第37話 破滅へのカウントダウン

 アーホ、クーソside


「バカ者!」


 闘技場の一室にクーソの怒号が響き渡る。

 エキシビションマッチが終わった後、アーホは逃げるように控え室へと駆け込んだのだ。


「も、申し訳ありません。だが何で負けたのか訳がわからず」

「何で負けたかだと? 小僧の足に引っ掛かって場外に落ちたんだ!」

「確かに足がかかったのは認めるが、急に足がすくわれて⋯⋯あのガキが何かをしたんだ!」

「例えガキが何かをしたとしても、お前が実力もない小僧の手によって無様に負けた事実は変わらない」


 アーホはエキシビションマッチを見た人達からは、無能であると認識されたことは間違いないだろう。


「この様子だと例の件も私一人でやった方が良さそうだな」

「兄上! 次は必ず上手くやってみせます!」

「⋯⋯まあいい。どうせここにいる奴らは、お前の敗北を他所で話すことことなど出来ないからな」

「そうです兄上。ただあのクソガキだけは俺の手で殺してやる!」


 控え室でクーソは意味深なことを呟き、アーホはユウトに対する怒りを露にするのであった。


 ユウトside


「それではこれより神武祭の表彰式を始めたいと思います」


 舞台には司会者、神武祭大会委員が三人、王族であるリシャール、リア、セインがいる。

 舞台の横にある銅像の前には大人の部で優勝したアーホが、銅像の反対側にはクーソがいた。

 何故クーソがこの場にいるのか考えたが、おそらく街を救った英雄の子孫だからだろう。


 そしてまずは大人の部の優勝者から表彰されるため、俺はアーホの後方に控えている。

 プライドが高そうなアーホは、エキシビションマッチで醜態を晒したため、表彰式には来ないことも考えた。だがこの場に現れたということは、どうしてもやらなくてはならないことがあるのだろう。


 それにしてもアーホは先程から後ろにいる俺に対して、殺気を向けてきている。

 それなりに離れているとはいえ、もし俺の方が前だったら、後ろから剣でブスリと刺されそうだ。

 だがもしそのような暴挙に出ても、返り討ちにする自信があるけどな。


「では、まずは神武祭大人の部の優勝者から表彰します。今回は王族であるリシャール様から直々に賞金とトロフィーが贈呈されます」


 さてさて何をしてくるのか。

 あくまで聞いた情報だが、アーホよりリシャールの方が武の腕が上らしい。それに舞台に上がる前には、大会委員に剣を預けることになっている。

 自分より武の腕が上の者に、丸腰で向かうのは自殺行為だ。そうなると何か隠し武器を持っているか、実はアーホが魔法の達人だという可能性もある。だがそもそもリシャールを始末してどうやってこの場を逃れるのか。少なくともこの闘技場には五十人近くの兵士がいるため、簡単には行かないはずだ。


「アーホ選手、それでは舞台に上がって下さい」


 司会者がアーホに対して言葉をかける。

 すると観客達から歓声が⋯⋯上がらなかった。

 優勝してこれだけ嫌われている奴も珍しいな。

 だがこれは自業自得だ。

 アーホが日頃から品行方正な行動を心掛けていたなら、擁護する言葉が出てくるはず。

 だがそのような言葉は一切聞こえてこない。

 アーホとしては、観客達に対して怒鳴りつけてやりたい所だろうな。

 しかし王族達がいる前でそのような醜態を見せるわけにいかない。

 このまま怒りに堪えて舞台に上がるしかないだろう。


 だがアーホの足は動かない。

 俯きながらその場に留まっている。


「アーホ選手? 舞台へと上がって下さい」


 司会者が再度促すが、それでもアーホの足は進まない。


「どうしました? 早く舞台へ。王族の方々に失礼ですよ!」


 アーホの様子に観客達もざわつき始める。

 司会者もアーホの態度に語気を強め、苛立ちを見せていた。


「くく⋯⋯くくく⋯⋯」


 そして突然何を思ったのかアーホが笑い始める。


「王族だと? 過去にたまたま力があって、国を起こしただけしゃないか」

「なんだと?」


 アーホの不貞と思われる言葉にリシャールが怒りを示す。


「貴様、何が言いたい。王族を愚弄しているのか?」

「そうだとしたらどうする? この国を⋯⋯いや、この世界を統べるのは、ファントムマスターゼノスを封印したバカダ家が相応しい」

「たかが子爵家がデカい口を! それこそ私がその時代にいたらゼノスを倒していたぞ!」


 互いにありえないことを⋯⋯机上の空論を述べている。


「だったら試してみるか?」

「試すだと?」


 アーホは腰に差した剣を抜く。

 これでもう冗談では済まされない状況になったな。

 だがこれは⋯⋯昨日までとは剣が違う。剣身の部分には【Ⅹ】の文字が刻まれていた。

 普通の剣に見えるが。あの剣は膨大な魔力を持っている。

 鞘が魔力を封じる役目をしているのか、気づくのが遅くなってしまった。


「私に刃向かうつもりか? いいだろう。!」


 クーソもアーホの味方をするためか剣を抜く。


 これもアーホの剣と同じで、剣身に【Ⅹ】の文字が刻まれている。あの剣で王族達を殺害するつもりなのか? だが仮に成功したからといって、兵士達に囲まれて自分達の命も危うくなるはずだ。

 この状況を打開する方法があるとすれば、剣に秘密があるか、もしくは他にも協力者がいるかだ。


「我一族の悲願を叶えるぞ」

「正当なる世界のために」


 そしてアーホとクーソは盲信めいた願いを口にして、

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