第22話 ユウトVSオルタンシア
宿屋に戻った後、俺はフローラに訓練を施し、そして夜が明けた。
「おはようございます」
翌日の朝。フローラが俺の部屋に来たが、歩く度に顔をしかめている。たぶん筋肉痛にでもなったのだろう。
昨日のフローラはいつもより熱心に訓練に取り組んでいた。おそらく突如現れたオルタンシアの存在が良い刺激になっているんだ。自分と同じくらいの年ということもあり、身近な目標のように感じているのだろう。リアも年が近いがやはり王女ということもあり、どこか遠慮が見られるからな。オルタンシアとの出会いはフローラにとって良い方向へと進んでいるようだ。
「今日は商売の許可を頂くため、ガルバトルの行政へ行ってきます。ユウトさんは何かご予定があるのですか? もし良かったら一緒に行きませんか?」
「いや、俺は街を散策してくる」
「わかりました」
今日は酒場でオルタンシアの生家を聞いたので行くつもりだ。もしかしたらオルタンシアに会えるかもしれないからな。
そして俺はフローラと別れた後、外套を着て顔を隠し、一人街の北西部へと向かっていた。
「それにしても凄い人だな。王都と比較しても遜色ないぞ」
それだけ神武祭は注目されているというわけか。これは貴族や権力者も多くガルバトルに来ているだろうな。神武祭で勝ち進めば召し抱えられる可能性が高そうだ。
そしてしばらく歩いていると住宅街が多くなり、人の姿もまばらになってきた。
「確かこの辺りのはずだが⋯⋯」
しかし家が密集しており、オルタンシアの自宅を探すのは難しそうだ。
どうするか。闇雲に探すのも時間がかかるため、ここは誰かに聞いた方が早そうだ。
とりあえず外套は一度外すか。顔も見えない相手の問いなど答えたくないだろうからな。
だがこの時、突如ビュンッと風を切る音が聞こえてきた。俺は何の音か気になり、大通りから外れた路地裏に回るとそこには開けた空間があった。
そしてその場所で一人の少女が剣を振っている。
少女の剣筋は無駄がなく美しく、鍛練を日々欠かさず身につけたものだとすぐにわかった。
この年でこれだけの剣術の腕を持っているとは。
それだけ没落した家を再興させたいということなのか。
「誰ですか?」
俺の視線に気づいたのか、オルタンシアが声をかけてきた。
気配は消していたつもりだったんだがな。
「なかなかの腕前だ」
「何ですかいきなり。あなたは⋯⋯」
「鍛練の邪魔をして申し訳ない」
「邪魔だと思うならどこかへ行って下さい」
あからさまに邪険にされているな。
まあフードを被った男が見ていたら怪しいと思うし、気になるのは当然の話だ。
このままだと俺はただの不審人物扱いされ、今後繋がりを持つことは厳しくなるだろう。
そのため、俺はオルタンシアが気になる一言をかける。
「だがまだまだだな」
「どういうことですか!」
先程までこちらのことを見向きもしなかったが、オルタンシアはハッキリとこちらに視線を向けてきた。
「言葉通りの意味だが」
「そう⋯⋯それならあなたの言うことが正しいか教えて下さい!」
オルタンシアは強い口調で言葉を発すると上段から斬りつけてきた。
速い!
だがこちらが丸腰のためか、手加減しているな。
俺は迫ってくる剣に対してバックステップでかわす。
「そのような攻撃は食らわない。本気を出したらどうだ?」
「⋯⋯どうなってもしりませんよ」
オルタンシアは一度俺から距離を取ると深呼吸をする。そして先程とは違い殺気を放っていることから、次の一撃が本気であると窺えた。
この場に緊張感が走る。
俺は目を見開いて、オルタンシアの全ての行動に注視する。
そして風が吹き、数枚の葉っぱが俺の視界を一瞬塞いだタイミングで、オルタンシアが接近してきた。
そのスピードは常人とは思えない速さで、あっという間に俺との距離を詰めてきた。
剣道三倍段ではないが、余程の実力差がないと素手で剣に勝つのは難しい。
だがその常識を覆すことで、オルタンシアは俺に興味を示すであろう。
オルタンシアは剣を居合い斬りのように構える。
防具を着けていない俺がこの攻撃を食らえば、どこで受け止めてもダメージを負うのは間違いない。
そのため、オルタンシアの剣を確実に避ける必要がある。
おそらくオルタンシアの頭の中でも、俺と同じ考えが浮かんでいるはずだ。
だから俺はその考えを逆手に取る。
かわすのではなく、向かってくるオルタンシアに対して俺も距離を詰めたのだ。
「接近してきた!? それならその身体ごと!」
オルタンシアは横一閃に剣をなぎ払ってきたため、俺はさらにスピード上げて接近を試みる。
「うそっ!」
想定外のスピードだったのか、オルタンシアは驚きの声を上げる。
だがもう遅い。俺はオルタンシアがなぎ払う前に手を掴み、そのまま一本背負いで投げ飛ばす。
「がはっ!」
そしてオルタンシアは受け身が取れず、背中をもろに地面に打ちつけたため、苦悶の表情を浮かべていた。
「まだやるか?」
「や、やるわ」
オルタンシアはネコのように素早く起き上がると、一瞬で後方へと下がり、再び剣を構える。
「私は必ず神武祭で優勝をするの! 例え本選じゃなくても、こんな所で負けられない!」
実力の差はもうわかっているだろう。だがそれでも向かってくる負けん気の強さは嫌いではない。
「いいだろう。かかってくるがいい」
俺もオルタンシアの実力をもっと見てみたい。
納得行くまでやってやるさ。敗けて強くなることもあることを教えてやろう。
オルタンシアは再び剣を構える。
次はどんな手を使ってくるのか。俺はじゃっかん楽しみにしていたが。
オルタンシアは剣を納刀してしまった。
「用があることを思い出しました。今日はやめておきます」
あれだけやる気を見せていたのにどういうことだ?
「それでは、次にお会いした時こそ勝ってみせます」
俺はオルタンシアの行動に疑問を持つ。だが当の本人はさっさとこの場を立ち去ってしまうのであった。
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