第5話 理不尽な目に遭っている子がここにもいる

 声が聞こえた店の名前を見ると、そこにはサレン商店という看板が表示されていた。

 店の中には剣や盾、鎧やアクセサリーなどが売っているため、ここは武器屋のようだ。


「ちっ! せっかくここに置いてやってるのに、満足に業務をこなすことが出来ないとは。フローラは何年この仕事をやってるんだ!」

「ご、5年です」

「5年もやってこの程度の仕事しか出来ないなら、自分の店を持つことなど到底無理だな。俺が継いでやったから、今店は存続することができたんた。感謝しろよ」

「はい。ありがとうございます」


 俺と同じ年くらいのフローラと言う少女は、元気に感謝の言葉を述べているが、それが偽りのものだ。

 表の顔とは裏腹な言葉を使う人生を歩んで来た俺にはわかる。

 フローラはあの中年男の言葉には、全くもって納得していないだろう。

 それにしてもあのフローラという少女⋯⋯使えそうだな。

 年が幼く、商人としての経験も5年あるため、もしかして俺が望む人材かもしれない。


「少し探って見るか」


 俺はフローラという少女に興味を持ったため、サレン商店の前で串焼きを販売している露店へと向かった。


「うわ~この串焼き、取っても美味しそうだなあ。何のお肉を使ってるの?」

「これは鳥の肉だよ。一本銅貨2枚だけど食べるかい?」

「うん。はいこれ」


 俺は露店を出しているおばちゃんに金を渡す。

 それにしても子供のように喋るのは疲れるな。薬で子供になった某探偵の苦労がわかるぞ。


「あいよ」


 俺が銅貨を渡すとおばちゃんから串焼きが渡される。醤油っぽい物で味付けをしているようで、元日本人の俺としては匂いからして美味しそうだ。

 ちなみに日本の通貨と比べると、銅貨1枚は100円。銀貨は1万円。金貨は100万円。白金貨は1億円だ。

 この串焼きは銅貨2枚だから、日本円でだいたい200円くらいの価値になる。

 そして俺は渡された串焼きを食べると、少ししょっぱい味が口に広がる。


「美味しい~こんなに美味しい串焼き食べたことないよ」


 日本の味を知っている俺にとっては、ちょっと美味しいくらいの味だったが、おばちゃんと円滑なコミュニケーションを取るために、あえて演技をする。


「そう言ってくれると嬉しいねえ」

「王都ってやっぱり美味しい食べ物があるんだね」

「その口ぶりからすると王都に来たのは初めてかい?」

「うん。早く友達ができるといいなあ」

「がんばりなよ。辛くなったらうちの串焼きを食べにきな。サービスするよ」

「ありがとう。そういえば向かいのお店に、僕と同じくらいの歳の子がいたけど、友達になれるかなあ」

「フローラちゃんかい。そうなってくれると嬉しいけど⋯⋯」


 おばちゃんの顔が突然曇る。どうやら何かあるようだ。


「最近フローラちゃんは店の手伝いばかりでね。これもフローラちゃんのお父さんとお母さんが、亡くなっちまったからだ」

「どういうことなの?」

「フローラちゃんのお父さんとお母さんが盗賊に殺されて、叔父のボーゲンがサレン商店の跡を継いだんだけどね。フローラちゃんを引き取った後は外で遊ばせてないんだよ。一度私も文句を言ったら、これがうちの教育方針だって理屈っぽいことを口にしてきて。さっきもフローラちゃんを怒鳴ってたし⋯⋯って私は子供に何を言ってるんだろうね。ごめんよ、今の話は忘れてちょうだい!」

「僕も変なことを聞いてごめんなさい」


 親も亡くなって後継人がさっきの男なら、おそらくフローラは頼る相手がいないと思われる。


「それじゃあ僕はもう行くよ」

「毎度あり。また来てね」


 俺は露店のおばちゃんと別れた後、フローラのことが気になって再び調査を始める。

 すると先程露店のおばちゃんから聞いていたように、フローラに対する扱いは酷いものだった。

 家の手伝いということで働いても給与はもらえず、父親の店は乗っ取られ、叔父には理不尽とも言える内容で毎日叱責され、時には手を上げられることもあるという。

 もしかしたら店の権利はフローラにあるけど未成年なため、叔父が管理しているのかもしれない。だからフローラが店の権利を手放すように虐げて、逃げ出すのを待っている可能性がある。

 周囲の人からの話だとフローラは、サレン商店をとても大事にしているという。どんなにきつい仕打ちを受けても、逃げ出す訳にはいかないといった所か。

 俺はフローラと直接話をする機会を作るため、今日は王都の東区画にある自宅へと戻ることにした。


 俺は王都には2つの土地を持っている。1つは今住んでいる一般的な家で、周囲には中級層クラスが多く暮らしている。そしてもう1つの土地は、王都の中央区画に近い位置にあるが、まだそこには何も建っていないので、拠点と呼べるような場所ではない。いつかその土地も有効活用したい所だが、今はその時ではないので、とりあえず今は放置している。


 そして俺は翌日。ある場所に行った後、再びサレン商店へと向かっていた。

 店内にはボーゲンとフローラの姿が見えたので、店の中へと入って作戦を決行する。


「すみません」

「いらっしゃい⋯⋯ってなんだガキか」


 俺はボーゲンに話しかけるが、暴言が返ってきた。とても客に向かって言う言葉じゃない。

 おそらく俺の容姿が子供に見えるため、侮っているのだろう。


「そこにあるショートソードを2本と、アクセサリーをいくつか買いたいんですけど」

「ここはガキが来る所じゃない! 店から出ていけ!」


 子供は客じゃないと言っているようなものだったので、俺は目の前にいるボーゲンを黙らせるため、家から持ってきた金貨を見せる。


「こ、これはこれはお客様でしたか。よく見るとお坊ちゃんは精悍な顔つきをしていますなあ」


 金を持っているとわかった瞬間に態度を変えるとは。こういう奴は信用出来ない。とりあえずさっさとやることをやってしまおう。


「そういうのはいいから。全部で銀貨70枚でいいよね?」

「は、はい」

「でも持って帰るのがめんどくさいから、そっちの女の子が僕の家まで運んでくれないかな。そうすれば金貨1枚で買うよ」

「すぐにあの役立たずに運ばせますので、金貨1枚でお願いします!」

「それじゃあお願いします」


 予想通り多めに金を払うことで、フローラの時間を簡単に買うことができた。

 これでゆっくりフローラと話すことができるな。


「お客様がお待ちだ! 早く運ぶんだ!」

「は、はい!」


 フローラは突然のことで驚いているが、金は支払ったのでここは俺についてきてもらう。

 俺達はサレン商店を後にして、王都の中央区画へと向かう。

 そしてフローラはしばらく無言で俺の後についてきたが、ある場所に到着すると驚いた声を上げるのだった。











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