第23話 転生して演技が得意になった
やる気満々だったオルタンシアが剣を納めるとは。
用があると言っていたが、剣を振ることより大事なことなのか? それが何なのか興味があるな。
俺は気になったのでオルタンシアの後をつけることにした。
するとオルタンシアはすぐ近くの民家に入って行った。
ここはオルタンシアの自宅なのか?
だがさすがに家の中に侵入する訳には行かないな。ここは外から様子を窺うしかないか。
しかし窓にはカーテンがしてある。
そのため俺は部屋の中の様子を探るため、聞き耳を立てることにした。
「お母様大丈夫ですか! また口から血が⋯⋯」
「ゴホッ! ゴホッ! だ、大丈夫よ。それより私のことはいいから⋯⋯ゴホッ⋯⋯あ、あなたはもうこの部屋に来てはダメよ。病気が移ってしまうわ」
「大丈夫です。口を布で覆っていますから。それよりお母様はベッドで横になって下さい」
「長い間何も出来なくてごめんなさいね」
「いいえ、お母様は病気を治すことだけを考えて下さい」
どうやら部屋の中にいるのはオルタンシアと母親のようだ。そして母親の方は咳が出て、口から血を流していることから、肺炎系の疾患にかかっている可能性が高いな。
オルタンシアの用とは母親の世話みたいだ。
どんな病気でも治療には金がかかる。家の再興には母親の病気を治すため
という理由もあるかもしれない。
父親は罪に問われ、母親は病気。権力者に登用されるためにどうしても神武祭は負けられないということか。
バカダ家⋯⋯母親⋯⋯病気⋯⋯神武祭⋯⋯
オルタンシアを引き入れるいくつかの方法が浮かび上がってきた。
後はその方法の精度を上げるために、俺は次の目的地へと進む。
オルタンシアの家を後にした俺は、街の南区画へとやってきた。
「へいっ! らっしゃいらっしゃい!」
「見てくださいこの野菜の種類を! ここでしか手に入らないものもいっぱいありますよ!」
「この焼いた魚を食べれば、さらに酒が進むぞ」
市場は賑わいを見せており、客を引き込もうと店の主達の声が響く。
色々と店を見てわかったが、どうやらこの街は新鮮な食べ物が揃っているようだ。
まあ魚に関しては、街の南に海があるからおかしな話ではない。
これで目的の一つを達成できる可能性が出てきた。
さて次にやるべきことは⋯⋯
俺はこの場を後にしようとしたが、人が多く集まっている場所があったのでそちらに目を向ける。
するとそこにはフローラ達の姿が見えた。
どうやら冷蔵庫の実演を行っているようだ。
なるほど。ここにある野菜や魚は冷蔵庫と相性がいい。冷蔵庫があればこれらの食材を新鮮な状態で遠くに運ぶことが出来るからだ。
そして市場で実演をしているのは、ここにいる人達に売るためじゃない。何故なら冷蔵庫は市井の者が簡単に手が出せる価格ではないからだ。余程の財力がある商人じゃないと購入するのは難しい。
おそらくフローラの狙いは冷蔵庫の存在を広めるためだ。今ガルバトルは権力者達が集まっているため、すぐに冷蔵庫のことは知れわたるだろう。
そしてその権力者が自分の領地に戻り、冷蔵庫の存在をさらに広めるという仕組みだ。
やはりフローラには商売の才能がありそうだな。
俺は活気がある市場を横目に、次の目的地へと向かう。
俺が次に向かった先は街の中央区画だ。
やはりこの場所は街の中心にあるため、貴族が住んでいそうな広い屋敷が多くある。
ちなみに神武祭が行われる闘技場もこの場所にあるようだ。だが今は闘技場ではなく、バカダ家の屋敷へと向かう。
そして程なくしてバカダ家の屋敷に到着すると、入口には門番が二人立っていた。
おそらく屋敷の中にも警護する者がいるから、忍び込むとしたら夜になってからがいいだろう。
だが今の目的は屋敷でもバカダ家の者ではない。
俺は屋敷の入口が見える場所で、ある人物が出てくるのを待つことにする。
そして外の景色が紅くなり、夕日が照らす時間になった頃。
一人の女性が屋敷から出てきたので、俺は外套を脱いで話しかける。
「カレンさんですか?」
「え? 君は⋯⋯」
どうやら当たりのようだ。酒場では二十歳前後の女性としか聞いていなかったため、手当たり次第声をかけたが一発で会えるとは。
俺が探していた人物⋯⋯それはバカダ家の当主が死んだ時、息子達と共にその光景を目撃したメイドだ。
やはりバカダ家の当主が殺された状況が納得出来ない。おそらくオルタンシアの父親は濡れ衣を着せられた可能性が高いと俺は見ている。
「え~と⋯⋯君は?」
「僕はユウト。カレンお姉ちゃんに聞きたいことがあるんだけど⋯⋯」
俺はうるうるとした瞳でカレンを上目遣いで見上げる。
「いいよ。私でわかることなら何でも聞いて」
やはりこの姿は女性の聞き込みが楽でいいな。それだけは転生して良かったといえることだ。
「実は僕、小さい頃に亡くなったバカダ家のおじさんにお世話になったことがあって⋯⋯」
そしてここで涙の一つを流す。
俺は同情を煽るため、バカダ家の当主と知り合いという設定にしておく。
どうせもう確認のしようがないことだ。
「そうなんだ⋯⋯」
涙を流したことでカレンは俺を可哀想な子だと判断したのか、抱きしめてきた。
「それでおじさんの最後がどうだったか聞きたくて⋯⋯お姉ちゃんが知ってるって街の皆が⋯⋯」
「う~ん⋯⋯ちょっとユウトくんにはショックなことかもしれないけど」
「僕知りたい! お願いお姉ちゃん、教えて!」
「わかった。でも私が言っていたって誰にも言わない約束ができるかな」
「うん」
約束? 何かきな臭いがしてきたな。
「バカダ家の当主⋯⋯キルド様と――」
そしてカレンがポツリポツリと当時の状況を口にするのであった。
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