第18話 調子に乗るととんでもないことが起こる
「ギィギィアッ!」
人間には理解できない言葉を叫びながら、ゴブリンがこちらに向かってくる。
そして剣を持ったフローラがゴブリンを迎え撃つが⋯⋯。
フローラは逃げ出した。
「やっぱり無理です! ゴブリンの顔が怖すぎますぅぅ!」
しかしフローラは回り込まれてしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私なんて食べても美味しくないですよ!」
やれやれ、戦いの最中に相手から目を離すなんて、やってはならないことだぞ。
「大丈夫だ。恐怖を感じるのは顔だけで、攻撃事態は大したことはない。相手の動きをよく見ろ」
「そ、そんなことを言っても――ひぃっ!」
予想以上にまずい展開だな。これは手を貸した方がいいかもしれない。
そしてゴブリンが、フローラの頭部を目掛けて斧を振り下ろす。
もしこの攻撃を食らうようだったら、ゴブリンは俺が始末しよう。
そう考えていたが、フローラは剣を使って見事に斧を受け止めた。
「あれ?」
そして何故か剣で防いだフローラが驚きの表情を浮かべている。
「ユウトさんやリアさんと比べると明らかに攻撃が遅く感じます」
それはそうだ。自慢ではないが、ゴブリンごときに後れを取ることなどありえない。
「これなら⋯⋯いけます!」
フローラは瞳に力強い光を灯すと、受け止めていたゴブリンの斧を剣で弾く。そして体勢が崩れたゴブリンの首を目掛けて剣を突き刺した。
「ギィヤァァッ!」
すると断末魔をあげたゴブリンは首から血を流し、その場に崩れ落ちた。
どうやら大丈夫そうだな。
俺の分析ではまだ緊張しているが、普段の8割くらいの力は発揮しているように見える。
その証拠に、仲間を殺られたことで逆上して迫ってきたゴブリン二匹の心臓を突き刺し、あっさりと始末していた。
「ふう⋯⋯何とか勝つことが出来ました」
フローラは剣を鞘にしまうと、安堵のため息をつく。
「初めの狼狽えた姿はどうかと思うが、よくやったな」
「あの地獄の訓練に比べれば、なんてことはありませんでした」
フローラは先程とは違って余裕の言葉を口にすると、訓練の内容でも思い出したのか、身が震えだした。
「人聞きの悪いことを言う。ただ毎日筋トレと、実戦の緊張感を持ってもらうために、模擬戦で痛みを伴う訓練をしただけだ」
「だけだと言いますけど腕立て伏せ200回、スクワット500回、他にもたくさんのことをやらされています」
「解放された状態なら不可能なことではないだろ?」
「それはそうですけど。訓練のメニューも段々厳しくなっていますし」
「だがそのメニューをこなしていたから、ゴブリンに勝つことができた」
「た、確かにそうですね。あの地獄の訓練を終えたから私は強くなることが出来ました」
訓練はまだ初期の段階なのだが地獄扱いか。しかし初めての実戦を終えたフローラに対して、そのようなことを言うのは野暮なので黙っている。
「どうやら私は最強の座に上り詰めてしまったようです」
ん? フローラが何やら不穏なことを口にし始めた。
どうやらゴブリンに勝ったことでテングになってしまったようだ。
これは良くない傾向だな。自信はいいが慢心をしてしまうと今後の成長の妨げになる。
俺はフローラを戒めるため話しかけようとするが、背後に気配を感じたので口を閉ざす。
「ど、どうなりました?」
「あっ! ゴブリンが倒れています!」
馬車の中から天幕をめくり、トムとジュリが顔を出してきた。
「ええ。見ての通りです⋯⋯あいたっ!」
フローラはどや顔で胸を反らしすぎたせいで、馬車に後頭部をぶつけていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「でもすごいです」
「冷蔵庫や冷凍庫を生み出しただけでもすごいのに強いなんて。さすが店長です」
俺が冷蔵庫や冷凍庫を作ったことは、一部の者しか知らない。そのためトムとジュリからの羨望の眼差しは、フローラだけが受けることになった。
「そ、それは私では――」
「フローラ店長がいれば安全に旅ができますね」
「魔物が来てもフローラ店長がいれば怖くありません」
フローラは否定の言葉を口にしようとしたが、二人の間で話が進んでしまっていた。
だがこの時馬車の前方に異変が起こる。
「話は終わりにして下さい。どうやら新手が現れたようです」
「「「えっ?」」」
三人は俺の言葉に驚きの声をあげると、周囲を見渡し始める。
「ま、また魔物が!」
「それにすごい数だ!」
ざっと見る限り、魔物は20匹以上はいるようだ。何故街道沿いの道にも関わらず、魔物の大群がいるのかわからないが、今は原因を究明するより討伐する方が先だな。
大体はゴブリンだが、一匹だけ明らかに大きさが違う魔物がいる。
あれはトロルだな。
毛むくじゃらで巨体の身体を持ち、人間とは比べ物にならない怪力と再生能力がある。倒すためには一撃で絶命させるか、再生が追いつかないくらい切り刻むしかない。
「な、な、何ですかあの魔物達は! まさか私がいい気になっていたから⋯⋯ごめんなさいごめんなさい! 調子に乗ってすみませんでした!」
フローラはトロル達を見て恐れをなし、涙目になっている。
さすがに実戦経験の少ないフローラに相手をさせるのは酷か。
だが俺が戦うのはいいが、実力を知られたくないからフローラ以外には見せたくはない。
しかしこの時トムとジュリに目を向けると、二人はあまりの魔物の多さに恐怖したのか気絶していた。
これは好都合だな。二人が意識を失っている間に倒してしまおう。
「フローラ下がってろ」
「ユ、ユウトさん」
「ここは俺に任せてもらう」
「はい。お願いします」
そして俺は剣を抜き魔物の大群と対峙するのであった。
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