第40話 ファントムマスターゼノス

 やはりそうか。

 あの銅像にはゼノスが封印されていたのだ。

 そしてクーソとアーホはかつて封印した剣を使い、ゼノスを復活させたのだ。


 まさか今回の件は? それなら尚更仮面を取るわけにはいかない。今はまだ俺の存在を知られる訳にはいかないのだから。


「ゼノスだと!? バカな!」

「バカは貴様だ。この異様な状況を見てまだわからないのか?」

「王族を愚弄する貴様は必ず殺す! だがその前に、まずはその自信の源を打ち砕いてみせよう」


 仮にも王族と言った所か。

 狼狽えたがすぐに落ち着きを取り戻したな。


「さあゼノスよ! ここにいる奴らを皆殺しにするがいい!」


 ゼノスはクーソの命令に従い、その場で鎌を振るう。

 すると鎌から黒い刃が発生し、俺とリシャール王子へと向かってきた。


 速いが避けきれないものではない。

 だが何故か直感的に、この刃を受けきることは危険だと感じた。そのため俺は剣では受け止めず、刃を避ける。


「この程度の攻撃で私を殺れると思うな!」


 だが俺とは違い、リシャールは刃を剣で防ぐことにしたようだ。

 しかしその選択が間違いだった。


「何!? バ、バカな⋯⋯」


 剣で受け止めたはずのリシャールだが、黒い刃は剣をすり抜けた。

 そしてリシャールの身体は切り刻まれる⋯⋯ことはなかった。


「す、すり抜けた⋯⋯だと⋯⋯」


 リシャールは刃を食らったはずだが、怪我をしている様子はない。

 これはどういうことだ?


「くっくっく⋯⋯偉そうなことを言っていた割には大したことないな。一瞬で勝負がついたか」


 リシャールはダメージを受けていないはず。だがリシャールはクーソの言葉通り、地面に倒れてしまった。

 そしてリシャールの身体から、掌サイズの白い球状のものが抜け出し、ゼノスが背負っている壺へと吸い込まれていく。


「リシャール様!」


 霧がなくなったことで、兵士達がリシャールの元へ駆け寄る。


「やれ! ゼノス! 王族の手先も片付けてしまえ!」


 ゼノスはクーソの命令に従っているのか、再び鎌を振り下ろし黒き刃を兵士達へと飛ばす。


「くっ! 怪しげな攻撃を!」


 兵士達は剣や盾で黒き刃を受け止める。だがやはり黒き刃はそれらをすり抜け、兵士達にダイレクトで攻撃を与えていた。

 兵士達は先程のリシャールと同様に、ダメージを食らっていないはずだ。しかし兵士達は地面に倒れ、そして白い球状のものがゼノスの壺に吸い込まれていく。


 あれはまさかとは思うが⋯⋯


「魂を抜き取っているのか?」

「ほう⋯⋯気づいたのか。ファントムマスターゼノスの漆黒の鎌から繰り出される刃に触れると、魂が抜かれる。ゼノスは魂喰いソウルイーターとも呼ばれているのだ」


 俺が危険だと感じたのは間違いではなかったという訳か。それにしてもまさか一瞬でリシャールが殺されるとは思わなかった。これで今後のプランに大きな修正が必要となってしまった。

 いや、だがリシャールは本当に死んだのか?

 クーソは「一瞬で勝負がついたか」と口にしていたが、勝負とは生ぬるい言葉だ。

 黒き刃で斬られた瞬間に絶命しているなら、殺すや死んだという言葉を使ってもいいはずだ。


「リシャールは本当に死んだのか?」

「今はまだ辛うじて生きている。だが一時間もすれば壺の中で魂は消滅し、完全に死に絶えるのだ」


 自尊心が強い奴は本当に助かる。

 優越感に浸りたいのか、ペラペラと喋ってくれるからな。


「それなら時間内にゼノスを倒せばいいということか」

「誰だか知らんが、お前ごときにゼノスが倒せると思うなよ」

「やってみなければわからないさ。俺は0%と100%は嫌いなんでね」


 絶対に勝てない、100%勝てるものなどないと思っているからな。どんな相手だろうが、あらゆる手段を使えば確率など覆せるはずだ。


「ちなみにお前がゼノスに攻撃されないのは、何か魔道具を持っているからだろ?」

「御名答。よくわかったな。だがそれを教えてやるほど優しくはないぞ」

「それなら最後に一つだけ。その魔道具も剣も【ヴァルハラ】の奴らからもらったのか?」

「⋯⋯さあな」


 クーソが答えるのに間があった。やはり自らを神と名乗るヴァルハラの奴らが関与していたか。

 奴らは魔法や、今の時代では到底作れない希少な魔道具を独占している。

 アーホとクーソも奴らの後ろだてがあったから、リシャール殺害の行動に移せたというわけか。


「お喋りの時間はもう終わりだゼノス! ここにいる者達は皆殺しにしろ!」


 ゼノスはクーソの命令で、黒き刃を無造作に撃ち放つ。

 俺は攻撃をかわすことができるが、観客達は黒き刃の餌食となっていく。


「ひぃっ!」

「な、なんだこれは!」

「リシャール王子も兵士達もやられているぞ! 早く逃げろ!」


 ゼノスの攻撃が観客達に向けられたことで、益々パニックになっているな。

 それにしても避難し始めてから数分経つが、一向に観客達の数が減らない。

 これはまさかとは思うが⋯⋯


「虫けら共が。無駄なことを」

「まさか逃げられないようにしているのか?」

「意図してやったわけではないがな。ゼノスが復活した際には被害を広めないために、結界が張られることになっているのだ」


 観客達が聞いたら、さらに慌てふためく姿が目に浮かぶ。

 猛獣がいる檻の中に閉じ込められたようなものだからな。


「それだとお前もここから出ることが出来ない⋯⋯いや、どうせ自分では何もできないから、ヴァルハラの奴らに何とかしてもらうつもりか?」

「舐めたことを⋯⋯それ以上口を開くな! まずは貴様から片付けてくれるわ!」


 そしてゼノスはクーソの命令に従い、こちらへと向かってくるのだった。

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