第46話 ガルバトルのその後前編

 ゼノスを斬ると闇が噴き出し、そして二振りの剣に吸い込まれていく。

 相手にならなかったな。

 今の俺は、全開の解放と剣による強化があるから当然といえば当然か。

 そういえば過去にこの剣を使って、ゼノスを封印したという話だったが消えてしまったぞ。

 復活したばかりで弱っていたのか、それとも何か他の要因があるのかわからないがまあいい。

 ゼノスの存在は俺には必要ないからな。

 そして俺は勝利を手に、リア達の元へと戻るのであった。



「か、勝ってしまいました」

「信じられない。今の動き、とても人間業ではないです」

「ま、まあ⋯⋯私は初めから信じていましたけど」

「本当ですか? その割りにはリアさんは狼狽えていたような⋯⋯」

「と、とにかくあの方が私達の想像以上の力を持っていることが証明されましたね」


 リア達は今回の戦いで、改めてユウトに対する尊敬の念を送ることとなった。



「さて、後は頼んだぞ」

「わかりました」


 俺は二振りの剣を地面に突き刺し、この場から離脱する。

 これ以上俺がここにいる意味はない。後はやるべき者が対処するだけだ。

 俺は建物陰に隠れて仮面を外し、倒れた観客達の中に紛れた。

 そして魂を戻されたリシャールや兵士達、大勢の観客達が徐々に意識を取り戻していく。


「うう⋯⋯いったい何が起きたんだ」

「確か闇に呑まれてそれから⋯⋯」

「そうだ! ゼノスが復活したんだ! 早く逃げないと」


 観客達は目を覚まし立ち上がるが、先程とは周囲の様子が違うことに気づき始める。


「おい! 化物がもういないぞ」

「代わりに舞台にいるのはセイン様とクーソの野郎だ」


 ここにいる全員の目が舞台へと注がれる。


「民に仇なす者よ! これ以上の狼藉はこの私が許さない! おとなしく縄につくがいい!」


 セインが膝をつき俯いているクーソに向かって剣を向ける。

 クーソはゼノスが消滅したことで絶望し、目が虚ろになっていた。

 頼みの綱であったゼノスが消滅してしまったんだ。

 奴の待つ運命はもう決まっているな。


「兵士達よ! この者を引っ捕らえよ!」

「は、はっ!」


 状況が上手く飲み込めていない兵士達だったが、セインの命令に従い、慌ててクーソを捕縛する。


「セイン様がクーソの暴走を止めて下さったのか」

「リシャール王子は簡単にやられてしまった相手をセイン様が?」

「セイン様は優しいだけかと思っていたけど、勇敢さも持ち合わせているようだ」


 この様子を見ていた観客達は、セインを称賛し始める。そして声には出さないが、簡単にやられてしまったリシャールには落胆したことだろう。特にリシャールは自分の武を全面に押し出していたからな。


「く、くそっ! 何故このようなことに⋯⋯帰るぞ!」


 そしてリシャールは僅かな兵士を連れて、逃げるようにこの場から去っていく。

 だが結界が張られているから闘技場の外には出れないはずだ。後はクーソからここから出る方法を聞くだけだな。

 とにかくこれで民からのセインの人気は上がり、逆にリシャールは下がるという俺の中の当初の目的を果たすことができた。

 今回の件だけでセインが王に指名されることはないが、少なくとも一歩⋯⋯いや、半歩くらいは前進したはずだ。


「クーソよ。ここから出る方法を述べよ」


 そしてセインが縄で縛られたクーソを問い詰める。


「クックック⋯⋯いい気になりおって。これで勝ったと思うなよ」

「貴様! セイン王子に対して無礼な!」

「私にはまだがいる。さあ! 私を助けよ!」


 クーソは狂信めいた目をして叫ぶ。

 セインや兵士達は周囲を警戒するが⋯⋯何も起きなかった。


「どうした! 私は神に選ばれた者だと言っていたはずだ! このような不当な扱いを受けるなど許されぬことだぞ!」


 神に選ばれた者か⋯⋯どうやら言葉巧みにクーソをその気にさせ、今回の事件を引き起こしたようだ。

 だがこれがヴァルハラの者が関係しているなら、お前を助けにくることは絶対にない。

 奴らは失敗した者に対しては容赦ないからだ。


「早くしろ! 私はここだぞ! 助けにこい!」


 見苦しいな。これが子爵家の当主だと思うと情けなくなる。

 だが元々クーソは当主の座を継ぐことが出来ないという話だったから、初めから器ではなかったということか。


「兵士達よ。この反逆者を牢獄に連れていけ。結界を消失させる方法を吐かせるのだ」

「はっ!」


 そしてクーソはこの場から連れ去られていった。

 ここでは観客達の目があるため、拷問にかけられないからだ。


 こうしてクーソがこの場を去ってから一時間程経った頃、闘技場を覆っていた結界は解かれ、王族の襲撃、ゼノス復活の事件は終わりを遂げるのあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る