第3話 授けられた力
リシアンサス王女にキスをすると俺達を中心に風が巻き起こる。
「こ、これは⋯⋯」
リシアンサス王女は自分の身体の変化に、思わず目を見開いてしまう。
「う、嘘!? 本当に力が!?」
リシアンサス王女自身も、本当に力が手に入るとは思っていなかったのだろう。この絶望的な状況で、藁にもすがる思いで俺を受け入れただけだ。
「身体能力、魔力、思考能力が強化されているはずだ」
俺の力は解放。この異世界に来た時に、女神だと名乗る者から授けられた力だ。
そう⋯⋯時は遡り、あれは前世で命を失った後。俺は真っ白な何もない空間に飛ばされた時だ。
「ここは⋯⋯確か俺は死んだはず⋯⋯」
この異様な空間、何より自分の身体を確認するため、腕に視線を向けるがそこには何もなかった。これは魂にでもなってしまったと考えるとべきか。
「その通りです」
どこからともなく声が聞こえると、突然目の前にホワイトブロンドの髪色をした女性が現れた。
均整の取れた顔と身体、大きな瞳、鼻筋が綺麗に通っており、同じ人間とは思えないくらい整った容姿をしている。
「褒めて頂きありがとうございます」
「えっ? 声に出していましたか」
初対面の人? に対して失礼なことをしてしまった。女性の容姿を声に出して批評するなんて最低だ。
「自分を攻めないで下さい」
ん? 声に出していないよな? だが今この女性は的確に俺の言葉に対して返答してきた。まさか⋯⋯
「そのとおりです。私はあなたの心を読むことが出来ます。何故そのようなことが可能かと言いますと、私はあなたがいた世界で言う女神と呼ばれている存在だからです」
「なるほど。女神様ですか。どちらにせよ失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「驚きました。ここまで順応が早い人は初めてです。大抵の方は命を失ったことが認められず夢だと叫ぶか、私を化物扱いしてきます」
俺が死んだのは確実だ。
そうなると夢だという選択肢はなくなる。後は化物だという線だが⋯⋯女神様が美し過ぎてその考えは思い浮かばなかった。
「ふふ」
女神様が突然笑顔を見せる。
おっと。考えは読まれているんだな。変なことを思い浮かべないように自重しなければ。
「それで私は死後の世界に送られるのでしょうか?」
出来れば天国に行きたいが、それは俺が決められることじゃない。現世で積んだ徳が必要だというなら、今さらジタバタしても仕方のないことだ。
「あなたは新たな生を受け、別の世界に転生します」
「わかりました」
輪廻転生というやつか。人は何度も生死を繰り返すと言われていたが本当だったようだ。
新たな人生を過ごすのも悪くはない。だがやはり目標が達成出来なかったことが心残りだ。
転生したら当たり前のことだが記憶がなくなる。願わくは他人を陥れる人間には転生したくないな。
「大丈夫です。私の力で記憶を持ったまま転生させます」
「ほ、本当ですか!」
これなら現世で達成出来なかったことが出来るかもしれない。
「あなたは新しい世界で何を望みますか?」
「俺は⋯⋯綺麗事かもしれないけど誰もが幸せに過ごせる世界を作りたい。権力者が何をしてもいいという世界を壊したいです」
「ですがあなたは現世でその目標を達成出来なかった」
「⋯⋯そのとおりです」
「転生先の世界は過酷です。酷なことを言いますが何故失敗したかわかりますか?」
「⋯⋯はい」
従兄弟の派閥は金や権力、法に触れるような汚い手段をなりふり構わず使ってきた。対する俺は綺麗事ばかり並べて、いつか従兄弟もわかってもらえると甘いことばかり⋯⋯
もし非情に徹していたら、おそらく俺は今ここにはいなかったはずだ。
「そのような考えでは、また志半ばで倒れることになるでしょう」
「⋯⋯⋯⋯」
俺は返す言葉もなかった。
女神様の言うことは何一つ間違っていなかったから。
「あなたの死後。財閥は武器の開発、輸出を行い、結果地球は人が住める環境ではなくなり、世界は滅んでいます」
「まさか俺が死んでしまったことが関係して⋯⋯」
女神様は残酷にも首を立てに振る。
「そ、そんな⋯⋯」
俺が後継者争いに破れたせいで、全ての人類が死んでしまったというのか。
俺は衝撃的な言葉に愕然となると同時に、自分の甘い考えに絶望した。
俺の行動で世界が⋯⋯
「ですが私はあなたが成そうとしている使命を好ましく思っています」
突如女神様の両手から白く眩い光の玉が現れた。
「転生した世界であなたの夢が叶うよう、力を授けます」
そして光の玉が俺の目の前まで来ると、さらに輝きが増して目を開けていられなくなる。
「これは⋯⋯【解放】?」
「その通りです。その力を使ってあなたの願いを叶えて下さい。そしていつか私の本当の望みを⋯⋯」
女神様の声が途切れる。
そして俺は意識を保つことが出来なくなり、これは新しい人生に転生するんだと直感的に把握した。
記憶を持ったままの転生に、新しい力。
女神様は俺の願いを叶えるために、最大限の助力をしてくれた。
次の世界では絶対に失敗する訳には行かない。
甘い考えは捨てて冷徹に、ただ粛々と目的のために行動するだけだ。
俺は女神様への感謝の気持ちと、もう二度と失敗しないという誓いを胸に新たな世界へと旅立つのであった。
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