだ。自分の店の隣に、同じ系統の店が入ってきたため、文句を言いに来たのだろう。


「兄と同じで生意気なガキめ!」

「お父さんは偉ぶることもなく、お客様のために商売をしていただけです」

「ずいぶん強気になったものだな。その小僧に唆されたのか!」

「ユウトさんは真実を教えてくれました。あなたがお父さんとお母さんを手にかけて、店を奪ったことを」

「な、何のことだ。私は兄から店を譲り受けただけだ! お、憶測でものを言うなら名誉毀損で訴えるぞ」


 ボーゲンは図星を突かれたのか吃り、額に汗を浮かべている。

 もうその反応でクロだと言っているようなものだな。


「と、とにかくここに店を出しても無駄だ! フローラの店など私の店で潰してやるぞ!」


 そしてボーゲンは捨て台詞を吐くと、逃げるように店から出て行くのであった。

 負け犬の遠吠えかと言いたくなるが、実際サレン商店はボーゲンが実権を握るようになってから売り上げが落ちたとはいえ、まだまだ人気の店であり、普通にやっていたら潰されるのはこちらの方になる。

 だがそうならないための策は既に打ってある。今はこの場所のリフォームを終わらせ、逸早く店をオープンさせることが重要だ。

 だがそれにしても先程のフローラの態度は、普段と比べて強気だったので少し驚いた。これなら臆することなくボーゲンと戦えそうだな。


「フローラも中々言うじゃないか」

「私一人では何も言えなかったと思います。でも今はリシアンサスさんやベルドさん、それにユウトさんがいてくれるから」

「力になれたなら何よりだ。だが向こうの方が知名度がある。フローラにはこれからまだまだ働いてもらうぞ」

「はい! がんばります」


 そして約1ヶ月後、フローラの店がオープンすることになるが、店には数える程の客しか来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る