第17話 初の実戦

 俺とフローラ、そして店の店員二人は馬車に揺られてガルバトルの街へと向かう。


「ユウトさんが馬車を動かすことが出来て助かりました」


 フローラは御者をしている俺の横に座り話しかけてくる。


「こんなこともあろうかと馬車や乗馬は嗜んでいる」

「乗馬もですか? 何だか貴族みたいですね」


 鋭い質問をしてくるな。

 だがフローラは答えを待っている感じではないので、その問いに対して返答はしない。


「そういえばユウトさんは、何故ガルバトルへ向かうのですか? まさか神武祭に出るつもりでは⋯⋯」


 神武祭は闘技場で行う一対一のバトルだ。

 武器あり、魔法、魔道具なしで生死は問わないらしい。また、再起不能になるか、舞台から場外に落ちると敗けのようだ。

 そして優勝者は多額の賞金を手に入れることが出来る。さらにこの付近の領主達が観戦しに来ており、その場でスカウトされることもあるとのことだ。今までこの大会で優勝することで、王国の親衛隊や将軍になった者もいるみたいだ。


「それもいいかもしれないな」

「でもユウトさんは大人の部には出れませんよ」


 神武祭は年齢によって二つに分かれている。12歳以下は少年・少女の部に出なければならないので、フローラが言うよう大人の部に出場することができない。

 そしてエキシビションとして最後に、少年・少女の部の優勝者と大人の部の優勝者が戦うようだ。

 領主達に情けない姿を見せることが出来ないので、今までの神武祭では当たり前のことながら、大人の部の優勝者が負けたことはないらしい。


「もしユウトさんが少年・少女の部に出場したら反則ですよ」


 まあ12歳以下の子供に勝つことなど、赤子の手をひねるようなものだ。

 だが。


「冗談だ。出場する気はないよ。神武祭に良い人材がいないか観に行くだけだ」

「安心しました。いたいけな少年少女が、ユウトさんに蹂躙される姿を見ないで済みます」

「心外だな。俺がそんなことをするように見えるか?」

「だってその⋯⋯ユ、ユウトさんは私の唇を蹂躙してきたじゃないですか」


 一応強くなるために何でもすると許可は得たんだが。

 しかし乙女心は複雑だという言葉があるように、少し配慮が足りなかったかもしれない。

 ここは甘んじて批判を受け入れるべきか。


「その件に関しては――」


 俺はフローラに謝罪をしようと口を開くが、突如前方から異様な気配を感じて言葉を止める。


「ユウトさん⋯⋯これは」


 フローラも何かを感じ取ったようだ。どうやら鍛練の成果が出ているみたいだな。

 そして遠目だが何かがこちらに接近しているのが見えた。


「あれはゴブリンだな」

「さ、三匹もいますよ」


 緑色の肌を持つ、醜悪な外見の人型生物だ。そして右手には斧、左手には木の盾を装備している。


「少し怖いけどユウトさんがいるなら安心ですね。ここはパパっとやっつけちゃって下さい」


 確かにフローラの言う通り、ゴブリンごときなら瞬きをする間に倒すことができるだろう。

 だがせっかく現れてくれた魔物を有効活用するには、俺が倒さない方がいい。


「も、もう側まで来ていますよ! 早くお願いします!」


 フローラはゴブリンの醜悪な顔がわかるくらい接近されて、焦りの声をあげる。

 そのため俺はフローラは落ち着かせるために、ある策を伝えることにした。


「よし。ここはフローラの出番だな」

「えっ? 今なんて言いました?」

「鍛練の成果をみせる時だ。フローラ、頼んだぞ」


 俺がゴブリンを何とかする策を伝えると、フローラは顔を真っ青にして、絶望の表情を浮かべていた。


「ななな、何を言ってるんですか! 私みたいなか弱い女の子に、魔物が倒せるはずないがないです!」


 自分のことをか弱いと口にするなんて、意外と余裕がありそうだな。

 やはりここはフローラに倒してもらおう。


「店長、どうしたんですか? 大きな声をあげて」


 フローラが騒いだことで、馬車の中にいた店員のトムとジュリがカーテンをめくり、顔を出してきた。


「どうやらゴブリンが出たみたいです」

「「ゴ、ゴブリン!」」

「すぐにフローラさんが追い払うから、二人は馬車の中で待ってて下さい」


 二人が俺の言葉に従ってくれるといいが。下手な正義感を出して子供だけに任せてられない、という展開にならないことを願う。

 それにしても子供の振りをするのは本当に疲れるな。


「わ、わかりました」

「店長お気をつけて」


 そしてトムとジュリは、怯えた表情を浮かべながら天幕の中へと戻っていく。

 良かった。どうやらこちらに全てを任せてくれるようだ。


「そ、そんな⋯⋯」

「さあ、もう時間はないぞ。覚悟を決めろ」


 ゴブリンを迎え撃つために俺は馬車を止める。

 だがフローラはまだ恐怖が勝っているのか、足が前に進んでいない。


「大丈夫だ。普段俺と鍛練しているフローラなら勝てる」

「で、でも⋯⋯自信がありません」

「もしやられそうになったら必ず俺が助ける」

「それならせめて解放状態にして下さい」

「それはなしだ。今のフローラならそんなことをしなくてもゴブリンに勝てるからな。自分を信じられないなら、勝てると言っている俺を信じろ。俺のことは信じられないか?」

「ユウトさんのことは誰よりも信じています」


 フローラは真っ直ぐと俺の目を見据えて言い放つ。

 その瞳にはもう怯えた色は見られない。


「良い子だ」


 そして俺はフローラの頭を撫でる。

 するとフローラは剣を片手に、ゴブリンへと立ち向かうのであった。


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